危険な外債投資を再び促す日銀緩和

すでに量的緩和の規模は年35兆円に縮小。ジャパンマネーは国内回帰へ

2018年5月2日(水)アナリスト工房

過去2年間の大きな失敗にも懲りず、日本の投資家が再び外債投資を積極化しています。

今年4月、第3週までのわが国から海外中長期債への対外投資は、わずか3週間でなんと1.16兆円の買い越し(先週26日の財務省公表データに基づく)。年度はじめの4月の買い越し額は、為替ヘッジをつけた"ヘッジ付き外債投資”がブーム最盛期だった2016年(その年の4月は1カ月間で0.62兆円の買い越し)をすでに大きく上回りました。

続く第4週(先週)は外債投資の影響とみられる円安が一段と進行したことから、今年4月の日本の外債買い越し額は、年度はじめの月としては2007年(4月は1.27兆円の買い越し)以降の最大となる可能性が高い

為替が円安・ドル高しかもややユーロ高へ振れていることから、今年度は円買い・外貨売りの為替ヘッジをつけない”オープン”とユーロ建て債の投資比率がいくらか増加傾向とみてとれます。とはいえ、ジャパンマネーが向かう外債の大半は、いまも借金大国アメリカの国債、住宅ローン債券、社債などドル建ての債券です。

ドル建て債券の利回りは、その債券の信用リスク(デフォルトの危険)や流動性リスク(投資家が売りたいときになかなか売れない危険)に伴うスプレッドを米国債利回りに上乗せして決まるため、米国債市場の影響がダイレクトに反映します(次式)。

ドル建て債券の利回り = 米国債利回り + スプレッド

▼日本の富が海外で投機筋に奪われていく理不尽なカラクリ

一方、CTA(トレンド追従型の先物売買が特徴のヘッジファンド)など海外投機筋は、先物主導で米国債を大量に売り浴びせ、無防備な日本の投資家を早くも激しく攻撃しています。

先週4月24日、大口投機筋の10年米国債債先物の持ち高は、元本460億ドルのショート(売り持ち)へ膨らみ、債券バブル崩壊を引き起こしたトランプご祝儀相場のとき(2017年2月は一時元本410億ドルのショート)を上回り過去最高を更新しました(4月27日にCFTC(米先物取引委員会)が公表)。

翌25日の現物の10年米国債は、一時利回りが3.03%まで急上昇(価格が急落)し、2014年1月(利回りは一時3.05%まで急伸)以来4年ぶりの水準となりました。債券市場では、今後もしも10年米国債が利回り3.05%を突破した場合には、2011年4月のピーク3.6%までさらに利回り急騰(価格急落)していくとの予測が多い。

米国債が利回り急騰(価格急落)するときは、市場参加者が信用リスクや流動性リスクに対し慎重になるケースが大半。そのとき住宅ローン債券や社債は、ベースの米国債利回りだけでなく上乗せされるスプレッドも拡大するため、いっそう大きく価格が急落します。

ドル建ての債券価格の下落は、日本勢の外債投資で大きな割合を占めるヘッジ付きでは、円買い・ドル売りの為替ヘッジのリバランス(再調整)に伴う円売り・ドル買いが生じるため円安・ドル高への要因。

ところが、日本の機関投資家のリバランス操作はたいてい月1回なので、円安・ドル高へ導くのは先回りしてサッサと円売り・ドル買いを行う海外投機筋です。そして日本勢は、投機筋の為替売買が形成した円安・ドル高の不利な水準で円売り・ドル買いを強いられています(ヘッジ付き外債投資の必敗の仕組み)。

逆に、ドル建て債券価格が上昇したときの日本勢の為替ヘッジのリバランス操作は、円高・ドル安の不利な水準での円買い・ドル売りとなります。

このようにヘッジ付き外債投資は、債券の価格が上下するたびに為替ヘッジ取引での差損が積み上がるとんでもない仕組みなのです。

なお為替ヘッジなしのオープンの場合でも、2011年以降のアメリカは国家デフォルト騒動と政府機関閉鎖を繰り返していることから、米ドル建ての債券への投資はドル暴落とデフォルトのリスクが大きい

▼日本の緩和縮小率は撤退モードの欧州並み。ともに年内に緩和終了か

そんな危険な外債投資を日本の機関投資家(金融機関、保険会社、投信など)に促しているのは、わが国の量的緩和(中央銀行が市場で大量の金融商品を買い取ることにより資金供給する金融政策)です。

すでに日銀が日本国債の43%も買い集め保有する(2017年12月末時点)なか、機関投資家は売ってしまった自国の国債に代わる新たな債券を買い直す必要があります。国内の国債以外の債券は発行額が不十分なため、投資マネーは海外の借金大国へ向かうしかないのが実情です。

量的緩和で日銀が買い取った金融商品の2018年4月末時点の保有高は、前年同期に対し国債が29兆円増、ETF(上場株式投信)が6兆円増(*)。すなわち、最新データに基づく足元の日銀緩和の規模は計35兆円で、ピーク(2016年8月末時点での国債とETFの日銀保有高に基づく緩和規模94兆円)からなんと63%も縮小しています(図表)。

今年4月末時点での日銀緩和の縮小率63%は、実は欧州中銀(足元の量的緩和の規模は月300億ユーロで、過去のピーク時の月800億ユーロに対し63%縮小)とまったく同じです。とはいえ、欧州中銀がテーパリング(緩和の縮小・撤退)することをあらかじめ公表のうえ縮小に踏み切ったのに対し、日銀のテーパリングは縮小しはじめて2年経ったいまも未公表のまま。

もしもわが国のテーパリングがかなり進んでいる事実が今後の方向性とともに正式発表されれば、日本勢の危険な外債投資に歯止めがかかるだけでなく、すでに海外流出して悲惨な目にあっているジャパンマネーが国内回帰しはじめると想定されます。その大量のマネーは、テーパリング終了後の将来懸念される日本国債の利回り急騰(価格暴落)を抑える効果を発揮できるでしょう。

2014年のアメリカの量的緩和終了と同じ時期に日本が追加緩和に踏み切るとともに欧州が緩和をはじめたことから、当時の日・欧緩和の目的は緩和に伴う物価高を通じて円安・ユーロ安にしドルの価値を守ることを狙った"集団的ドル防衛”と見受けられます。インフレ率2%は緩和の真の目的ではなく、ドル防衛のために自国通貨安を引き起こすための手段にすぎない

時は流れ、アメリカの産業競争力と雇用を取り戻したいいまのトランプ米政権は、貿易黒字国の自国通貨安への誘導を繰り返しけん制していることからも、あからさまなドル安志向です。量的緩和の目的(ドル防衛)が消滅しただけでなく、緩和を続けたままではアメリカとの貿易交渉が不利になる危険があります。続けられない緩和は終わらせるしかない

今年9月まで月300億ユーロの欧州中銀の量的緩和は、以後12月まで月100億ユーロを最後に終了するとの観測が強い。このまま日欧がテーパリングの並走を続け、ともに年内に緩和終了するかもしれません。

アナリスト工房 2018年5月2日(水)記事

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*)日銀の国債保有高が前年同期に対し29兆円増(2018年4月末時点)の内訳は、長期国債が48兆円増、国庫短期証券(短期国債)が19兆円減。すなわち量的緩和の規模縮小は、わが国の中央銀行が国庫短期証券の保有高を減少させることで市場から資金を回収したことによる。