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ビジネス流トランプの軍事リストラ

米軍は収益化できない限り海外撤退。膨らむ軍事予算は未消化へ

2019年3月20日(水)アナリスト工房

2月末の米朝首脳会談は想定外の物別れに終わったにもかかわらず、翌週には大規模な米韓合同軍事演習3件(毎年実施されてきた3月の2件と8月の1件)が事実上打ち切りとなった背景には、アメリカの深刻な財政赤字に伴う政府債務問題があります。

3月1日に法定上限が適用されはじめた米連邦政府の債務残高は、財務省の日報によると、以降22.0兆ドルの水準に張り付いたまま推移中。実は、オバマ前政権のときに債務残高がほぼ倍増し(09年1月が10.6兆ドルに対し17年1月が19.9兆ドル)、アメリカの財政規律が失われてしまったのです。

いまのトランプ政権は、メキシコ国境沿いの壁建設などをめぐり、米議会(とくに下院の過半を占める野党民主党)との関係がすっかり悪化してしまいました。議会承認を要する政府債務残高の法定上限引き上げは、来年度はじめの19年10月以降となる可能性が高い
その場合には、米財務省は政府債務をまかなう米国債の発行残高を7カ月にわたりまったく増やせません。もしも、債務上限の引き上げ前に財務省の必死の資金繰りが行き詰まると、アメリカは国家デフォルトに陥ります。

米政権が大規模な米韓合同演習を3件も打ち切ったのは、米国デフォルトを防ぐために、19年9月までの今年度の軍事予算の一部を未消化に終わらせる作戦と推察されます。
反面、北朝鮮が核施設を(アメリカの要求どおり2つ閉鎖でなく)1つも閉鎖していないことから、「アメリカは北朝鮮の核保有国としての立場を事実上容認した」との解釈も適切です。デフォルト防止のためには、背に腹は変えられないのが世界最大の借金大国アメリカの実情でしょう。

「韓国との軍事演習を行いたくない理由は、韓国が負担してくれない何百万ドルもの財政支出を節約するためさ。それは、私が大統領に就任するはるかに以前からの方針だった。また、この機会に北朝鮮との緊張を緩和しておくことは良いことだ!」
トランプ米大統領(Mar 3rd 2019)Twitter

朝鮮半島での米軍の活動縮小に先立ち、歴代の米政権が7兆ドル以上も費やしてきた中東では、19年1月からシリアとアフガニスタンの米軍の人員縮小・撤退が本格化しました。軍事活動の必要がすっかり薄れた在韓米軍は、次の撤退対象の最有力候補と推察されます。

本国へ帰還する軍人たちのために、トランプ政権が開拓した新たな配置先はメキシコとの国境沿いです。中南米からの米国移住を目指す集団を阻む目的で、18年11月から米軍が国境防衛のための壁建設とパトロール活動を開始。それまで国境警備の予算でまかなっていた壁とパトロールは、新たに豊富な軍事予算も活用できるようになりました(トランプの政府機関閉鎖は天敵追討)。

帰還した米軍が弾道ミサイルなど超高価な兵器のいらない国境防衛を担うことにより、現場の軍人たちの雇用が守られるとともに、アメリカの財政を最も圧迫してきた軍事費の抑制効果が期待できます。財政支出が抑えられることにより、米財務省は19年9月末までの今年度の資金繰りをこなし続け、債務上限引き上げ前のデフォルトは回避できるでしょう。

▼戦争屋への資金はきっぱり断ち、米軍駐留の口実はつくらせない

3月11日にトランプ政権が米議会へ提出した来年度の予算教書(19年10月からの連邦政府予算の方針案)のなかで注目されるのは、世界各地で政情不安を引き起こし政権転覆の工作を担ってきた国務省の予算が、今年度に対し23%も減少すること。しかも3年連続の予算激減は、反トランプ抵抗勢力の軍産複合体(戦争屋)の頂点に立つ国務省の実質解体と解釈できます。
各地に紛争の火種をまき米軍の海外派兵の口実をつくってきた資金が絶たれることにより、アメリカの軍事費抑制の効果は将来にわたり続くでしょう。

来年度の予算教書が公表された直後、国務省は政権転覆工作に失敗したベネズエラの米大使館から外交官全員の引き揚げを完了(3月14日発表)。アメリカが"ベネズエラ暫定大統領”に祭り上げたグアイド国会議長は、クーデターに失敗したまま現地に取り残されてしまいました。軍産複合体の息のかかったグアイド氏は、ベネズエラの国民だけなく軍人の支持がほとんど得られていません。

原油埋蔵量が世界一で本来豊かなはずのベネズエラは、アメリカの経済制裁を受けて米ドル口座へ自由にアクセスできず、輸出先の国々が振り込んだ原油代金を国内へ十分に持ち込めません。原油掘削資金を欠き油田稼働率が低迷中のベネズエラは、2017年からは対外債務を返済できず国家デフォルトに陥るとともに、超インフレ状態が続いています(ドルと米軍を退けるベネズエラ騒動)。

経済困窮の元凶アメリカの傀儡グアイド氏が、ベネズエラの人々の多数の支持をを得て正式な大統領となる可能性はゼロに近い。そのことをクーデターの工作失敗に機に痛感した米国務省は、ベネズエラの原油利権めあての米軍派兵をあきらめ、在ベネズエラ米大使館を閉鎖するしかなかったと推察されます。
ちなみに、19世紀のペリー提督が日本を大砲で脅しながら開国と通商を迫ったときには、国務省は中国の麻薬利権に触手を伸ばしていました(下記)。

「ペリーは相手を軽蔑しにかかっていた。なんと見下げた男だろうか。ああ、そうか、マーシャルは国務省の輩なのだ。(中略)いくらチャイナの利権が欲しいからと、アヘンを使うだなんてやり口は卑劣だ。ジャパンを開国させるにあたっても、そんな正義に悖るような手を、私は使おうなんて思いません」
佐藤賢一『ペリー』角川書店(2011)

▼駐留諸国への無理難題「コストプラス50」が米軍撤退をさらに加速

トランプ政権の軍事リストラは、米軍の海外からの撤退と海外駐留の口実解消による費用削減策だけではありません。その最大の目玉は、駐留先の国々へ駐留費用に50%を上乗せし請求する「コストプラス50」の政策構想です。

例えば、これまで海外米軍の駐留費用のうち、駐留国の負担割合はおおよそ日本が75%、韓国50%、ドイツ30%でした。今後コストプラス50が適用された場合には、負担額はなんと日本が2倍(=150/75)、韓国が3倍(=150/50)、ドイツが5倍(=150/30)の水準に跳ね上がります。
米軍駐留費用の駐留国の負担割合が一部から100%全額へ上がるだけでなく、その費用全額に対し50%の利益が上乗せされることにより、駐留各国のアメリカへの支払額が数倍に膨らむのです。

まるで、米軍が傭兵ビジネスに新規参入するかのようですね。
会計上は費用だけが生じてきた軍隊に対し外国から利益を稼ぐよう求めるコストプラス50は、企業の"コスト部門(経理、システム管理など)"に対し他社からの仕事も引き受け利益を稼ぐ"収益部門(事業、営業など)”へ生まれ変われと促すリストラ手法の発想とみてとれます。利益が稼げず収益化できなかったコスト部門は、人員縮小あるいは部門廃止され外注に置き換わるケースが多い。

企業ビジネスのリストラ手法を用いた米政権の軍事リストラ構想は、もしもそのまま実行した場合には、米軍駐留先の同盟諸国の負担額が従来の数倍に膨らんでしまい現実的ではない。コストプラス50の適用後も負担額を据え置くためには、駐留米軍の活動規模を従来に対し日本が1/2、韓国が1/3、ドイツが1/5の規模まで縮小する必要があるのです。

なかでも在韓米軍の活動縮小は、大規模演習3件の打ち切りに伴い、すでにスタートしました(上記)。19年2月の在韓米軍の駐留負担に関する米韓合意は、これまでの5年協定ではなく、交渉が難航したためわずか1年の協定。翌20年も合意するためには、米軍の活動規模をさらに縮小する必要があると想定されます。
あるいは、機運の高まる南北統一が決まった場合には、在韓米軍は速やかに撤退する可能性が高い。そのとき、朝鮮半島の有事に備える役割を担ってきた在日米軍は、もちろん規模が著しく縮小しはじめるでしょう。

ドイツは、トランプ米大統領に軍事費をGDP比2%の水準までもっと負担せよと強く要求されているNATO(北大西洋条約機構)の加盟国。にもかかわらず、ドイツのGDPに対する軍事費比の割合は、18年実績が1.23%にすぎず、20年に1.37%まで引き上げた後は低減させる方針。なので、コストプラス50を適用するためには、ドイツに駐留する米軍の活動規模は激減させる必要があります。
そもそも、欠かせない天然ガスのロシアへの依存を高めるドイツにとっては、対ロ防衛を主目的とするアメリカとの軍事同盟NATOの意義はすでにない。

以上、財政を圧迫する軍事支出の膨張に歯止めをかけたいトランプ政権は、戦争屋への資金を断ち海外派兵の口実づくりを止めさせたうえ、同盟諸国に対し駐留米軍への負担激増させる無理難題を突きつけることにより、米大統領の狙いどおり海外米軍の縮小・撤退を加速させていくでしょう。

20世紀の東側はポーランドが去った2年後の1991年に中核国ソ連が解体したのに対し、21世紀のいまは去ってゆくアメリカに取り残される他の西側諸国が危ういかもしれません。

アナリスト工房 2019年3月20日(水)記事