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フィッシャー関係(インフレは危険)

2013年6月7日(金)

「日本銀行は、通貨及び金融の調節を行うに当たっては、物価の安定を図ることを通じて国民経済の健全な発展に資することをもって、その理念とする。」
− 日本銀行法 第二条(通貨及び金融の調節の理念) −

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先月(2013年5月)の中旬までは、わが国のインフレ(物価上昇)への期待と量的緩和での低金利持続に支えられ、一本調子での円安・株高基調であった。しかし、5月23日に国債10年物の利回りが一時1%まで急上昇して以降は、円相場も株価も不安定な状態が続いている。
以前の価格水準へ押し戻す推進力とそれを必死に食い止めようとする抵抗力が交互に働き、上下への値動きの激しい展開のなか、市場参加者は将来の方向感をすっかり見失ってしまった。
世界の主要市場のなかで、特に円相場と日本株が不安定なのはなぜでしょう?

その最大の原因は、インフレへと低金利を両立させようとするわが国の金融政策にある。なぜなら、その2つの政策目標は互いに矛盾するからだ。
経済学入門でおなじみの"フィッシャー関係"によると、金利("名目金利")の水準は"実質金利"と"インフレ率"で構成される。
足元の国債10年物利回り(名目金利)0.8%、消費者物価指数(インフレ率)▲0.2%に基づくと(*)、実質金利は1.0%(=0.8%−(▲0.2%))である。


この状態から、もしもインフレ政策の目標どおり消費者物価指数が2%へ上昇したとしよう。その場合、国債10年物利回りは3.0%(=1.0%+2%)と現在の3倍以上の水準へ跳ね上がる(**)。
GDPの2.4倍もの莫大な政府債務を抱えるわが国は、このときなんと税収の4分の3を債務の利払いに充てることになる。そのためにさらに借金を重ね、たちまち財政が行き詰まるのは自明だ。
すなわち、デフレからインフレへの大きな転換は、名目金利の上昇ならびに国債の利払い負担増を通じて、財政破綻を招く危険がある。

もう1つの量的緩和(中央銀行の国債購入での資金供給)の政策として、日銀は国債を買い支え、名目金利の低位持続を図っている。しかし、国債の購入代金を市中に支払うことで実施する資金供給は、その原資が"プリントマネー(国の経済力に見合わない大量の通貨発行)"である点に注意。プリントマネーは、1円あたりの通貨価値の低下を通じて、インフレへの要因となるからだ。
よって、名目金利を低水準に保つ目的で実施される量的緩和は、実はインフレを引き起こす副作用があるため、やがて名目金利の上昇要因として跳ね返ってくる。

ちなみに2011年の米国では、QE2(量的緩和の第2弾:2010年11月−2011年6月)の影響を受けて、インフレ率は一時3.9%(2011年9月の消費者物価指数)まで急上昇。翌年からさらなる緩和の実施(QE3:2012年9月−)を余儀なくされている。
米国では量的緩和の危険が認識されその出口論が台頭しているにもかかわらず、日本ではインフレへの誘導と組み合わせてより危険度の高い緩和策が実施中。

わが国は今のところデフレ状態のままだが、円安に伴う輸入物価の上昇が将来のインフレへのリスク要因であり、予断を許さない状況にある。
足元の市場からの警告を謙虚に受け止め、財政破綻を未然に防ぐとともに、物価安定のもとで健全な日本経済の発展を心掛けたい。

株式会社アナリスト工房

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*)国債10年物利回りは2013年6月6日の市場実勢、消費者物価指数は5月の東京都区部の総合指数(5月中旬速表値:5月31日公表)を使用。いずれも年率ベース。
**)ここでは「インフレ率の上昇は名目金利にダイレクトに響く」と仮定している。なぜなら国債の投資家は、将来のインフレ上昇が見込まれる場合、将来受け取る元利の実質目減りを防ぐために、予想インフレ率の分を上乗せした名目金利を要求するからである。