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企業結合3(持分変動差額は剰余金へ)

2015年7月27日(月)アナリスト工房

今年度の第1四半期(2015年4-6月期)の新たな決算書は、わが国の企業結合会計の見直しに伴い、純利益の定義とEPS(1株当たり利益)の名称が変更されている。また、子会社株の追加取得・一部売却、時価発行増資の際の"持分変動差額"が損益計上できなくなった

例えば、子会社のIPO(株式公開)にあたりその新株を発行して新たな投資家へ売った場合、従来は新株のみなし売却益として会計上生じる持分変動差額が連結純利益を大きく押し上げるケースがよく観察された
しかし、改正後の会計基準が適用される今年度からはそれを損益でなく剰余金に計上せねばならないため、子会社への出資比率が変化した期の親会社の連結純利益は従来とは異なる水準となる。
そこで今回は、持分変動差額を損益計上できなったことに伴う、企業分析への影響ならびに留意点を述べたい。

まずは、子会社に対する持分変動に伴う会計上の差額とは何か?
次の子会社株の時価発行増資の例を用いて説明しよう。

<例:子会社株の時価発行増資に伴う持分変動差額>
P社は、純資産60億円のS社をその時価60億円(=1株あたり100円×0.6億株)で全額買収し100%子会社化した。その後S社は、時価発行増資(=1株あたり200円×0.4億株)で新たな株主から80億円調達し、純資産が140億円に増加している。

この例の場合、増資で新たな株主が買った子会社のS社株はいったん親会社のP社が引き受けたうえで新たな株主へ譲渡されたとみなし、会計処理を行ってきた。


増資後、60%子会社となったS社の株主持分は純資産額の140億円。そのなかに占める新たな株主(以下「非支配株主」)の持分は56億円(140億円×(1-0.6))。その持分をいったんP社が56億円で引き受けたうえで非支配株主へ80億円で譲渡したとみなす。その差額24億円が持分変動差額である。
かつての基準ではこの持分変動差額は、子会社株の見なしベースでの売買損益として扱い、特別損益としてP/L計上した(*)。ところが、今年度(2015年4-6月期)からはそれを損益計上できなくなったのはなぜか?

子会社株の非支配株主への譲渡がグループ内部の取引とみなされるため、そのみなし売却損益は連結財務諸表から消去しなければならないからだ。

海外会計基準(IFRS・米国基準)との共通化が進むなか、連結財務諸表を誰の立場でみて作成するかのコンセプトが、親会社説から経済的単一体説へ移行してきている(「企業結合1」参照)。移行後の経済的単一体説のもとでは、親会社および子会社の株主全員の視点でみた連結財務諸表を作成する。
そこには非支配株主が含まれることにより、親会社から非支配株主への子会社株の譲渡に伴うみなし売却損益は、グループ内での取引によるものに該当するため連結P/Lには計上できなくなったのである。

ただし、子会社株の追加取得・一部売却、時価発行増資の際は、企業グループの調達資金ならびに純資産額が変動する。上の例に沿っていえば、子会社の増資後は企業グループの調達資金ならびに純資産は80億円増加する。なぜなら、新たな株主からの払込資金は元々企業グループの外にあったお金だからである。
純資産増加の内訳は、非支配株主持分56億円、持分変動差額から資本剰余金に振り変わった24億円。うち資本剰余金の増加は、企業分析において財務健全性をみるうえで大切な自己資本(=純資産−非支配株主持分−新株予約権)の増額にも寄与する。すなわち、損益を通じることなく資本が増減してしまう。

今年度(2015年4-6月期)からの企業分析では、最終損益と積み上る資本との整合性を表す”クリーン・サープラス(「包括利益2」参照)”の精度悪化するケースが生じる点にご注意ください。

株式会社アナリスト工房

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*)上の例の連結ベースの仕訳は次のとおり。
  現預金 80億円 / 非支配株主持分 56億円
          持分変動差額    24億円
         (本件前:損益へ、本件後:剰余金へ)

また、例では買収時ののれんは0(=買収額60億円−時価純資産60億円)だが、のれんが生じた場合には増資に伴い親会社の持分低下分だけのれんの取崩しとともに持分変動差額が上記金額から減少する。
例えば、買収直前ののれん残高が30億円の場合、その取崩額ならびに持分変動差額の減少額は12億円(=30億円×(1−0.6))となる。
  現預金 80億円 / 非支配株主持分 56億円
          持分変動差額    12億円(=24億円-12億円)
          のれん     12億円