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米国デフォルト騒動の為替への影響

2013年11月1日(金)

「ローマの通貨は購買力が弱まり、一部の地域ではかつての絶大な信用力をも失っていたが、それでも帝国のどこへ行っても通用する唯一の貨幣だった。(中略)領土が異民族の侵入と略奪に屈したとき、ローマの共通の貨幣も消滅した。」
-P.バーンスタイン著・鈴木主税訳『ゴールド』日本経済新聞社-

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先日の米国デフォルト騒動は、ひとまず回避された。10月16日深夜、緊縮財政派の共和党が国民皆保険「オバマケア」を推進する民主党に妥協し、政府債務上限を来年2月7日まで引き上げる法案が上・下院で可決・成立に至った。
とはいえ米国の債務問題は、その場しのぎの先送りに過ぎず、まったく解決されていない。今後は、世界一高い医療費を国が負担するため、政府債務の膨張がいっそう加速してゆく。
米国が財政規律が失うことは、為替相場へどのように影響するのだろうか?

まずは、前回2011年8月の米国債格下げ(S&P:AAA→AA+)を伴ったデフォルト騒動を振り返ってみよう。当時もデフォルト寸前のタイミングで、米国は政府債務上限を14.3兆ドルから引き上げ、いったん危険回避している。
しかし為替市場は、債務膨張に伴う国債増発が将来のプリントマネー(*)を通じて、1ドル当たりの価値低下への要因となることを嫌気。2カ月後の10月末、ドル/円(円相場)は一時75.32円と戦後最安値を付けた。

その間の2011年8-11月、日銀は計1,800億ドルの大規模な為替介入を実施したが、ドルの買い支え効果は十分に発揮できなかった。
ちなみに、購買力平価に基づく介入直後のドル/円の理論価格は76.2円(=320÷4.20:**)。市場参加者の大量のドル売りが決して無秩序な過剰反応でなく合理的な行動であったため、わが国の当局は市場価格をおおむね理論価格の水準まで是正するのが精一杯だった。

次回のデフォルト騒動は、米国の暫定予算が失効する年明け1月15日の前後から始まるだろう。2月7日以降のタイムリミットまでに政府債務上限を引き上げ問題先送りできたとしても、短期間経過ごとに立ちふさがる壁が次々と現れる。
市場の為替相場は、どこまでドル安・円高が進行するのか?

足元のドル/円の理論価格は74.6円(=340÷4.56:***)。前回に続き市場がその水準を強く意識するようになれば、戦後最安値を更新しそうだ。
今のところ、QE3(量的緩和の第3弾)での月々850億ドルのプリントマネーが市場を駆け巡り米国債とドルを買い支えているが、FRB(米国の中央銀行)は来年半ばまでにQE3を打ち切る予定でいる。
しかし、断固予定どおりQE3を終えた場合、これまで買い支えられてきたドルは梯子を外され転落してしまうだろう。

一方、再就職をあきらめた者が増加している雇用情勢に配慮しQE3を続けた場合は、予定分を超えてのプリントマネーが1ドル当たりの価値低下の要因となる。
その要因をドルの買い支え効果でもって上手く打ち消すことができたとしても、QE2(2010年11月-2011年6月:総額6,000億ドル)の時のように、やがて過度のインフレを招いたとたん終了を余儀なくされてしまう。

為替市場で対ドル取引は87%のシェアを占め(2013年4月時点)、ドルは唯一の基軸通貨である。その通貨発行国が略奪に屈することなく、財政の規律と基軸通貨としてふさわしい通貨価値を取り戻すことを祈りたい。

株式会社アナリスト工房

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*)プリントマネーとは、国が経済力に見合わない大量のお金を刷る(発行する)ことをいう。税収をはるかに超える国債の発行は、将来のその元利支払時のプリントマネーを招く。量的緩和(中央銀行による国債等の買取り)も、国債等の買取資金が刷られて市中へ支払われるため、プリントマネーである。
**)英エコノミスト誌(2012年1月14日号)の「ビッグマック指数」に関する記事に基づく。世界中で一物一価とみなす、マクドナルド社の日米のバーガー価格(日本320円、米国4.20ドル)を用いている。
***)バーガーの米国価格は英エコノミスト誌(2013年年7月13日号)の掲載値、日本価格は2013年9月の値上げを反映させるために10月下旬の九段下店(東京都千代田区)のメニュー価格を使用。