米国債の"買い手No1ベルギー"とは?

2014年6月10日(火)

海外投資の分野で今いちばん不可解なのは、世界の金融商品のなかで市場規模No.1の米国債です。QE3(量的緩和第3弾:2012年9月−)が縮小中にもかかわらず、米国債価格は上昇しています。

FRB(米国の中央銀行)は、昨年12月まで月々850億ドルの債券(うち米国債は450億ドル)を買取ることで市中へ大量の資金供給を続けてきましたが、今年1月からその額を段階的に削減しています(2014年5月の債券買取り額は450億ドルでうち米国債は250億ドル)。

ところが、米国債10年物の利回りは大きく低下しており(2013年12月末:3.03%→2014年5月末:2.47%)、その価格は堅調です。

最大の買い手であったFRBが購入額を大幅カットし、しかも2月の「デフォルト騒動」では深刻な債務問題をまったく解決せず先送りしたのに(参照「米国の債務問題」)、なぜ投資マネーが米国債に集まっているのでしょうか?

実は、FRBに代わる米国債の旺盛な買い手が台頭しています。

国別の米国債保有残高の推移(図表:*)を眺めてみましょう。

今年1−3月の3カ月間に、FRBの保有残高は1,097億ドル増(昨年10−12月は1,390億ドル増)と伸び悩んだのに対し、"ベルギー"は1,246億ドル増と首位へ浮上しました。

日本(177億ドル増)と中国(21ドル増)が微増にとどまるなか、ベルギーは海外保有残高の伸長額の80%を占めています。

しかし、その実態はベルギー勢ではありません。同国にとって四半期GDPとほぼ同額の海外証券投資を3カ月間に積み増すのは、大きな無理があるからです。

また、ベルギー国には国際証券決済機関"ユーロクリア"があります。

よって別の国が、その国名を知られないよう、ユーロクリアの口座を通じて米国債取引を行なっていると見受けられます。

いったい誰が米国債を買い支えているのでしょうか?

海外勢が米国債を購入する際は、自国の通貨をドルに替えるために、為替市場で自国通貨売り・ドル買いの取引を行ないます。その大量の為替取引に伴い、自国通貨が大きく下落している国です。

米国債を買い支える余力のある国々のなかで、今年になって通貨下落が顕著なのは、為替介入を積極化している中国が該当します(参照「中国の為替介入と人民元改革の狙い」)。

同国の人民元は、今年1月中旬に1ドル=6.04元の最高値を付けた後、4月末以降に何度か6.26元台まで反落。厳格な通貨政策のもと普段の為替変動が比較的小さい点を考慮すると、大幅なドル高・元安の進行です。

介入を担う中国人民銀行(中央銀行)が買ったドル通貨は、米国債など海外金融資産の購入に充当され、外貨準備と化します。結果、1−3月の3カ月間に中国の外貨準備高は1,300億ドルも増えました。

にもかかわらず、同国名義の米国債がわずか21億ドル増なのは、あまりにも不自然ですね。よって、中国がベルギーのユーロクリアの口座を利用して米国債保有残高を積み増していると推測されます。

なお中国がベルギー名義を装うメリットは、米国からの経済制裁などにより中国名義の米国債が資産凍結された場合でも、ベルギー口座のものは(ベルギー中央銀行の保有分と区別つきづらいため)ひそかに売って換金しやすい点です。

以上、中国のドル買い介入で膨らんだ外貨準備の運用手段として、市場規模No.1の米国債がひそかに活用されている結果、今のところ米国債が買い支えられていると見受けられます。

しかし、中国の貿易収支が大幅な改善基調(2月:▲230億ドル→3月:77億ドル→4月:185億ドル→5月:359億ドル)にあるなか、必要性の薄れた為替介入はやがて規模縮小してゆくと想定されます。

また、足元も縮小が続く米国のQE3(FRBの債券買取りでの資金供給)は、今年の秋に完全に終わる予定です。

ベルギー名義に次ぎ保有残高を伸ばしたFRB(1−3月は1,097億ドル増)に代わる買い手が現れない限り、7-9月以降の米国債は深刻な需給悪化が懸念されます。

日本からの投資(外債ファンドを通じての投資も含む)の場合は、米国債のドル建て価格の急落だけでなく、そのことによるドル安・円高再燃の為替リスクも伴い危険です。最後にババを引かないよう、くれぐれもご注意ください。

株式会社アナリスト工房

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*)FRBの米国債保有残高はその公表するB/Sの計上額(月末日を含む1週間の平残)、海外保有国分は米財務省公表の月末残高(Major Foreign Holders of Treasury Securities)に基づく。