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南北戦争2017に挑むジャパンマネー

カントリーリスクの赤信号を無視し、みんなで渡り続ける投資姿勢が危うい

2017年8月28日(月)アナリスト工房

昨年11月からのトランプご祝儀相場では、わが国の銀行や保険会社がヘッジ付き外債投資で巨額の損失(あるいは含み損)を被りました。投資損失の痛手を招いた原因は、債券バブル崩壊に伴う債券価格の急落にくわえ、為替ヘッジがままならない商品の致命的欠陥のもとドルが一時急騰した悪影響(ヘッジ付き外債投資の必敗の仕組み)。なのに、いまも大敗の教訓が活かされていない

1.米国市場のバブルは危険ゾーンだが、日本勢は前年を上回る積極投資

今年4月の下旬から、日本勢によるヘッジ付きなどの外債投資が、懲りずに再び活発化しています。5-7月のわが国から海外中長期債への対外証券投資は9.0兆円の買い越し。買い越し額は前年同期(8.9兆円)をやや上回り、2011年以降では過去最高です。また、海外株式の買い越し額(3.5兆円)は、前年同期(1.7兆円)に対し倍増し、統計のある2005年以降の最高値を更新しています。

日本発の投資マネーが最も押し寄せる先は、中長期の外債が米国債、外国株は米国株です。結果、10年物米国債はアメリカの国家デフォルトへの懸念が深刻化するなかでもわずか2%前半の低利回り、米国株価指数S&P500はなんと1929年の大恐慌直前に匹敵する超割高状態(金融危機再来を警告するシラー指数)。ジャパンマネーが必死に買い支えるアメリカ市場の相場は著しく歪んでいるのです。

2.南軍リー将軍像の撤去を推進するのは、時給25ドルの反トランプ群衆

しかも、ジャパンマネーの投資対象国アメリカには、従来からのカントリーリスク(国家デフォルトや通貨切り下げへの危険)にくわえ、新たに「内乱・内戦による政情不安への危険」のリスク要因が浮上しています。
今月は、南北戦争(1861-1865)の名将リー将軍など南軍の軍人像と記念碑を撤去する動きが全米各地で相次いでおり、アメリカ社会は撤去推進派の反トランプ勢力と貴重な歴史・文化財を守りたいトランプ支持者の2つに分断されてしまいました。

アメリカを2つに分断して戦った南北戦争は、日本でいえば旧幕府軍が南北戦争で余った武器を豊富にもつ新政府軍に敗れた幕末.・戊辰戦争(1868-1869)です。
南軍の軍人像は、旧幕府側の榎本武揚海軍副総裁や少年兵白虎隊の銅像に相当します。リー将軍の率いる南軍も日本の旧幕府軍も、自分たちの国と故郷を守るために戦った点は共通です。しかも、アメリカ人の多数が南軍の軍人像を歴史的シンボルとして残すべきとの意見(下記)。なのに、それらが次々と撤去されるのは不可解ですね。

「南部連合のシンボルを擁護する人のほとんどは、記念碑は奴隷制を記念するものではないという立場だ。擁護派は、南部連合軍は奴隷制維持のために戦ったのではなく、州の権利を守り連邦制に反対するための戦争だったと主張する。南部連合の戦旗のようなシンボルは、南部の歴史と文化を記念するものだと言うのだ」
「米マリスト大学による今週の世論調査では、米国人の62%が歴史的なシンボルとして像を残すべきと考えており、やや意外なことに、アフリカ系米国人の44%がこれに同意していた」
英BBC記事『どうして銅像でもめるのか』Aug 18th 2017 

今月12日のバージニア州シャーロッツビルでは、リー将軍像の撤去を阻止したいトランプ支持者のなかの極右集団と撤去を推進したい抵抗勢力の群衆が衝突し、ついに死傷者発生の悲劇に至りました。うち親トランプの極右集団は、KKKなど白人至上主義の団体メンバーが主体。一方、抵抗勢力であるはずの反トランプ群衆の大半は、なんと時給25ドルで雇われた金銭目的のデモ隊です(*)。

今年1月のトランプ政権発足直後の反トランプ・デモへの参加報酬は月給2,500ドルでした。いまの時給制の抵抗勢力の台所事情はすいぶん厳しそうですね。反トランプ愚集の雇い主の目的は、南北戦争の原因の1つであった奴隷制とは関係なく、親トランプ集団への挑発を通じて内乱を起こしトランプ政権へ打撃を与えることにあると見受けられます。彼らの最後の悪あがきが21世紀の南北戦争を招く可能性は注視したい。

3.国家デフォルトとドル切り下げにより、アメリカ再建を狙うトランプ

アメリカの国が大きく2つに分断されてしまったなか、従来のカントリーリスク(国家デフォルトや通貨切り下げへの危険)がいっそう深刻化しています。
トランプ政権の新年度の予算教書(今年10月からの国家予算の方針案)は、外交・対外援助・医療保険を中心に今後10年間の歳出を3.6兆ドルも大幅削減し、財政赤字の解消を目指す内容。
歳出削減に抵抗する米議会の審議が難航し新年度予算が成立しないまま10月を迎え、かつ政府債務上限(いまは19.9兆ドル)が引き上げられなければ、アメリカは政府機関閉鎖に続きデフォルトに至ります。

予算成立のために大切な歳出削減への鍵となる医療保険”オバマケア"の改廃は、いまだ法案成立への目処がたたない。しかもトランプ大統領は、アメリカへの麻薬流入を防ぐためにメキシコとの国境に設ける”トランプの壁”の予算が認められなければ、政府機関の閉鎖も辞さない姿勢です(下記)。

「われわれが南側の国境に建設中の壁は絶対に必要だ。議事妨害ばかりしている民主党が反対しても、たとえ政府機関が閉鎖しても、われわれは確実に壁をつくり続けていく
壁のとくに重要な役割は、麻薬問題への対策だ。とんでもない大量の麻薬が南の国境からわが国へなだれ込んでいる
トランプ米大統領(Aug 22th 2017)アリゾナ州フェニックスの集会

アメリカの政府機関閉鎖に続くデフォルトへの懸念が高まる根底には、政府債務残高がオバマ前政権の8年間でなんと倍増した、極めて深刻な債務問題があります。なのに、いまの時期に国家デフォルト懸念をいっそう高める上記トランプ発言の狙いはいったい何か?
再建人集団のトランプ政権がアメリカの財政を建て直すのにいちばん効果的な手段は、政府機関を閉鎖することにより歳出を劇的に減らしたうえで、デフォルト宣言し政府債務の減免すなわち米国債の金利・元本カットを世界の債権者・投資家と交渉することです(下記)。

「いまのアメリカは超低金利の利払いで済んでいるが、もしも金利が2、3、4%上昇したら何が起こるか?われわれは国を失うことになる。アメリカは長期政府債務の金利・元本減免に向けて再交渉すべきだ!
トランプ米大統領候補(May 5th 2016)米CNBCのインタビュー

あわせて、再建人トランプが1971年の”ニクソンショック"に続きドルを切り下げに踏み切った場合には、アメリカの製造業がコスト競争力を取り戻す効果が期待できます。そのとき、米政権がいちばん強調している、製造拠点の国内回帰とアメリカ人の雇用回復が実現できるでしょう。

同時に、米国債価格とドルの通貨価値の暴落が生じます。いまは日本勢のヘッジ付き外債投資の影響を受けて米国債価格とドルは互いに逆の動き(米国債.価格安のときはドル高、米国債価格高のときはドル安の傾向)ですが、デフォルト宣言とドル切り下げによりそれらは連れ安となる可能性が高い。

そのとき、ヘッジ付き外債投資の手法は米国債価格の下落に合わせたドル買い。すると、日本の投資家が保有する米国債の資産価値も買い向かったドルの通貨価値も失われてゆくそんな絶望的な未来を迎えないためには、債券バブル崩壊時に為替ヘッジがままならなかった昨年の投資教訓を直視のうえしっかり活かすことが大切です。

アナリスト工房 2017年8月28日(月)記事

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*)今月12日のバージニア州シャーロッツビル事件がはじまる直前までの1週間、デモに特化したイベント派遣企業のクラウズ・オン・デマンド社(本社:ロサンゼルス)は、デモの演技者とカメラマンを時給25ドルの条件でネット求人募集していた。