アナリストの葬儀再考と読経実践

コロナ流行をきっかけに、最も効率的な”火葬ファースト”が主流に


2021年5月7日(金)アナリスト工房


東京五輪の会場となる予定の日本武道館では先月前半、新型コロナ騒動の再燃にも負けず、大学の入学式が対面形式で連日開催されていました(*)。

期待に胸を膨らませ武道館の入学式会場へ向かう大勢の新入生たちをかき分けながら、場違いな礼服姿で地下鉄駅へ降りた筆者が向かった先は、隣の県の火葬場。数十年ぶりの東京五輪開催を待ち望んでいた実の父親(享年85)が脳梗塞の合併症で亡くなり、その日は一連の葬儀のなかで第1段階の火葬だったのです。


コロナ騒ぎのなか、高齢中心の親戚たちが上京時に感染する危険を防ぐためには、かつて第1段階だった通夜(遺体のそばで故人を見守る儀式)、第2段階だった葬式(引導を渡しながら亡くなった人のご冥福を祈る葬儀式、および故人に最後の別れを告げる告別式)の開催は難しいのが実情。


<一連の主な葬儀>

・コロナ騒動の前:①通夜→②葬式(葬儀式と告別式)→③火葬

・コロナ騒動以降:①火葬と炉前読経


10年前に父方の祖母(享年96)が亡くなったときは、棺おけの遺体を菩提寺(家族が日頃お世話になっているお寺)へ運び込み、家族だけでなく親戚たちも通夜および葬式に参列しました。

一方、コロナ脳(過度のコロナ恐怖症)に冒された最近の多くのお寺は、病院から出てきた遺体の持ち込みを嫌がります。通夜と葬式の開催がままならないのと、故人をあらかじめ火葬のうえ骨の形で寺へ連れていく必要により、いまの一連の主な葬儀は火葬からスタートする”火葬ファースト”が主流です。


速やかに火葬することにより遺体保存用のドライアイス(1日あたり10kg用いる二酸化炭素の塊)が少量で済む火葬ファーストは、葬儀屋への主な超過料金を抑える効果だけでなく、脱炭素への貢献度も高い。やがてコロナ騒動が終息した後も、合理的な火葬ファーストは定着し続けると想定されます。


別れの涙で故人を見送った火葬の後は、遺体を見守る通夜があり得えないだけでなく、亡くなった人へ別れを告げる葬式後半のプロセス(告別式)も不要。引導を渡しながら故人のご冥福を祈る葬式前半のプロセス(葬儀式)は、火葬直前に焼却炉前で数分程度の”炉前読経”を新たに追加することにより、しっかり対応できるようになりました(あるいは、火葬後にお寺へ遺骨持参での対応もOK)。

結果、簡単な読経を加えることにより充実化できる火葬のみで一連の主な葬儀を済ませるのが、コロナ騒動以降の大半を占める典型的なケースです。

▼火葬を充実させる炉前読経を家族がやり遂げる大きな意義


先日亡くなった父親の火葬では、喪主たる筆者自身が焼却炉の前で最後の見送りと同時に”炉前読経”を務めました。

この世からあの世への引導を渡しながら旅立つ故人の冥福を祈る炉前読経のポイントは、亡くなり旅立つ時が訪れた事実を本人に伝わるよう示唆しながら、この世への執着を捨て安らかに旅立つよう強く促すこと。そのうえで読経を始めるのが基本です(下記引用)。


「『御安心なされ。恐いものはもうなにもなかろう。執着なくして、安らかに旅立ちなされよ』。こういってから、道元は般若心経を読誦した。(中略)目の前の女のためばかりではなく、このまわりのすべての者への菩提を弔う読経であった。(中略)皆この世への執着をなくした仏である。死の恐怖もないから、安らかであるはずだ」

立松和平『道元禅師』東京書籍(2007)


炉前読経の持ち時間は数分程度(長くても10分以内)。なので、亡くなった人にその事実を告げ旅立つよう促す引導は、キーワード中心の簡潔な自分の故人に対するふさわしい言葉で渡すことが大切。そして、引導後の読経に最適なのは、短い持ち時間にピッタリの『般若心経』です。


唐の玄奘三蔵(602-664)が古代インドの経典集『大般若経』をわずか262文字に要約した『般若心経』は、森羅万象の示す姿が絶えず移り変わってゆくなか、その根底にある変化への原動力が”空(くう)”という真理であると説く。

不変の真理というものが変化してゆくなかにあるとの哲学は、わたくしどもアナリストや読者の皆さんが関わる市場および取り巻く政治・経済・社会情勢にもズバリ当てはまるので、とても理解しやすいと思います。


時とともに変わってゆく森羅万象の示す様相は、本質的な実体ではない。その本質は、化学反応時の原子のように生じることも滅することもない”不生不滅”であると、般若心経は説く。生死についても、亡くなることは様相の変化(生→死)に過ぎない。人は、生きているときだけでなく死んだ後も、大勢の人々の心の中で生き続け影響力を発揮します。

上記引用文献の作者の立松和平さん(1947-2010)と主人公の道元禅師(1200-1253)は、僧侶でない筆者を勇気づけ、父親の炉前読経を務めるよう背中を後押ししてくれたのです。


心強い助太刀を得た筆者は、禅寺の坐禅会でお坊さんに教わった作法に沿って合掌一礼のうえ、父親の棺おけが焼却炉へ向かい始めるタイミングで、引導を渡し読経をスタート。

故人が安心してあの世へ旅立つためには、この世に残された遺族を代表して長男たる自分が元気に見送ることが大切。元気な大声で毎日お経を読んでいた祖父の姿を思い出しながら筆者は、広いディーリングルームや講義活動でたっぷり鍛えた元気声で、最後まで父を送ることが無事できました。


葬儀の重要プロセスを業者任せにすることなく、遺族みずからが担いやり遂げる意義は極めて大きい。


アナリスト工房 2021年5月7日(金)記事


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*)21年4月の日本武道館で対面形式の入学式を開催した大学は、電機大(4月2日)、法政大(3日)、帝京大(4日)、専修大(5日)、東洋大(6日)、明治大(7日)、日大(8日)。理科大(9日)、東大(12日)。なお、4月16日以降の武道館付近は、柔道大会のための施設づくりなどの工事本格化に伴い立ち入り禁止(5月6日時点)。