輸出勢の21年度想定 1ドル=105円主流
過度の米インフレを踏まえ、ドル安リスクが適切に想定
2021年5月17日(月)アナリスト工房
しつこい新型コロナ騒動にも負けず、3月を年度末とする日本の上場企業の決算発表が、本日までにほぼ出そろいました。各企業の決算発表では、前年度の本決算とともに、今年度の業績予想が公表されます。なかでも外貨建ての売上が多い輸出企業(自動車、電機、機械、部材メーカーなど)は、業績の為替依存度がに大きい。各社の業績予想とともに注目されるのが、その前提とした為替相場「想定為替レート」です。
企業の業績予想は、貿易取引や海外子会社の外貨建て売上・利益の予想額を円へ換算のうえ、国内取引など円建て売上・利益の予想額と合算し作成されます。そのとき、外貨建ての予想額を円へ引き直すのに用いるのが、今年度の平均為替相場として各社が見積もった米ドルや欧州ユーロの想定為替レートです。
1年前の決算発表では、コロナ流行に伴う初の緊急事態宣言のなか業績予想の見積もりが急に困難と化したため、大半の企業は業績予想とともに想定為替レートの公表を見送りました。
一方、困難を何とか乗り越えた今回は、ほぼ従来どおり大多数の上場企業が業績予想を前期決算発表と同時に公表しています。輸出企業の想定為替レート公表も、すっかり復活しました。2021年度(21年4月−22年3月)の輸出企業の米ドル想定為替レートは105円が主流です(図表)。
▼想定為替レートの水準は、いつどのように決まるのか?
一般に、想定為替レートの見積もりは、決算発表の数週間前(とくに発表ラッシュ開始の約2週間前)の市場実勢の為替相場を重視し、ネガティブな「業績予想の下方修正」をなるべく避けるために保守的な円高水準で定めるケースが多い。
GW休暇を考慮すると、社内調整しながら業績予想の策定と情報開示の準備を行うためには、4月半ばまでにそのレート水準を決定しなければならないのが実情。期限までの為替推移を取り巻く市場経済情勢とともに最後までじっくりにらみながら、各社は新年度の想定為替レートを見積もります。
今2021年度の輸出企業の米ドル想定為替レートは、決算発表ラッシュ開始2週間前(4月13日)の為替市場の実勢109円に基づき、その水準よりも4円保守的に105円と定められたのが主流と推定されます。
ちなみに、過去4年間(2017〜2020年度)における輸出企業の米ドル想定為替レートの主流は、決算発表が本格化する2週間前の為替市場の実勢よりも1〜4円保守的な水準でした(下記)。
【 輸出企業の米ドル想定為替レートの主流推移】
・21年度:105円(4月13日の市場実勢109円よりも4円保守的)
・20年度:105円(4月14日の市場実勢107円よりも2円保守的)
・19年度:110円(4月10日の市場実勢111円よりも1円保守的)
・18年度:105円(4月12日の市場実勢107円よりも2円保守的)
・17年度:105円(4月12日の市場実勢109円よりも4円保守的)
もしも、想定為替レート割れの状態で決算の発表・説明会を迎えた場合には、市場では早くも今年度の業績未達への懸念が浮上するかもしれない。そのような残念な事態をなるべく防ぐためにも、想定為替レートの見積もりは数円程度のドル安・円高リスクを織り込むのが基本です。
結果、今2021年度の想定為替レートは、前年度と同じ105円。とはいえ、レート水準に織り込まれたドル安・円高リスクの価格が比較的高い(21年度が4円、その前の年度が2円)のはなぜか?
今年度の想定為替レートは、過度の米インフレを踏まえ、織り込まれたリスクの価格が上昇しました。アメリカのインフレは、ドルの通貨価値を目減りさせるためドル安要因。その点が想定為替レートに反映されていると見受けられます。
4月の米CPI(消費者物価指数)は、変動の激しいエネルギーと食品を除くコア指数が前月比0.9%上昇と、1982年4月以来の高インフレ。PPI(生産者物価指数)の前年同月比4.2%上昇は、なんと過去最高。過度のインフレ進行は、新型コロナ給付金をサッサと消費に回す国民性と便乗値上げによる一時的現象かもしれない。が、念のためアメリカの物価動向には引き続きご注意ください。
日本の輸出企業の縮図をイメージして選んだ図表の12社は今年度、緩やかなドル安・円高(前年度市場平均が106円に対し今年度想定が105円主流)を前提に、予想営業利益が対前年度13.7%増。基軸通貨ドルの為替差損を被り4.3%減益だった前年度とは一転し、まずまずの利益伸長を見込む。
その実現のためには、世界的なコロナ騒動をサッサと終わらせ、東京五輪をきっかけに日本経済を勢いづかせながら、日本企業の活動をフルに再開することが必要でしょう。
アナリスト工房2021年5月17日(月)記事