想定為替レート 2019年度は余裕不足
輸出企業のドルの想定は110円が過半。早くも想定割れへの懸念
2019年5月10日(金)アナリスト工房
今年のGWは、平成から令和への元号切り替えに伴い、日本市場が異例に長い10連休となりました。が、3月を年度末とする日本の上場企業は、例年どおり5月15日までに前年度決算を発表しなければなりません。
GW前後に集中する決算発表では、前年度の本決算とともに今年度の業績予想が公表されます。なかでも外貨建ての売上が多い輸出企業(自動車、電機、部材など)の業績は為替に大きく依存することから、業績予想と同時に注目されるのは前提とした"想定為替レート”です。
企業の業績予想は、貿易や海外子会社の外貨建て売上・利益の予想額を円へ換算のうえ、国内取引など円建て売上・利益の予想額と合算し作成します。そのとき外貨建ての予想額を円へ引き直すのに用いるのが、今年度の平均為替相場として各社が見積もった想定為替レートです。
▼業績予想の見積もりと同様に、為替は保守的に想定するのが基本
想定為替レートの見積もりは、決算発表の数週間前(とくに発表ラッシュ開始2週間前の4月11日前後)の市場実勢の為替相場を重視し、ネガティブな(会社の株価への悪材料となる)"業績予想の下方修正"をなるべく避けるために保守的な円高水準で定めるケースが多い。
GW休暇を考慮すると、社内調整しながら業績予想の策定や情報開示の準備を行うためには、遅くても4月半ばまでにそのレート水準を決定する必要があります。期限までの為替推移を取り巻く情勢とともに最後までじっくりにらみ、各社は新年度の想定為替レートを見積もるのです。
過去6年間(2013〜18年度)における輸出企業の米ドル想定為替レートの主流は、ガバナンス改革推進に伴い企業への増益圧力が異常に高まった16年度を除くと、決算発表が本格化する2週間前(4月10〜12日)の為替市場の実勢よりも2〜6円保守的な水準でした。
各年度の平均為替相場として企業が保守的に見積もる想定為替レートは、見積もり時点の市場実勢に対し数円程度のドル安・円高リスクを織り込むのが基本です(下記)。
【 輸出企業の米ドル想定為替レートの主流(2013〜18年度)】
・13年度: 95円(←4月11日の市場実勢100円よりも5円保守的)
・14年度:100円(←4月11日の市場実勢102円よりも2円保守的)
・15年度:115円(←4月10日の市場実勢121円よりも6円保守的)
・16年度:110円(←4月11日の市場実勢108円よりも2円挑戦的)
・17年度:105円(←4月12日の市場実勢109円よりも4円保守的)
・18年度:105円(←4月12日の市場実勢107円よりも2円保守的)
▼為替リスクを踏まえ、ドルの想定は2〜3円以上の余裕が必要
しかし、新元号がはじまった今19年度(19年4月−20年3月)の輸出企業のドル想定為替レートは、決算発表ラッシュ開始2週間前(4月10日)の市場実勢111円よりもわずか1円保守的な110円が主流となってしまいました。
対米貿易戦争のもと1980年代と同様に極めて大きなドル安・円高リスクが存在するにもかかわらず、「見積もりは保守的に」の基本が忘れられてしまったようですね(下図)。
結果、10連休明けの週には米中貿易交渉の決裂を受けて、為替市場ではドル安・円高が一時109.47円までじわじわと進行しました(5月9日時点)。決算の発表あるいは説明会の段階で、早くも市場実勢が想定為替レートを割っていたケースが散見されます。
なかでも1ドル=110円想定のもとでの微増益予想は、足元の市場実勢で引き直すと減益となる可能性が高いため、ネガティブです。
貿易戦争に伴う円高進行が想定外のスローペースにもかかわらず早期の想定割れを招いたのは、明らかに想定為替レート見積もりのスタンス変更(数円保守的→わずか1円保守的)が原因。なので今回の早期想定割れの珍事は、より保守的な為替水準を想定のうえ堂々と減益予想を打ち出した場合とは異なり、強引に増益予想を導くために想定を歪めたと推察される点がネガティブなのです。
そんな不本意なネガティブを招かないためにも、ドルの想定為替レートは最低でも2〜3円保守的に見積もるのが基本。貿易戦争真っ只中のいまのようにドル安・円高リスクが高いときは、なおさらです。そもそも、ないものねだりの増益圧力に応えられる錬金術はありません。
アナリスト工房 2019年5月10日(金)記事