想定為替レート2020年度は105円主流
業績予想公表に踏み切った輸出企業の大半は、為替想定の基本バッチリ
2020年5月15日(金)アナリスト工房
3月を年度末とする日本の上場企業は、例年ならば証券取引所の要請どおり、5月15日までに前年度の決算発表を終える。が、新型コロナウィルス感染症(COVID-19)が流行中の今年は、疫病対策に伴う外出規制・自粛などの悪影響を受けて、企業の決算作業と会計士の監査業務がなかなか進まない。5月後半も、決算発表ラッシュが続く見込み。
各企業の決算発表では、前年度の本決算とともに、今年度の業績予想が公表される。なかでも外貨建ての売上が多い輸出企業(自動車、電機、機械・機器、部材メーカーなど)は、業績が為替に大きく依存することから、業績予想とともに注目されるのが予想の前提とした為替相場「想定為替レート」だ。
企業の業績予想は、貿易取引や海外子会社の外貨建て売上・利益の予想額を円へ換算のうえ、国内取引など円建て売上・利益の予想額と合算し作成する。そのとき、外貨建ての予想額を円へ引き直すのに用いるのが、今年度の平均為替相場として各社が見積もった米ドルや欧州ユーロの想定為替レートだ。
想定為替レートの見積もりは、決算発表の数週間前(とくに発表ラッシュ開始の2週間前)の市場実勢の為替相場を重視し、ネガティブな「業績予想の下方修正」をなるべく避けるために保守的な円高水準で定めるケースが多い。
GW休暇を考慮すると、社内調整しながら業績予想の策定と情報開示の準備を行うためには、4月半ばまでにそのレート水準を決定しなければならないのが実情。期限までの為替推移を取り巻く市場情勢とともに最後までじっくりにらみ、各社は新年度の想定為替レートを見積もる。
過去5年間(2015〜2019年度)における輸出企業の米ドル想定為替レートの主流は、一部の市場参加者が企業を支配しようと企んだ「ガバナンス改革」の推進に伴い日本企業への増益プレッシャーが異常に高まった2016年度を除けば、決算発表が本格化する2週間前の為替市場の実勢よりも平均3円保守的な水準だった(下記)。
【 輸出企業の米ドル想定為替レートの主流】
・15年度:115円(←4月10日の市場実勢121円よりも6円保守的)
・16年度:110円(←4月11日の市場実勢108円よりも2円挑戦的)
・17年度:105円(←4月12日の市場実勢109円よりも4円保守的)
・18年度:105円(←4月12日の市場実勢107円よりも2円保守的)
・19年度:110円(←4月10日の市場実勢111円よりも1円保守的)
・20年度:105円(←4月14日の市場実勢107円よりも2円保守的)
もしも、想定為替レート割れの状態で決算の発表・説明会を迎えた場合には、市場では早くも今年度の業績未達への懸念が浮上するかもしれない(とくに前年度に対し増益か減益かの分かれ目、あるいは減益率が一定以内に収まるか否か瀬戸際のとき)。そのような残念な事態をなるべく防ぐためにも、想定為替レートの見積もりは数円程度のドル安・円高リスクを織り込むのが基本だ。
今2020年度(20年4月−21年3月)の輸出企業の米ドル想定為替レートは、決算発表ラッシュ開始2週間前(4月14日)の市場実勢107円よりも2円保守的な105円が主流(図表)。
昨2019年度の想定為替レートの主流(見積もり時期の市場実勢111円よりも1円保守的な110円)は、数円に満たない保守性不足が祟り、実際の平均為替レート(109円)に負けてしまった。が、今年度はその点がバッチリ改善されている。行き過ぎたガバナンス改革が後退するなか、グリード(強欲)が露骨な一部の市場参加者への配慮はもう不要だ。
そして何よりも、世界的な疫病対策規制の悪影響に負けず決算を従来の期限(5月15日)までに発表のうえ、将来を見通しづらい恐慌のなか頑張って業績予想を決算書に織り込んだ企業(とくに図表の9社)には、大いに敬意を表したい。決算が未だ発表されない、あるいは業績予想ならびに想定為替レートのない先が多いなか、お陰様で大変助かりました!
アナリスト工房 2020年5月15日(金)記事