本気で史上最高値に挑む日本株指数
日経平均4万円への最大の課題は、5%台に落ち込んだROEの改善
東京五輪開催は濃厚。チャンスを活かし企業収益力を取り戻そう!
2021年2月25日(木)アナリスト工房
森前五輪委員長の「女性は時間がかかる」発言が問題化し始めた途端、日本武道館裏の公園では五輪施設の建設工事が久々に再開した。都心での機転を利かせた取り組みが夏の東京五輪開催への機運を守り続けるなか、市場では株価が連日急騰。今月15日、日本株225銘柄の日経平均株価指数は1990年8月以来の3万円台を回復した。
一部の市場参加者の間では、1989年末に付けた史上最高値(日経平均は一時38957.44円)更新への観測が早くも浮上している。幸い、コロナ恐慌のなか株価は、人々が疫病を乗り越え経済活動を回復させることにより”失われた数10年”を取り戻せるかもしれない。
今回は、株価指数が急騰した要因を企業分析の指標とともにわかりやすく説明しながら、失われた期間リセットへの明るい展望とそのために必要な重要課題を取り上げよう。
日経平均は、20年2月のNY市場発”コロナショック”の悪影響を受けて急落が続き、多くの日本企業が前期末を迎えた3月末には2万円を下回る低水準(18917.01円)だった。が、今期の足元2月19日の終値(30084.15円)は、前期末から1年足らずでなんと59%も著しく急伸している。日経平均伸長の最大の要因は、対象225銘柄を含む東証1部全体の約2200銘柄から成る株価指数TOPIXが37%上昇したことだ。
【TOPIX(東証株価指数)の価格と指標*)】 21年2月19日時点
・株価1928.95円 …前期末(1403.04円)から37%株価上昇
・PBR(=株価/自己資本)1.38倍 …前期末(1.01倍)よりも37%株価割高
・PER(=株価/予想純利益)24.61倍 …前期末(13.96倍)よりも著しく割高
・配当利回り(=予想配当/株価)1.86% …前期末(2.78%)よりも利回り悪化
その間、量的緩和(中央銀行がお金を刷って金融商品を買い取ることにより市場へ大量資金供給する金融緩和策)を実施中の日銀は、株式ではTOPIX連動型ETF(上場投資信託)を中心に6兆円買い取った。結果、日本株の最大の株主と化した日銀のB/S(貸借対照表)には、株式ETFがなんと35.7兆円も資産計上されている(2月24日公表)。その額は、東証1部全体の半月分の売買代金の規模だ。
長期にわたる中央銀行のETF買い支えが市場参加者の株式購入を促す安心材料となっている点も鑑み、足元のTOPIX価格の大半が量的緩和およびその市場影響力による株価押し上げ効果”日銀プレミアム”と推定される。
だからこそ、株価指数の上昇が直にその割高度に結びつく。前期末から2月19日までのTOPIX上昇率(37%)は、東証1部企業の自己資本に対する株価の倍率でみた割高度を表す指標PBRとほぼ等しい(上記)。コロナ恐慌に伴い企業の資本に利益が積み上がらないなか、株価だけが不自然に急伸している。
とくに鼻に付くのは、企業の予想純利益に対する株価倍率で割高度をみる指標PERによると、株価が上昇したその間にTOPIXが著しく割高と化していることだ(前期末:13.96倍→2月19日:24.61倍)。利益を稼ぐ企業収益力が落ち込む恐慌のなか、このままでは株価急伸を続けていくのは難しい。
が、もちろん解決策はあるはずだ!
まずは、日本企業の収益力をどれだけ改善したらよいのかを代表的な指標ROE(=予想純利益/自己資本)で考えてみよう。その定義によりROEは、上記2つの株価指標の比率(PBR/PER)として簡単に計算できる(下記)。
<株価指標を用いたROE(自己資本純利益率)の算定>
PBR=株価/自己資本、PER=株価/予想純利益
∴ROE(予想純利益/自己資本)=PBR/PER
前期末(20年3月末)7.23%(=1.01/13.96)だった東証1部企業のROEは、今期の足元2月19日には5.61%(=1.38/24.61)に落ち込んでおり、米S&P500企業(10.7%)の約半分の水準。日銀プレミアムでの株価押し上げ効果が失速・失効しないためには、早急に日本企業のROEが7%台まで回復し、コロナ恐慌前のROE8%台回復への展望が見えてくることが必要と考えられる。
幸い、1月にピークを付けた新型コロナの新規感染者数は足元2月には激減しており、日本経済と企業活動の本格再開への機運が急速に高まってきた。
3月7日には、五輪開催地の東京を含め緊急事態宣言はすべて解除される可能性が極めて濃厚。あわせて、旅行振興策”GoToトラベル”が復活するだろう。国民の移動を奨励するGoToは、実は日本政府の密かな”集団免疫策(従来どおり自由な生活を続け免疫力を保つことによる疫病克服策)”と見受けられる。その点は、東京五輪開催に踏み切ることも同様だ。3月25日9時40分、五輪聖火ランナーが福島県Jヴィレッジを出発予定(福島県2月22日発表)。
大勢の旅行者とランナーが各地を巡り、コロナ自粛ムードは薄れ集団免疫が全国に浸透し、経済と企業活動が本格再開され日本株堅調は続くと想定される。
実際に、予定どおり多くの国々から選手たちが来日し、今夏の東京五輪を無事開催できるのか?
万が一、東京五輪が風邪の一種にすぎないコロナを口実に開催中止となった場合には、風邪が流行する季節の北京五輪(22年2月)が同様の言いがかりにより中止に追い込まれる危険が高い。そんな理不尽な事態を絶対に防ぎたい中国は、自ら主導する経済圏(RCEP、一帯一路、BRICSなど)の多数の国々を率いて、快く東京五輪にフル参加する可能性が極めて濃厚だ。
五輪開催に伴う経済効果と企業業績への大きな貢献が株価指数をさらに押し上げ、TOPIX(東証株価指数)とともに日経平均がさらに上昇していく余地は十分にある。また、日中韓、豪・NZ、ASEAN10カ国の自由貿易協定”RCEP(東アジア地域本格的経済連携)”は、ASEAN6カ国および他3カ国以上の批准を経て、早ければ年内に発効予定。
日本企業のビジネス拡大も寄与し、今回の五輪反動不況は生じないシナリオさえ想定される。日経平均株価が史上最高値更新のうえ4万円に達し”失われた数10年”を取り戻す日は、今年度中に訪れるかもしれない。
アナリスト工房 2021年2月25日(木)記事
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*)株価指標(PBR、PER、配当利回り)は、日本経済新聞の集計・掲載値。