2015年度の想定為替レートの傾向

2015年5月11日(月)アナリスト工房

企業分析に携わるアナリストにとって、ゴールデンウイークの前後と谷間は、3月を期末とする日本企業の決算発表のシーズンです。上場各社の前年度の本決算とともに、今年度の業績予想が公表されています。

わが国主力の輸出企業(自動車、電機、電子部品など)は為替に大きく左右されるため、その業績予想とともに注目されるのは、各社が予想の前提とする"想定為替レート”です。

業績予想は、貿易取引や在外子会社での外貨建ての売上・利益の予想額を円へ換算のうえ、国内取引などでの円建ての予想額と合算して作成します。

その際に外貨建ての予想額を円へ引き直すために用いるのが、今年度の平均為替相場として会社の見積もった想定為替レートです。その見積もりは、会計基準などに定められてなく、各社の裁量に任されています。

今年度のレート決定の舞台裏(想定はいつどのように?)

いま前2014年度の本決算発表とともに次々と公表されている今2015年度の想定為替レートは、ドル(ドル/円)が115から120円、ユーロ(ユーロ/円)が125から130円が主流です(図表)。

前年度の市場の平均為替相場(ドル:110円、ユーロ:139円)に対し、今年度の主流派はドルが数%前後の円安、ユーロが約1割の円高の水準を想定していますね。

各社にお任せとはいえ、これらのレート水準はいつどのように決まったのでしょうか?

一般に、想定為替レートの見積もりは、決算発表の数週間前の市場の為替相場を重視して行ないます。

例えば基軸通貨のドルは、その東京市場終値は前年度末(今年3月末)が120円に対し、今年度の4月10日がやや円安の121円。

おおむねその時点で主流派は、2週間後(4月24日)から本格化する決算発表に向けて、今年度の想定為替レートを保守的に1から6円ほど円高水準の115から120円に定めたと見受けられます。

会社が想定為替レートを保守的に見積もるのは、業績予想の下方修正をできる限り防ぎたい意図が背景にあるからです。

輸出企業の場合には、市場の平均為替相場が想定為替レートよりも円高となったとき、外貨建ての売上・利益を円へ換算した額が予想を下回る要因となるため、下方修正に至るとともに株価が急落するケースがよく生じています。

株式市場の悪材料となる事態をなるべく避けようと、輸出企業の想定為替レートは、その決定時期の為替相場よりも円高水準で決まることが多いのです。

想定からのブレで決まる日本企業の業績と株価指数

前年度のドルの想定為替レートは、その決定時期の市場実勢(2014年4月11日の東京市場終値は102円)よりも2円円高の100円が圧倒的多数でした(想定為替レート:余裕ない2015/3期)。

しかし、市場の平均為替相場が想定為替レートよりも10円ほど円安となった追い風を受けて、図表12社全体の前年度の営業利益はその前の年度に対し12.7%増で着地しています。

その利益の増加額に占める為替要因の割合は92%(*)。すなわち、前年度の増益の大部分が当初の想定を大きく上回る円安による効果です。

一方、足元の市場実勢(基軸通貨のドル:120円)が主流派の想定内にとどまる今年度は、上場企業のなかで比較的有望な12社の予想営業利益が前年度比5.4%増(*)。

このままでは、コスト高の輸入産業や国内市場の伸び悩むサービス業も含めた上場企業全体の今年度は、おおむね利益横ばいとなる可能性が高い。

企業価値評価の考え方によると、利益成長率の大きな低下は株価の急落へと作用します。

量的緩和と年金基金のマネーが強引に株価を押し上げてきた市場では、足元はバブルの様相が鮮明となってきました。

企業業績の水準に対し株価指数の割高感が強まるなか、業績と株価を左右する為替相場の動きには、ますます目が離せない今年度となりそうです。

株式会社アナリスト工房

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*)利益の増加額に占める為替要因の割合、今年度の予想営業利益の伸びは、図表の12社のIR資料に基づく。