企業結合2(EPSの名称も変わった)
2015年7月27日(月)アナリスト工房
今年度の第1四半期(2015年4-6月期)の新たな決算書は、わが国の企業結合会計の見直しに伴い、EPS(1株当たり利益)の名称が変更されている。
企業分析でよく用いるEPSとしての"1株当たり当期純利益"は、今般その名称が"1株当たり親会社株主に帰属する当期純利益"へと変わった。その重要な利益指標の分子は、非支配株主(少数株主)の分も含む新たな定義での"当期純利益"でなく、前年度までと同様にその中の親会社株主の分の純利益である。
非支配株主分も含めて企業グループをとらえる"経済的単一体説"へ移行するのに、なぜ引き続き親会社株主分のみがEPSの対象なのか?
アナリストの企業分析の主な目的が親会社株の価値の評価にあるため、その株式価値に結びつくEPSの分子には親会社株主に帰属する純利益を用いるからである。
グループ中核の親会社の発行する株式の価値には、親会社の価値に加えてその子会社の親会社株主分の価値が含まれるが、その非支配株主分の価値は含まれない。なぜなら、子会社の非支配株主分の価値は、その非支配株主自身が保有する子会社株の価値に含まれるからだ。
例えば70%子会社の場合、その株式価値の70%は同社を支配する親会社のもつ子会社株に、残る30%が非支配株主のもつ子会社株にそれぞれ反映される。うち非支配株主分のもつ子会社株の価値に結びつく純利益を、グループの純利益の合計から控除するのである。
結果、EPSの分子は親会社株主に帰属する純利益となり、それを生む株式の対象範囲としての分母(親会社の発行済株式数)と整合性がとれる。
よって引き続き、企業分析は非支配株主分を除いて企業グループをとらえる"親会社説"の立場で実施する点は変わらない。
今年度以降(2015年4−6月期以降)は、P/Lの純利益は"親会社株主に帰属する当期純利益"、EPSは"1株当たり親会社株主に帰属する当期純利益"を用いる。それぞれの定義は前年度までの"当期純利益"、"1株当たり当期純利益"と変わっていないが、名称が変わったのでご注意ください。
一方で今般の改正は、実は企業業績に大きく影響を及ぼすケースも想定される。一部の会社は純利益ならびにEPSの水準が激変するかもしれない。
「企業結合3(持分変動差額は剰余金へ)」へ続く
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