P/Lの国際比較(日・米基準とIFRS)

2014年4月25日(金)

大勢のアナリストがカバーしている日本の大手企業は、実は海外の会計基準を採用している先が意外と多いことをご存知でしょうか。

株式時価総額1兆円以上のわが国の上場企業91社中33社が、米国基準(US GAAP)あるいはIFRS(国際会計基準)のもとで決算書を作成のうえ、前期(2013年度)の本決算を公表予定です(4月21日現在)。

うち米国会計基準の20社は、トヨタ・日立をはじめ、わが国の主力産業である自動車・電機(部材を含む)が中心。また、武田薬品・三菱商事など製薬・商社が主体のIFRS勢は、前期は新たに6社も加わり13社へ急増しています。

アナリストにとって海外会計基準が必須と化すなか、そのもとで作成された決算書はどのように眺めたらよいのでしょうか?

今回は、決算書のページのなかで決算発表の際にもっとも関心の集まる「P/L(損益計算書)」を取り上げます。P/Lは、会社のその期の業績(稼いだ収益から払った費用を控除して利益がいくら得られたか)を表した財務諸表です。

以下、日本基準のP/Lを海外基準のものへ換算する方法を示したうえで、海外基準のP/Lの特徴と見方を説明します。

日本基準のP/L(図表左:*)は、会社がモノ・サービスの製造・販売で稼いだ「売上高(別名:営業収益)」からそのために払った「営業費用(売上原価と販管費)」を差し引き、事業で得た「営業利益」を導くことから始めます。

営業利益に財務活動に伴う「営業外損益(受取利息・配当金、持分法による投資利益、支払利息など)」の収益・費用を加減し、事業と財務活動の「経常利益」を計算。ここで経常利益は、海外の会計基準にはない、わが国特有の利益指標です。

この経常利益に臨時的に生じた「特別損益(投資有価証券売却益、減損損失など)」の収益・費用を加減のうえ「法人税等」を控除し、税引後の最終利益としての「当期純利益」に至ります。

このように途中で経常利益を経由する日本基準のP/Lが示す企業業績は、その利益指標のない海外基準ではどのように描かれるのでしょうか?

P/Lの日本基準から海外基準への換算は、売上高から当期純利益へ至る途中で寄り道した経常利益の前後(営業外損益と特別損益)を移動させ、道をまっすぐに補正するのが基本です。

そのためにまずは、経常利益の手前の営業外損益と直後の特別損益を構成するさまざまな勘定(図表では受取利息・配当金、持分法による投資利益、支払利息、投資有価証券売却益、減損損失)について、本業たる事業がらみのもの、金融収支などそれ以外のもの、の2つに分類しましょう。

一般に、事業用の固定資産を対象とする「減損損失」は前者、金融収支の「受取利息・配当金」と「支払利息」および持ち合い株式などの「投資有価証券売却益」は後者に分類されています。

次に、これらの事業がらみの勘定は営業利益の手前へ、金融収支などそれ以外の勘定は営業利益の後へ移動させましょう。

減損損失は、米国基準・IFRSともに「営業費用」へ。受取利息・配当金と支払利息は、米国基準の「その他の費用」、IFRSの「金融費用」へ。投資有価証券売却益は、米国基準の「その他の収益」の構成要素となりますが、IFRSではP/Lに計上されない点にご注意ください(**)。

一方、日本基準のP/Lから海外基準のものへの移動先がさまざまな勘定が、関連会社の当期純利益のうち親会社に帰属する「持分法による投資利益」です。それはまず、企業グループの事業がらみでの利益が中心である点を踏まえ、営業利益の手前へ移動できます(図表)。

あるいは、持分法会計のコンセプトが関連会社への株式投資なので、金融収支などと同様に営業利益の後へ移動も可能です。もしくは、持分法による投資利益の値が税引後であることから、法人税等の後に記されているケースも多く観察されます。

以上により営業利益は、日本基準では事業がらみの臨時的な特別損失(上記の場合は減損損失)を反映しないのに対し、海外基準ではそれが反映されます。同じ名称の利益指標でも定義が異なる点に要注意ですね。

よって海外基準の営業利益は、日本基準のものよりも利益が低水準となりやすいとともに、臨時的要因に左右されます。

また、日本基準の経常利益が会社の「長期にわたり安定して稼げる真の実力」をみるための利益指標に対し、海外基準の「税引前利益」は上記営業利益を受け継ぎ臨時的な特別損益に影響され不安定です。

よって日本基準から海外基準への換算は、売上高から当期純利益への道をまっすぐに正すメリットの反面、会社の真の収益力を測りづらくなるデメリットを伴います。

以上、同じP/Lとはいえ、経常利益を大切にする日本基準のものと事業がらみか否かを厳しく区別する海外基準ものとの間では、そのつくりも利益水準も大きく異なるのです。

会計基準の異なるP/Lを比較分析する際は、日本基準の経常利益の前後の勘定(あるいはそれらに相当する海外基準の勘定)を並べ替え、利益のスタンスを統一のうえで行ないましょう。

株式会社アナリスト工房

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*)図表の題材は、持分法適用の関連会社と100%の連結子会社をもつ会社(グループ中核の親会社)の連結P/L。そこには、子会社の当期純利益のうち親会社以外の株主に帰属する「少数株主利益」はなく、関連会社の当期純利益のうち親会社に帰属する「持分法による投資利益」が計上されます。

**)持ち合い株式などの投資有価証券は、売却前でも含み益が自己資本に反映されているため、売却益が事業などで稼いだ利益と異なり自己資本に積み上がりません。その点を踏まえIFRS9号(金融商品会計)は、資本増加に結びつかない投資有価証券売却益のP/L計上を禁止しています。投資有価証券の売却時は、それまでの含み益を益出しせず剰余金へ直接振り替えるのです。