バイデンリスクに負けるな日本円!
米大統領選後、日本勢の米債投資ヘッジの為替影響に大きな異変
欧中通貨急伸・米ドル低迷のなか、伸び悩む円の国際地位が危うい
2020年12月30日(水)アナリスト工房
アメリカのトランプ大統領は12月27日、議会で可決済みの9000億ドルの追加経済対策法案について、必要な給付拡充と無駄な支出カットの条件付きで署名することを発表。米大統領が議会に対し予算内訳を組み替えるよう指示したのは、1974年に制定された「予算執行留保統制法」に基づく。国民1人あたりの現金給付が600ドルから2000ドルへ大幅増額される一方、コロナ対策とほとんど関係ない海外援助などでのバラマキは禁じられた。
コロナ恐慌に苦しむ国民よりもバラマキ援助の利権が優先される最悪の事態は、ひとまず回避される見込みとなった。
週明けの12月28日、トランプ氏に同意した民主党が過半を占める下院は、予算内訳を組み替えた追加経済対策法案を速やかに可決。
共和党過半の上院は、国民給付引き上げに否定的な財政規律重視の議員に配慮し、採決の時期は未定(29日時点)。だが、組み替え後の予算総額が9000億円に収まることと、国民給付がわずか600ドルでは少なすぎることから、近いうちに上院でも法案が可決に至る可能性が高い。
「共和党議員たちは死にたくなければ、2000ドル給付を大至急承認するのが、やるべき正しい事だ。600ドルでは足りない!」
トランプ大統領(Dec 29th 2020)Twitter
しかし12月最終週の市場では、アメリカの財政をまかなう米国債とその通貨ドルの価格弱含みが顕著だ。ともに不安定な相場展開が続いている。
もしもバイデン氏が次期大統領に就任した場合には、次の追加経済対策が就任直後に予定されていることから、海外援助などを口実としたバラマキ再開・拡大への懸念が強い。市場参加者たちは、超放漫財政政志向のバイデン政権が誕生した場合の「バイデンリスク」に敏感だ。
ふと気がつくと、コロナ流行開始直後まで鮮明だった「ドル円為替が米国債利回りに連動して決まる傾向」は、米大統領選後まったく観察されなくなった(3つめのグラフ)。
まず、コロナ流行に伴う最初の米経済対策が決まり1ドル=101.19円の年初来安値を付けた時期(20年2〜3月)は、米国債10年物利回りが0.1%上昇すると95銭の円安ドル高になる傾向が、完全連動に近い相場連動性を表すR2(相関係数の2乗)とともに鮮明に観察された(下図)。
ドル円為替が米国債と市場連動性が高いのは、日本の機関投資家による「ヘッジ付き債券投資」の影響である。彼らが保有する米国債の市場価格の変化に応じて、為替ヘッジ額を次々と増減させていくことが、ドル円相場に大きな影響を与えてきた。
<外債投資の為替ヘッジと影響> ヘッジ状態を保つために
・米国債が利回り低下(価格上昇)→ヘッジのドル売りが増え円高へ
・米国債が利回り上昇(価格下落)→ドルが一部買い戻され円安へ
∴円高時のドル売りと円安時のドル買いが為替差損を招く仕組み
ちなみに、コロナ流行が始まるまでの半年間(19年8月〜20年1月)のドル円も、米国債利回りとの連動性が極めて高かった(図表)。
しかし米大統領選の翌日(11月4日)、「バイデン優勢」との開票速報とともに不正選挙騒動が始まってからは、ドル円の米国債との市場連動はほぼ完全に消失した。その事実は、無相関のR2(ゼロ)が明確に示している(図表)。
アメリカの大統領選後の米国債が利回り上昇(価格下落)傾向のなか、日本勢の米国債ヘッジでのドル買い戻しに伴う円安圧力が生じているのは間違いない。
ただ同時に、バイデンリスクを嫌気した大量のドル売りが、中国や欧州の通貨に対し観察される。GDP上位国通貨の年初来上昇率トップ3(スウェーデンクローナ、スイスフラン、欧州ユーロ)および非米主要2通貨(日本円、中国元)は、米ドルに対し年初来高値を付けた時期が日本円(3月)以外すべて12月だ。
結果、大統領選後の日本円と米ドルは連れ安と化している(下記)。
【主な通貨の年初来騰落率*)2020年】 12月29日時点
・スウェーデンクローナ(SEK): 8.26%
・スイスフラン(CHF): 3.68%
・欧州ユーロ(EUR): 3.60%
・中国元(CNY): 1.12%
・日本円(JPY): ▲0.55%
・米ドル(USD): ▲5.16%
世界のどこかで大きな危機が生じたとき、為替市場で買われる傾向の強い通貨を「逃避通貨」という。従来の逃避通貨は、異質な文化をもつ経済大国ニッポンの円と、軍事的に永世中立を貫くスイスのフランだった。
今年は、夏に新型コロナ流行を見事克服した集団免疫国スウェーデンのクローナが、新たに逃避通貨の仲間入りした。一方、米大統領選後にバイデンリスクを被った日本円は、逃避通貨としての地位を失ってしまうのか?
幸い、米大統領選の選挙人投票の結果が上院で集計される年明け1月6日、選挙人の間で票が割れた7州(PA、GA、MI、WI、AZ、NV、NM)の結果についてどちらを正当と認めるかは、合衆国憲法修正12条に基づき、上院議長たるペンス副大統領の裁量に委ねられる。バイデン氏は敗れる可能性が高い。
その点についてペンス氏は12月22日、全ての合法票を集計し全ての違法票を排除をするまで闘い続ける志を、フロリダ州の演説で熱く語った(Foxニュース『Pence urges conservatives 'to stay in the fight' as 'our election’ continues』Dec 22nd 2020)。
「選挙をめぐる戦いが続くなか、われわれは全ての合法票が集計され全ての違法票が排除されるまで闘い続けることを、聴衆の皆さんに約束する!われわれはジョージア州で勝利しアメリカを救うことができるし、偉大なアメリカを取り戻すまで戦いを決してやめない。闘い続けるぞ!(会場の聴衆は「USA、USA、・・・ 」と盛大にシュプレヒコール)完全に公正な選挙結果を取り戻すために闘い続けるぞ!」
ペンス副大統領(Dec 22nd 2020)フロリダ州での演説
なお、選挙不正に使用された中国企業傘下ドミニオン社の投票集計システムは、米陸軍305諜報大隊がフランクフルトでサーバーを押収済み。ドミニオン・サーバーに残っていた元データによると、獲得した選挙人がトランプ410人に対しバイデン128人でトランプ圧勝。元データを確保した米政権の副大統領が選挙人投票を公正に集計することは十分可能なはずだ。
各州の投票結果が連邦議会で集計される1月6日には並行して、大勢のトランプ支持者たちが首都ワシントンDCに結集予定。
「1月6日、ワシントンDCで会おう。乞うご期待。詳細は追って連絡する!」
トランプ大統領(Dec 27th 2020)Twitter
選挙人投票の結果が公正に集計された場合でもそうでない場合でも、トランプ氏は数十万人の支持者たちに担がれながら改めて勝利宣言のうえ米大統領の職務続投を表明する可能性が高い。トランプ続投のなか2021年は、日本円の価値を損なうバイデンリスクがサッサと後退する年明けが期待できそうだ。
アナリスト工房 2020年12月30日(水)記事
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*)*)年初来騰落率は、米ドルがBloombergドルスポット指数(BBDXY)、それ以外の通貨がBBDXYおよび各通貨の対ドルレートに基づく計算値。