米政権の2重マスク、中国元を反発

対中貿易の輸入主力品の推奨策が、米貿易赤字をさらに悪化

冬季五輪で披露されるデジタル中国元がドル安元高を加速へ

2021年4月21日(水)アナリスト工房

中国の1-3月の対米貿易は、マスクやPCの輸出を大きく伸ばした結果、黒字額が前年同期に対しなんと78%増と著しく拡大(4月13日公表)。最大の貿易相手国アメリカに対する黒字拡大に加え、国内では工場やマンションへの固定資産投資が活発な中国は、1-3月の実質GDPが前年同期比18.3%増と過去最高の伸び率となった(4月16日公表)。

【中国の対米貿易 2021年1-3月】

・輸出:1192億ドル(前年同期比75%増)

・輸入:466億ドル(前年同期比69%増)

・貿易収支:727億ドル(前年同期比78%増)

中国貿易統計(4月13日公表)に基づく

中国経済好調の最大の理由は、新型コロナ感染症をすっかり克服したため、経済活動が十分に再開済みであること。1-3月の中国の新型コロナ状況は、感染者数が5769人(1日あたりわずか64.1人)、死者数が59人(同0.7人)にすぎない。世界一の大量人口14億人を考慮すると、中国のコロナ流行はほぼ完全に終息したといえよう。

なお、主要国のなかで最初に新型コロナが深刻化した中国は昨年2月、巨大な体育館のようなメガ病院を、10日間の超突貫工事で次々と立ち上げた。そこでは、発症1週めの治療はほとんどなく、2週め以降自力で免疫力が上向いたコロナ患者に的をしぼって治療が施された。武漢の火葬場の求人条件「幽霊をみても恐れないこと」から伺い知れる”コロナ肺炎末期に苦しむ動く遺体”の早期焼却も奏功し、病院パンクは早期に見事解決された。

武漢のロックダウンが昨年4月に解除された直後から、自動車などの工場では労働者が次々と復帰。生産活動が再開・加速し、現在に至る。

結果、足元の為替市場では、中国元が主要4通貨のなかで年初来上昇率No.1に浮上している。一方、中国に巨額の対中貿易赤字を抱えるアメリカのドルは、米国債を損失覚悟で必死に買い支える日本勢(金融機関や保険会社)の旺盛なドル買い円売りにもかかわらず、3月末以降のダウントレンドが鮮明だ。

【主要4通貨の年初来騰落率*)2021年】 4月20日時点

・中国元(CNY):1.48%

・米ドル(USD):1.05%

・欧州ユーロ(EUR):▲0.44%

・日本円(JPY):▲3.50%

トランプ前政権は重い追加関税を課すなど過激な米中貿易戦争に挑んだ結果、米国産の大豆やトウモロコシの対中輸出を大きく伸ばした。一方でバイデン政権は、貿易交渉に消極的だけでなく、就任早々から米国民に”2重マスク”を推奨しており、まるで代表的な中国品(マスク)を輸入促進中とみてとれる。

4月16日の日米首脳会談は、訪米した菅首相を迎えたハリス副大統領も、会談の場に臨んだバイデン大統領もオースティン国防長官も、そろって2重マスク姿だった。米中貿易の不均衡是正は期待薄。中国元の対ドル相場は、1月に付けた年初来高値「1ドル=6.4236元」を近く再び試す展開が予想される。

来年以降の中国元は、中央銀行が発行するデジタル通貨”CBDC”の発行をきっかけに、世界シェアが飛躍的に伸びる可能性を秘めている。西側主要国のCBDCの開発がなかなか進まない一方、中国勢はSWIFT(米国主導の国際資金決済システムの運営組織)など西側機関の指南・助太刀を得てCBDC開発の進ちょくが断トツNo.1。

これまで北京や深圳の住民に2億元のCBDCが配布され、お店やネット通販での買い物、商業銀行ATMでの現金への両替など実証実験が重ねられてきた。スマホ決済を拒む現金主義者への配慮もバッチリだ。

その成果は、22年2月の北京冬季五輪の会場付近でお披露目される。中国元CBDCの一連の機能(買い物での資金受け払い、現金との両替、対外取引の即時決済など)とユーザーにとっての利便を、端末操作しながら体験できる場が設けられる予定。

「中国元の国際化は、何度も繰り返し表明してきたとおり自然的プロセスであり、ドルなど他の国際通貨に取って変わることが目標ではない。われわれの目標は、通貨選択を市場に任せ、貿易と国際投資を促進させることだと思う」

中国人民銀行の李副総裁(Apr 18th 2021)博鰲アジアフォーラム

冬季五輪の会場で期待以上の成果が発揮されれば、CBDCだけでなく貿易でも市場でも中国元を選択するユーザーが急増し、一段と通貨価値を高める中国元の国際化は自然に加速してゆくだろう。

アナリスト工房 2021年4月21日(水)記事

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*)年初来騰落率は、米ドルがBloombergドルスポット指数(BBDXY)、それ以外の通貨がBBDXYおよび各通貨の対ドルレートに基づく計算値。