米QE4縮小開始とドル高・自虐的円安

先行した”ステルス量的引き締め”での資金回収は、やはり通貨リセット級

2021年11月15日(月)アナリスト工房

いよいよ本日、米連銀FRBはテーパリング(量的緩和の段階的縮小・終了)を開始する(FRB傘下のNY連銀が12日公表)。先週まで月1200億ドルのペースで実施中だったQE4(19年10月からの量的緩和第4弾)は、今週から月1050億ドル、来月半ばから月900億ドルへと毎月同額ずつ縮小してゆき、やがて来年5月半ばから1カ月間の150億ドルを最後に終了予定(下記)。

【QE4のテーパリング(量的緩和第4弾の縮小・終了)スケジュール】


従来が月1200億ドル(米債800億、住宅ローン債400億)に対し、

・11月15日〜:月1050億ドル(米債700億、住宅ローン債350億)

・12月半ば〜:月900億ドル(米債600億、住宅ローン債300億)

       ・・・

・22年5月半ば〜1カ月:150億ドル(米債100億、住宅ローン債50億)

11月10日時点のQE4の規模総額は4兆6429億ドル(米債3兆3296億、住宅ローン債1兆2216億、企業ローンなど他917億)。その額は、過去すべての米量的緩和(QE1〜3)の合計3兆9550億ドルをすでに超えており、とんでもない巨大規模だ(下記)。テーパリングのスケジュールに基づくと、来年6月半ばの終了時のQE4規模総額は約5兆1000億ドルとさらに膨らむ。

<アメリカの量的緩和(QE)と量的引き締め(QT)の規模総額>


・QE4(19年10月- ):4兆6429億ドル(21年11月10日時点)


・QT(17年10月−19年7月): 6400億ドル


・QE3(12年9月−14年10月): 1兆6300億ドル

・QE2(10年11月−11年6月): 6000億ドル

・QE1(08年11月−10年6月): 1兆7250億ドル


FRB公表データに基づく集計値

一方、FRB傘下のNY連銀は3月半ばからリバースレポ(民間金融機関から翌日物資金を担保付き借入)を毎日実施し残高を次々と急増させ、市場から大量の資金を回収している(11月10日時点の回収額は1兆4486億ドル)。リバースレポによる資金回収ペースがQE4の資金供給ペースをはるかに上回ることから、すでにQE4マネーの約3分の1が回収済み(図表)。

本来であれば、テーパリング終了後に量的引き締め(中央銀行が過去の量的緩和で買い取った金融商品を市場へ売却することにより資金回収での引き締め策)を実施するのが、金融政策の基本。だが、NY連銀のリバースレポを用いた”ステルス量的引き締め”は、テーパリング開始の8カ月前から実施中。

基軸通貨の番人たる米連銀勢は、ドルの通貨価値を高めるために引き締め策をずいぶん早くから異常な超ハイペースで取り組んでいる。


やがて通貨の番人たちがQE1〜4のマネーの大半を回収する場合、その目的はもちろん通貨リセット(いまのドルから新ドルへの切り替え)。来年2月の北京冬季五輪で中国元CBDC(中央銀行が発行するデジタル通貨)が披露される。これまでの実証実験では、金融機関のATMで現金に替え使用できるカード型のCBDCも登場し、スマホ決済を拒む現金主義者への配慮もバッチリだ。普及が濃厚な中国元との対抗上、米ドルは基軸性を失わないために刷新を迫られているのが実情。

なお、米ドル刷新に伴う資金回収は、リバースレポのデフォルト処理(NY連銀があえて資金返済せず、担保の米国債が民間金融機関へ移転)をきっかけに、スムーズに進むと想定される。


為替市場では、米連銀勢の大規模な資金回収でのドル防衛が高く評価され、米ドルの年初来上昇率はGDP上位国の15通貨のなかで第4位と、先月半ばの5位から1ランク上昇。アメリカの国家デフォルト騒動と過度のインフレ状態にもかかわらず、ドルの通貨価値は堅調が続いている(下記)。

【GDP上位国通貨の年初来上昇率*)2021年】 11月12日時点


1. 中国元(CNY): 6.81%

2. ロシアルーブル(RUB): 6.11%

3. カナダドル(CAD): 5.85%

4. 米ドル(USD): 4.40%

5. インドネシアルピア(IDR): 3.16%

6. インドルピー(INR): 2.48%

7. 英ポンド(GBP): 2.45%

8. メキシコペソ(MXN): 1.32%

9. スイスフラン(CHF): 0.29%

10. 豪ドル(AUD): ▲0.51%

11. ブラジルレアル(BRL): ▲0.63%

12. 欧州ユーロ(EUR): ▲2.19%

13. 韓国ウォン(KRW): ▲3.83%

14. 日本円(JPY): ▲5.35%

15. トルコリラ(TRY): ▲22.32%

▼米ドル上昇率4位と堅調の舞台裏は、自滅させられワースト2位の日本円

ドル高の舞台裏のなかで最も鼻につくのは、対外証券投資でアメリカの買い支えに励む日本の機関投資家たちが日本円を売り浴びせ、ドル円相場が米国債利回りに強く連動して決まる傾向をすっかり復活させてしまった実態(図表)。

10月中旬から日本勢のオープン(為替ヘッジなし)での米債投資が活発化したのに伴うドル買い・円売りが、図表上方の113〜114円近辺の円安プロット群を形成中。結果、米10年債利回りが0.1%上昇に連れてドル円が1.11円ずつ円安進行する傾向が鮮明と化している。米債利回りとドル円の相関係数の2乗を表すR2が十分に高水準(0.808)なので、近似直線の当てはまり度はとても良好だ。

NY市場の日次終値に基づき作成

日本勢の主流の為替ヘッジ付き米債投資が形成した図表下方の109〜112円のプロット群(6月最終週〜10月上旬)は、米債利回りとドル円の連動性がとくに高い。その理由は、投資対象の米債の利回り変化に基づく価格変化に応じて、日本の投資家が為替ヘッジの金額を次々と増減させていくことによる。

米債の価格が上昇(利回りが低下)したとき、日本勢が上昇後の米債価格のもとでヘッジ状態を保つためにドル売り・円買いの為替ヘッジの金額を増やすことがドル安・円高の要因。逆に、米債が価格下落(利回り上昇)したときは、為替ヘッジ金額減少(一部のドル買い戻し・円売り戻し)がドル高・円安の要因となる。(下記)。

【日本勢の米債投資の為替ヘッジと市場影響】 ヘッジ状態を保つのが基本


・米債が利回り低下(価格上昇) →ヘッジのドル売りが増え円高へ

・米債が利回り上昇(価格下落) →ドルが一部買い戻され円安へ

そんな集団的投資行動の手口が丸見えなので、彼らの投資成績は悪い。日本の機関投資家の為替ヘッジがたいてい月1回(月末だけ)なので、ドル円が米債利回りに連動する傾向に沿って為替レートを導くのは、先回りし素早く為替を売買し為替差益を稼ぐヘッジファンドなど海外の投機筋。

一方で日本勢は、海外勢の為替売買が導き形成した不利な水準での為替売買(円高進行後のドル売り、あるいは円安進行後のドル買い)を強いられ、為替差損を積み重ねており、円ベースでのプラス利回りは期待薄なのが実態だ。


投資家に限らず、日本全体の国損への懸念も広まっている。米債が売り浴びせられ利回りが著しく上昇したとき日本では、急激な円安進行に伴う輸入物価高を通して、国民の暮らしを圧迫する過度のインフレを招く危険が高い。差損続きの投資家にとって自虐的なだけでなく、アメリカ発の危険な超インフレ経済をわが国へ導く反社会的な投資行動は、どうしても気色悪く鼻についてしまう。

アナリスト工房 2021年11月15日(月)記事

------------------------------------------------------------

*)GDP上位国は2020年の上位19カ国で、うち欧州の5カ国(独、仏、伊、スペイン、オランダ)が共通通貨のユーロ圏。年初来騰落率は、米ドルがBBDXY(Bloombergドル・スポット指数)、それ以外の通貨がBBDXYと各通貨の対ドルレート基づく計算値。