QE4の後始末とロシア発の金本位制

対ロ制裁に伴いインフレいっそう深刻に。QEマネー回収を急ぐ米連銀

2022年3月14日(月)アナリスト工房

(2022年3月15日(火)2つめの脚注追加)

中央銀行がお金を刷って国債などを買い取るQE(量的緩和)は、新たに刷られたお金が金融商品の市場価格を買い支えながら、政府の財政調達をサポートしてきた。しかし、大規模なQEがダラダラと長く続いた場合には、市場経由で社会を巡り巡るお金がやがて深刻なインフレを引き起こす致命的な副作用を伴う。

だからこそ、米連銀FRBが2014年までに実施した過去3回のQE(QE1、QE2、QE3)は、計3兆9550億ドルを途中で2度休止し様子見のうえ各回8カ月〜2年2カ月と、FRBの慎重な緩和姿勢がみてとれた。

<米連銀のQE(量的緩和)&QT(量的引き締め)の規模>


・QE1(08年11月−10年 6月):1兆7250億ドル

・QE2(10年11月−11年 6月); 6000億ドル

・QE3(12年 9月−14年10月):1兆6300億ドル


・QT(17年10月−19年7月): ▲6400億ドル


・QE4(19年10月ー22年3月上旬):4兆9158億ドル(*)

うち米国債が3兆5304億、モーゲージ債MBSが1兆3196億

(3月9日時点の連銀B/Sに反映済みの速報値)

一方、先週ようやく終了したQE4は、途中休止なしで2年半にわたり4兆9158億ドルの超大規模緩和と化すまで、新型コロナ流行のなかダラダラと続いてしまった(*)。結果、21年6月以降のアメリカのCPI(消費者物価指数)は、前年同期に対し5%超の深刻な物価上昇が続いている。CPIでみたインフレ率は、22年2月には7.9%と1982年1月以来の高水準。

ロシア軍のウクライナ侵攻に伴い、ロシア産ガスの欧州への供給がままならなくなった場合には、3月以降さらなるインフレ進行が想定される。金融政策でのインフレ退治がいっそうの重要課題と化している。


米連銀が計4回のQEを通して市場で買い取った米国債など金融商品の保有残高は8兆5106億ドルと、総資産8兆9107億ドルのなんと95.5%も占めている(3月9日時点)。アメリカのインフレの最も大きな原因は、連銀のバランスシートを異常に膨らませている金融商品の買い取り代金約8.5兆ドル(=QE1〜4で刷られたお金の残高)。

連銀がバイデン大統領の意向どおりインフレを退治するためには、金融商品の満期継続停止や中途売却により保有高を劇的に減少させる「バランスシート縮小」を急ぐ必要がある。遅くても6月のFOMC(アメリカの金融政策決定会合)までに、米国債の満期継続の一部停止やMBSの中途売却によるバランスシート縮小策が正式に決まるだろう。

▼米国も貴金属本位への備え。溜め込んだリバースレポのデフォルト策

一方、ロシアのプーチン大統領は3月9日、議会で可決済みの金(ゴールド)の付加価値税廃止法案に署名。金の売買にかかる税金を廃止する本件は、通貨価値を金で裏付ける「金本位制」へ移行するために必要なプロセス。為替市場では、ロシアが金本位の通貨制度へ移行するとの観測が強まり、通貨ルーブルが大きく反発。7日に付けた史上最安値一時1ドル=177.2606ルーブルに対し、足元のロシアルーブルはなんと51%も上昇している(3月14日時点)。

ロシアが金本位制へ移行するときは、ロシア主導で非ドル化を推進中の国々(中、ロ、インド、トルコ、イランなど)もジョインする可能性が濃厚。そのときは、基軸通貨国アメリカをはじめ他の国々も、通貨暴落を防ぐためには貴金属本位の通貨制度へ移行するしかない。


アメリカが貴金属本位制に踏み切るときは、米連銀FRBがリバースレポ(民間金融機関からの米国債担保付き翌日物借入)を政策的にデフォルトさせることにより、バランスシート縮小が一気に進むと想定される。

21年3月から毎日実施中のリバースレポの足元の残高は1兆5425億ドル(3月9日時点)と依然高水準。市場の余剰資金を集めて回収してきたリバースレポがデフォルトした場合には、担保の米国債(連銀資産)が正式に金融機関勢へ移転するのと同時に、返済を免れる米連銀は約1.5兆ドルの資金を正式に回収できる。リバースレポ・デフォルト・ショックをきっかけに以降、米ドル資金回収が飛躍的に進み、連銀FRBが金・銀など貴金属本位の新ドル切り替えに踏み切るだろう。

リバースレポを空前の規模に膨らませた連銀FRBは、あらかじめ新たな通貨制度への移行準備を進めていたと推察される。備えあれば憂いなし。


米ドル以外の為替取引が豊富で流動性の十分高い主要通貨(日本円、欧州ユーロ、中国元など)も軒並み貴金属でしっかり裏付けられたとき、ドルの基軸通貨としての地位が自ずと消滅してゆく。新たな国際通貨制度のもとでは、「基軸通貨」という概念自体が存在しなくなるかもしれません。

アナリスト工房 2022年3月14日(月)記事

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*)QE4の緩和規模は、FRB週次公表の最新バランスシート(B/S)に反映済みの3月9日時点までのデータに基づく集計速報値。

**)なお、1.5兆ドル規模のFRBリバースレポがデフォルトした場合の市場影響は、大量の米ドル回収に伴い市中の1ドルあたりの通貨価値が突然跳ね上がるためドル急騰。そのとき、一方で市中へ大量放出される米国債は、いきなり需給が著しく悪化するため暴落する。足元のドル高、米国債価格安(利回り高)は、リバースレポ・デフォルトへの懸念を強く反映しているようだ。デフォルトに賭けるビッグプレーヤーの存在が伺い知れる。