自虐的円安とロシア発金本位が加速

米国債利回り連動型のドル円が、過度の円安とインフレを招く危険急上昇

2022年3月28日(月)アナリスト工房

ウクライナを侵攻したロシアヘの経済制裁は、制裁対象国ロシアでなく、制裁の担い手であるはずの西側諸国を自虐的に痛めつける制裁内容と化している。なかでも市場への悪影響が極めて大きいのは、エネルギー価格高騰に伴うインフレ加速。

3月上旬にQE4(量的緩和第4弾)を終えたばかりのアメリカは、深刻なインフレを退治するため5月までに、連銀FRBが0.5%以上の大幅利上げだけでなくバランスシート縮小(QEで買い取った金融商品の残高削減)に慌てて踏み切らなければならない状況を自ら招いてしまった。

<米連銀FRBバランスシートの総資産構成> 3月23日時点


QE対象資産:8兆5607億ドル

(米国債5兆7591億ドル、MBS2兆7388億ドルなど)

その他の資産:4018億ドル

資産合計:8兆9625億ドル


上記QE対象資産8兆5607億ドルの内訳:

・QE4で買い取った金融商品の保有残高:4兆9659億ドル

(米国債3兆5361億ドル、MBS1兆3670億ドルなど)

・QE1〜3で買い取った金融商品の保有残高:3兆5948億ドル


FRB週次公表の3月23日時点までのデータに基づく集計速報(*)


米連銀のバランスシート縮小の悪影響が最も懸念されているのは米国債。先週末25日の10年債利回りは一時2.50%と19年5月以来の水準まで急騰(価格は急落)した。その日の米国債のイールドカーブ(満期ごとの利回り曲線)は、3〜30年債のなかで10年債の利回りが最も低い珍事だ。外国中銀などが懸命に買い支えようとしている米10年債でさえ、価格急落を防ぐのが困難と化している


結果、米国債利回りとの連動性がとても高いドル円は先週末、一時122.44と15年12月以来の円安水準。近似直線(ドル円=10.567×米10年債利回り+95.417)に基づくと、アベノミクスの円最安値(15年6月の一時125.86)は、米10年債利回りが2.9%までさらに上昇したとき再び試す展開を迎えそうだ(図表:**)。

対ロ制裁に伴うエネルギー価格高騰の西側諸国への跳ね返りは、主要通貨のなかでは、重い米国債リスクを背負った日本円が最も大きな悪影響を被っている。なお、今週初3月28日のドル円は、自虐度No.1の日銀指し値オペ(日本国債10年物の利回りに0.25%の上限設定)の犠牲となり、一時125.09と15年8月以来の水準まで円が激しく続落中(東京時間18時時点)。

NY市場終値に基づき作成

▼金1g=5000ルーブルの中銀買取価格が金本位推進。米国よ、お前もか

一方、中国とインドへのガス供給を増やすことを合意済みのロシアは、欧州や日本にこれまで米ドル建てだったガス代を今後ルーブルで支払うよう要求中。ロシア産ガスへの依存度が高い欧州勢(とくに中核国のドイツ)は、ロシアの要求を拒み続けるのが難しい状況。並行して、サウジアラビアが中国への原油輸出を人民元建てにすることに前向き姿勢のなか、エネルギー取引でのドル外しが本格化し”ペトロ人民元”や”ガス・ルーブル”が台頭する日は近いかもしれない。


ルーブルの最大の注目点は、金本位の通貨制度への移行。ロシアのエネルギー輸出での稼ぎは、次々と金(ゴールド)に換金され、すでに国内にある中銀の金庫に金準備(外貨準備に占める金)としてたっぷり貯め込まれている。


ロシア中銀は本日3月28日から6月末まで、金1グラムあたり5000ルーブルの固定価格で、国内の金融機関から金を買い取ってゆく(Russian Central Bank Starts Buying Gold)。

ルーブルの番人は、通貨価値を裏付ける金準備をいっそう充実させながら、市場の需給を参考に固定価格の落とし所を探ろうとしている。6月末までの金の固定価格は、金1オンス(31.1034768グラム)あたりに換算すると155517ルーブル。足元の米ドル建て金相場との比較から導かれるルーブルの対ドルレートは、1ドルあたり79.35ルーブルと2月22日の為替市場の水準。金本位をきっかけにウクライナ侵攻直前の為替水準を取り戻す、ロシア通貨の番人の狙いも伺い知れる。


ロシアが金本位制へ移行するときは、ともに非ドル化を推進中の国々(中、ロ、インド、トルコ、イランなど)ももちろん一緒。西側諸国も通貨暴落を防ぐためにサッサと貴金属本位の通貨制度へ移行するしかない。

そのとき日本は、米国債が暴落する前に金本位移行を完了しなければ、米国債利回り連動型のドル円が空前の円安と化し、過度のインフレを招く危険が高い。なぜなら、アメリカが貴金属本位制に踏み切るときは、米連銀FRBが1.8兆ドル規模のリバースレポ(民間金融機関からの米国債担保付き翌日物借入)を政策的にデフォルトさせることにより、バランスシート縮小が一気に進むと想定されるからだ(図表)。

巨額に膨らんだリバースレポがデフォルトしたとき、担保の米国債(連銀資産)が正式に金融機関勢へ移転するのと同時に、返済を免れる米連銀は1.8兆ドルの資金を正式に回収できる。以降、米ドル資金回収が飛躍的に進み、連銀FRBは金・銀本位の新ドル切り替えに踏み切るだろう。巨額のリバースレポは、アメリカの新たな通貨制度への備えだ!

一方、リバースレポ・デフォルトに伴い市中へ大量放出される米国債は、いきなり需給が著しく悪化するため暴落する。そのとき、米10年債利回り連動型のドル円が一気に超円安と化し、やがて日本にハイパーインフレが訪れる。その前に米国債とドルを外さなければ、日本経済の未来は絶望的かもしれない。

アナリスト工房 2022年3月28日(月)記事

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*)3月上旬に終了したQE4でFRBが買い取ったモーゲージ債MBSのなかには、受渡日(買い手の資産と化す日)が翌月のものがいくつかある。それらが週次公表のFRBバランスシートに反映されるのは、4月13日が132億ドル、20日が29億ドル、27日が42億ドル。一方、それまでに満期到来などによる減少要因も想定されることから、約4.97兆ドルのQE4総額などはあくまでも3月23日時点までの集計速報値。


**)米10年債利回りとドル円は、R2乗値(相関係数の2乗値)がと非常に高水準であることから、連動性がとても高い。その理由は、投資対象の米債の利回り変化に基づく価格変化に応じて、日本の投資家が為替ヘッジの金額を次々と増減させていくことによる。


・米国債が利回り低下(価格上昇)したときは、ヘッジのドル売りが増え円高へ

・米国債が利回り上昇(価格下落) したときは、ドルが一部買い戻され円安へ