FRBプレQTとルーブル金連動が好調

追加利上げで魅力を高めた米リバースレポが、ドル資金回収を早くも加速

2022年5月9日(月)アナリスト工房

先週3-4日に開催されたアメリカの金融政策決定会合FOMCでは、量的引き締めQT(米連銀FRBが過去の量的緩和QEで買い取った米国債およびモーゲージ債MBSの保有高縮小へ)を6月1日から開始することと、0.5%の利上げ(新たな政策金利は0.75〜1%)が決定された。QTのペースは、6〜8月が月475億ドル(=米国債300億ドル+MBS175億ドル)、9月から月950億ドル(=米国債600億ドル+MBS350億ドル)と倍増予定。


今回のFOMC決定事項のなかで最も着眼すべき点は、リバースレポ(FRBが米国債を担保に民間金融機関からの翌日物借入)の適用金利を政策金利と同様に0.5%引き上げ0.8%とし魅力をいっそう高めたことである。

結果、苛酷な量的引き締めがまだ始まっていないのに、米国債やMBSなど債券市場から逃げた投資マネーだけでなく株式市場を嫌気して去ったマネーも米リバースレポへ早い段階でますます殺到している。3日連続伸長したリバースレポの残高は、先週末6日には1.86兆ドルと、まるで月末のピーク並みの高水準。

米連銀FRBにとって超大規模なリバースレポは、金融機関勢を通して市場から過去のQEマネーを回収する重要手段である。QE4(19年10月-22年3月上旬の量的緩和第4弾)で放出された4.95兆ドルのマネーは、QT開始に先立ち早くも37.6%回収済み(=1.86兆ドル/4.95兆ドル)。

基軸通貨の番人FRBは、リバースレポ拡大策でドル資金をせっせと回収することにより、市中の1ドルあたりの通貨価値を高めている。為替市場では、そんなフライング引き締めの奇策が、日本円や欧州ユーロに対し不自然極まりない米ドル高を演じている。今回のFRBの0.5%利上げは、アメリカの過度のインフレを退治するには焼け石に水だが、同じ利上げ幅を適用したリバースレポでのプレ引き締め拡大には絶妙な効果を発揮している。

▼ドル防衛強化の舞台裏は「金1g=4000ルーブル=400元」の中ロ連携

西側の主要通貨のなかで堅調な米ドルの番人FRBがなりふり構わずドル防衛に励む舞台裏では、金本位を推進中のロシアの通貨ルーブルが高騰しており、貴金属での価値裏付けのないペーパーマネーのドルが基軸通貨の地位を脅かされている。

天然ガスなどエネルギー輸出の稼ぎをせっせとゴールドに換金してきたロシアは、すでに中央銀行の金庫に金準備(外貨準備に占める金)をたっぷり貯め込んだ。ロシア中銀は3月最終週、国内の金融機関から金1グラムあたり5000ルーブルの固定価格で金買い取りを実施し始めることにより、通貨価値を裏付ける金準備をさらに充実させながら金本位推進を本格化した(図表)。

モスクワUSD/RUB翌日物とNY金先物中心限月の終値に基づき作成

4月第2週、市場のルーブルが目標(金1グラムあたり5000ルーブル)に達した。以降、ロシア中銀の金買取価格は市場実勢を踏まえ金融機関との交渉により決められているが、ルーブルはその目標水準を2週間保ち通貨価値の安定性を取り戻した。4月最終週以降のロシア通貨の番人は、よりルーブル高の目標(金1グラムあたり4000ルーブル)へ誘導のうえ、その水準を保つトライアルを実施中と見受けられる(上図)。

さまざまな水準で金連動をアレコレ試しながらロシアは、金1グラムあたりのルーブル固定価格の落とし所を見出してゆくだろう。


ウクライナ侵攻に伴う西側の対ロ制裁が始まった直後のルーブルは、3月上旬に一時1ドル=177.2606ルーブル(年初来57.6%のルーブル安)まで落ち込んだ。しかし、ロシアへの制裁のはずなのに、実質的には西側諸国を痛めつける自虐的制裁(欧州の深刻なガス不足、エネルギー価格高騰に伴う過度のインフレ、日本円や欧州ユーロの大幅な通貨安による不況への懸念)と化しているのが真の実態。

制裁がけっして及ばないロシアの通貨ルーブルの金連動トライアルが絶好調のなか、先週5月5日のルーブルは一時1ドル=62.3062ルーブルと20年1月以来の水準まで高騰。結果、GDP上位の国々の通貨のなかでルーブルは年初来上昇率No.1(5月6日時点)。東西の枠を超えて大勢の参加者が集う為替市場では、ロシアの通貨が公正に評価されている。


ロシアが金本位制へ正式に移行するときは、貿易の資金決済で米ドル外しに共同で取り組んできた中国、インド、トルコ、イランなどドル基軸制に否定的な国々ももちろん一緒。なかで最も注目されるのは、3月第2週から中国が金1グラムあたり400元での金連動をリハーサル中とみてとれる現象だ(下図)。

上海市場の中国元(CNY)とNY金先物中心限月の終値に基づき作成

「ゼロコロナ政策のもと上海など各地でロックダウン(都市封鎖)を実施中のなか、中国ではその悪影響を受けて景気減速への懸念が強まり、通貨元が急落中」との報道が相次いでいる。しかし、3月9日以降の中国元は金1グラムあたり391〜411元と、約400元を中心に安定的に推移しているのはなぜか?

中国元の為替水準を細かくコントロールしている通貨当局は、金価格の急落に合わせ元の通貨価値を下落させることにより、金1グラムあたり400元での金連動リハーサル実施中と見受けられる。


4月18日から5月6日までの3週間、金価格が5.2%急落したのに合わせ中国元が4.5%下落させられた。結果、その間の金1グラムあたりの中国元価格の変動は、通貨当局の狙いどおり1%未満に収まった。

このように、金価格の変動に追従しながら政策的に為替をコントロールするのが、金本位の為替管理の基本である。2018年に金1オンスあたり8200元での金連動リハーサルを見事成功させた中国は、そのとき金本位のもとで為替水準をコントロールするノウハウを習得した(中国元の金連動リハ成功と次の一手)。ロシアの金連動トライアルが初回(金1グラムあたり5000ルーブル)からとても上手だったことから、きっと中国が指南役と推察される。


ロシアが中国などと一緒に金本位制へ正式に移行するときは、ペーパーマネー制の西側諸国も、通貨価値の暴落を防ぐためには、貴金属で通貨価値を裏付けるしか選択肢がない。


大規模QEを長く続けたアメリカが貴金属本位へ移行するときは、金・銀などで価値を裏付けられる資金量にごく限りがあることから、市場から大半の資金を回収し資金量を適正化しなければならない。

だからこそアメリカは、QE終了からの3カ月足らずで大規模QT(量的引き締めによるQEマネー回収)を始めるだけでなく、追加利上げを口実にプレQT(リバースレポ)での資金回収力を一段と高めた。米連銀FRBは大急ぎで大量の資金回収に取り組む姿勢がとても鮮明。とはいえ、備えあり憂なしは、奇策の得意なパウエル議長のFRBだけかもしれません。

アナリスト工房 2022年5月9日(月)記事