日本円、金1g=7800円の金連動観測

金価格急落に合わせ、急激な円安が進行。円の金連動試行はとても順調!

2022年9月19日(月)アナリスト工房

西側主要国のなかで日本は、”金融政策の実験場”としての役割を長く担ってきた。08年に始まった”マンネリ量的緩和”は、1度も中断せず、いまも実験継続中。しかも、緩和の対象資産に満期のない株式(中央銀行が株式を手放すためには売却する必要あり)をたっぷり加えてしまった。満期のある国債(中銀が国債を手放すには満期不継続とすればよいだけ)とは異なり、他の主要国のように量的引き締め(量的緩和の巻き戻し)へ転じるのが難しい。

結果、いまの過度のインフレにもかかわらず引き締めに踏み切れない日本の量的緩和は、明らかに実験失敗だ。他の主要国の中銀は、わが国の量的緩和のマンネリ化と株式追加の愚策を、けっして真似たりしなかった。


しかし、失敗に負けず日本では、新たな政策的実験「日本円の金連動トライアル」が、急激な円安進行と金価格下落の追い風に乗り、とても順調とみてとれる。6月下旬以降、金1グラムあたりの日本円価格は、なんと約7800円を中心に狭いレンジ内で推移中(図表)。

米ドル建てのNY市場の金価格は、ドル通貨防衛の目的のためか、アメリカの量的緩和が終わった3月上旬から不自然な急落基調が続いている。急速なドル高・円安傾向も、当時から始まり現在に至る。結果、3月以降の金1グラムあたりの円価格は、基本的にレンジ内での動きにとどまっている(上図)。


9月7日のドル円は、一時149.99円と1998年8月以来の円安水準。だが、金1グラムあたりの円は、6月下旬以降の狭くなったレンジを突き抜けず、たちまち中心価格7800円に向かって反発している(上図:1グラムあたりの日本円価格の数字が小さいほど金安・円高)。


金と円の連動性が不自然に高い値動きから、日本円の政策的実験「金連動トライアル」が実施中と推察される。米ドル建ての金価格急落のペースに合わせ、ドル買い・円売りが実施されている。売られた円は、金と同様にドルに対し急落することにより、金1グラムあたりの価格がとても安定的だ。

このようにとても順調とみてとれる金連動実験は、金融・通貨当局だけでは資金量と機動力が乏しいことから、ビッグプレイヤーの市場参加者もさりげなく担っているかもしれません。

▼ユーロとポンドよ、お前らもか!受取拒否を恐れ、金本位制へ急ぐ西側通貨

今回の日本円の政策的実験「金連動トライアル」がとても順調のなか、日本に続き英国を含む欧州勢も米ドル建ての金価格急落に合わせ、急いでドル買い・自国通貨売りの大量実施に踏み切った。

8月下旬の”パリティ割れ(1ユーロあたり1ドル未満の状態)”以来すっかり低迷中の欧州ユーロは、9月6日には一時0.9864ドルと02年10月以来のユーロ安水準までさらに急落。9月16日の英ポンドは、一時1.1351ドルと1985年3月以来のポンド安水準まで、エリザベス女王の国葬(22年9月19日)さえ待てず暴落した。


ユーロもポンドも、金1グラムあたりの価格がまだまだ安定には至っていない。が、日本に続き欧州勢も、通貨価値を貴金属で裏付ける金本位への準備をすでに始めたと見受けられる。

日欧英の金連動トライアルの舞台裏では、中国とロシアの金本位への準備がすでに整いつつある。(脚注*、**)。ペーパーマネー制の妥協的通貨を発行してきた西側諸国も、通貨の価値毀損や受取拒否を防ぐためには、貴金属で通貨価値を裏付けるしか選択肢がなさそうだ(下記引用)。

「時の流れに抵抗しながら西側諸国は、何世紀もかけて築いた世界経済の重要な柱を損なってしまった。目の前では、米ドル、ユーロ、英ポンド建ての支払いや準備資産が信頼を失っている。われわれは段階的に、そんな信用できない妥協的通貨の利用を減らしている。(中略)ガスプロム社とその中国取引先(国営CNPC社)は、(従来ユーロ建てだった)ガス代金を”ルーブル50%・人民元50%”の割合で受払いすることに合意済みだ」

プーチン露大統領(Sep 7th 2022)東方経済フォーラム

すでにEU(欧州連合)諸国のロシアへのガス代金支払いは3月以降、ユーロが受け取り拒否され、ロシアの要求どおりルーブルと化した。8月末からEUへのロシア産ガスは、パイプラインの保守作業の後、G7の価格上限制にロシアが反発し、供給停止中。EUへガス供給できる余裕があるのは、長期にわたりロシア産ガス輸入を激増させてきた中国しか見当たらない。中国のロシア産ガス代金の支払いは、従来ユーロだったが、9月6日以降”ルーブル50%・人民元50%”へ変更済み(上記引用)。

エネルギー取引で拒まれ外されたユーロをはじめ、ペーパーマネー制の西側主要国の通貨は、とにかく急いで貴金属で価値を裏付ける必要に追われている。金本位制への道は避けられそうにない。

アナリスト工房 2022年9月19日(月)記事

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(*)中国元は、「金1グラムあたり400元での金連動トライアル(22年3月9日-6月29日)」が極めて安定的で順調だった(下図)。

上海市場の中国元(CNY)とNY金先物中心限月の終値に基づき作成

為替を市場に委ねず細かくコントロールしている中国の通貨当局は、金価格の上下に合わせ元の通貨価値を上下させることにより、金1グラムあたりの中国元の水準を維持。実は、上海ロックダウン(22年3月10日-6月1日)の実施と解除も、金連動を保つ絶妙なタイミングだった。

中国通貨当局は、前回の金連動トライアルを成功させた18年4月下旬-10月半ばまでに、金本位制を前提に為替水準をコントロールするノウハウを修得済み、新たな通貨制度への備えがバッチリと見受けられる。

(**)ロシア中銀は22年3月28日、金融機関から金1グラムあたり5000ルーブルの固定価格で買い取ることにより、通貨価値を裏付ける金準備(外貨準備に占める金)を充実させながら金本位への準備「通貨価値の金連動トライアル」を開始。当初の目標水準(金1グラムあたり5000ルーブル)をしばらく保ったルーブルは4月半ば、為替市場で通貨価値の安定を取り戻した。

以後、よりルーブル高での金連動トライアル(4月下旬から4000ルーブル、5月中旬から3600ルーブル、6月中旬から3200ルーブル)も、次第に収束傾向であることから、依然順調とみてとれる(下図)。

モスクワUSD/RUBとNY金先物中心限月の終値に基づき作成