カタルーニャ州の情勢と為替影響

スペインからの独立賛成派が州議会選挙に勝利も、ユーロ高が続く舞台裏

2017年12月25日(月)アナリスト工房

先進国の主要3通貨(円、ドル、ユーロ)のなかで、今年の価格上昇率No.1は欧州のユーロ。EU(欧州連合)のうち19カ国の共通通貨ユーロは、年初来、日本の円に対し9.2%、基軸通貨ドルに対し12.8%も上昇しています(今月22日時点)。ユーロ堅調のいちばんの理由は、ECB(欧州中銀)の緩和終了への観測が強いことです。

今年10月、ECBは量的緩和(国債などの資産買い取りによる市場への資金供給)を来年9月まで9カ月延長の一方、その規模を毎月300億ユーロへ半減することを決定。すると、緩和の資産買い取り枠(2.5兆ユーロ強)は来年9月までにほぼ全額(2.55兆ユーロ)が尽きるため、以後さらなる延長の可能性は低い

昨年までの最大のユーロ安要因だったECB緩和の縮小・終了への見通しが広まったことが、今年のユーロ高の主な原因です。

ECBの緩和撤退への観測が台頭しはじめた10月当時は、ユーロ高要因がスペインのカタルーニャ自治州の独立騒動にいったん打ち消されてしまいました。

独立を意思表示した州民投票の結果を踏まえ、カタルーニャ州議会はスペインからの独立を可決し、プチデモン州首相が”カタルーニャ共和国"としての独立宣言に踏み切りました。直後、ラホイ首相のスペイン政府は、カタルーニャの自治権を一時停止するとともに、プチデモン氏をはじめ閣僚を解任。州議会は解散させられ、総選挙を強いられたのです。

▼徴税権をめぐる中央政府との争いが、州民の旺盛な独立心を刺激

ちなみにカタルーニャの人々は、スペイン語とは異なる独自の言語(カタルーニャ語)をもちます。スペイン人である前に”カタルーニャ人"の彼らは、独立心が旺盛。旧フランク王国から独立した10世紀からスペインに併合された18世紀までのカタルーニャは、カタルーニャ君主国(987-1716)という独立国でしたからね。以後、"カタルーニャ独立騒動"が繰り返し生じています(下記)。

「スペイン北東部のフランスとの国境に接するカタルーニャ自治州(人口7.5百万人)は、独自の言語と文化をもち、スペインのGDPの20%を担う。(中略)1934年、カタルーニャ州はスペインからの独立を宣言したが、翌日にはスペイン軍が州政府庁舎を爆破し独立を打ち消した

"The Pressure Rises in Catalonia”, Bloomberg Businessweek, Sep 25th 2017

第2次世界大戦後、スペインの独裁者フランコ(1892-1975)が亡くなった後のカタルーニャは、州政府が医療・教育などで独自の政策を展開できる自治州(1979-)となりました。いまの独立騒動の根本的な原因は、カタルーニャで徴収された国税のなんと4割も中央政府へ上納しなければならない理不尽です(下記)。

本来であれば財政豊かなはずのカタルーニャは、2012年の"スペイン金融・財政危機"に巻き込まれてからは、いまもスペイン経済とともに低迷が続いています。

「2012年の夏に州財政が破綻の危機に直面した。その解決方法としてカタルーニャ州議会は、中央政府に緊急の財政支援を要請するだけでなく、カタルーニャ州内で徴税する国税を自由に州財政へ組み込めるよう提案したのである。(中略)

しかしラホイ首相は、カタルーニャへの緊急財政支援に関しては応じたものの、国税の自由使用には同意しなかった。このラホイ首相の回答は、カタルーニャにおいて、再び中央政府によるカタルーニャへの嫌がらせとみなされたのである」

「カタルーニャでは、州内で徴税した税金のうち、州財政に交付金として還元されるのは約6割である。(中略)カタルーニャがより豊かになるためには、スペインからの独立しかないと世間一般で主張されるようになった」

永田智成(2016)「21世紀における国家の地域の関係への模索」

『スペインの歴史を知るための50章』明石書店

▼独立後もEUに残留したいカタルーニャの騒動は、ユーロへの影響が中立

話を、カタルーニャの州議会総選挙と為替影響へ戻しましょう。

先週21日の州議会総選挙の結果は、独立賛成派が過半数(全135議席のうち70議席)を獲得。その議席数は前回2015年の総選挙の結果(独立賛成派は72議席)とおおむね等しいことからも、カタルーニャ州民の旺盛な独立心はいまも揺らいでいない。

今回の選挙では、プチデモン前州首相の政党JXC(カタルーニャのための連合)が、独立賛成派3党のなかで最多の34議席を得ました(下記)。来春以降、与党第1党のJXCが次期州首相を輩出する可能性が高い。そのとき再び、カタルーニャ独立への動きが活発化しはじめるでしょう。

カタルーニャ共和国は、スペインの王政と(わが国の独立を阻む)憲法155条を撃退した。スペイン王国とそのラホイ政権の敗北だ!(中略)欧州の人々は、ラホイ首相の政策手法が通用しないことに注目すべきだ。(中略)われわれは、カタルーニャ共和国の勝利のニュースを世界へ伝えることができた」

プチデモン前カタルーニャ州首相(Dec 21th 2017)選挙インタビュー

大方の予想どおり独立賛成派がカタルーニャ州議会総選挙に勝利したことを受けて、直後の為替市場は1ユーロ=1.185ドル近辺での小動きに終始。翌日の先週末のユーロ/ドルの終値も同レベル。量的緩和終了への観測を背景に、すでに堅調さを取り戻していたユーロの価値はまったく揺らいでいない

市場の反応が薄い根本的な理由は、EU離脱を決めたイギリスとは逆にカタルーニャがEUユーロ圏に残留希望のため、実はカタルーニャ独立がユーロ相場に影響しない可能性が高いこと。独立後のカタルーニャが引き続きユーロを用いる限り、為替市場全体のユーロ通貨売買の需給は変わりませんからね。

また、カタルーニャがEUにとどまる限り、その独立はEU全体のGDPにも影響しない。カタルーニャとそれ以外のスペインのGDP合計額は、従来の統計手法によるものと同じ結果ですからね。為替市場の参加者がみるこの実体経済の指標で考えても、カタルーニャ独立の為替影響は中立なのです。

すなわち、独立後のカタルーニャがEUユーロ圏へ残留する限り、カタルーニャ独立騒動のユーロ相場への影響はないはずです。

いまスペインを通じてEUへ加盟しているカタルーニャ州がこれから国として独立した場合にも自動的に加盟継続できることをあらかじめEUが確約すれば、為替市場はカタルーニャ情勢を見守らずに済むようになるでしょう(*)。

アナリスト工房 2017年12月25日(月)記事

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*)逆に、EUがカタルーニャへ独立後の再加盟手続きを求める場合には、独立に伴いGDPならびに税収がカタルーニャへ移転するスペインを含む全加盟国による加盟承認が必要です。その場合には、スペインの賛成をカタルーニャ独立前のいまの段階で得るのは難しいが、独立後にはイギリスに続くEU離脱ドミノを食い止めたいEUはスペインに対しカタルーニャの加盟承認するよう説き伏せると想定されます。