人民元の普及が進む2つの理由

2014年7月25日(金)

1944年7月、第2次世界大戦(1939−45年)の連合国側44カ国の代表がブレトンウッズ(米ニューハンプシャー州)で通貨金融会議を開催。米ドルを基軸通貨とする戦後の国際通貨体制について合意するとともに、IMF(国際通貨基金)と世界銀行(当初は国際復興開発銀行)の設立を取り決めました。

IMFは経済危機に陥った国々への貸付、世界銀行はインフラ建設のための事業ローンを担う国際機関です。ともに、米国の出資比率が突出して高いことから、その通貨ドルの覇権を支えるための機関といわれています。

ドル中心の通貨体制ができてから70年後の今月15日、BRICS首脳会議がフォルタレザ(ブラジルの主要都市の1つ)で開幕。その加盟5カ国(ブラジル、ロシア、インド、中国、南ア)は、共同で準備基金と開発銀行の設立を合意しました。

設立予定の準備基金はIMF、開発銀行は世界銀行の役割(上記)を担います。また、これまで判明している準備基金への出資比率は、中国が41%も占める計画です。

よって、中国を主体とするBRICS勢の今般の行動は、米国のドルを基軸通貨とする現在の国際通貨体制への挑戦状と見受けられます。

2013年のBRICS5カ国合計のGDPは世界全体の21%、前年に対するGDP伸長額は世界全体の55%。その新興5カ国は、すでに米国(GDPは世界全体の23%)に匹敵する経済規模に達しており、しかも世界の経済成長をけん引しています。

BRICSの中心的役割を担う中国の人民元は、米ドルに取って代わり基軸通貨への道を歩んでいくのでしょうか?

基軸通貨とは、国をまたぐ商取引や貯蓄・投資において最も多く利用される通貨です。それを最終的に決めるのは、企業や金融機関など通貨を扱うユーザーです。

次の2つの理由により、中国の人民元は世界の多数派ユーザーの支持を得て、将来の基軸通貨となる可能性が高いと想定されます。

<安定性の高い通貨価値>

まず、貿易など商取引での通貨の受払いでは、その通貨の価値が安定していることがユーザーにとっての必要な要件です。

なぜなら、もしも不安定な通貨を用いてその価値が急変した場合には、それを受取る側あるいは支払う側が大きな損失を被り、両者の間で安全に取引できません。

その点、中央銀行が為替介入で相場水準を厳しくコントロールしている人民元(対ドルの人民元相場)は、わが国の円(対ドルの円相場)、欧州のユーロ(対ドルのユーロ相場)よりも為替変動がはるかに小さいことから、通貨価値の安定性が高いといえます(図表)。

なお、アベノミクスの政策(量的緩和、インフレ推進など)に振り回される円、加盟国が債務問題(ギリシャ、スペインなど)を抱えるユーロは、為替が激しく動いており価値が不安定です。

両通貨を為替取引で交換するドルも、"米国デフォルト騒動"が問題未解決のまま繰り返されていることから、円・ユーロと同様に通貨価値が大きく揺らいでいます。

<通貨価値の大きな上昇余地>

また、海外の金融商品への貯蓄・投資では、その通貨価値が上昇した場合、為替差益が得られることによりリターン(収益率)が向上します。

中国の人民元は、購買力平価に基づく理論価格が「1ドル=3.52元(*)」に対し、その足元の市場価格はわずか「1ドル=6.19元」。なんと43%も超割安な状態です。

そのことにより市場では旺盛な元買い需要があって本来なら元高への強い圧力が働きますが、実際には為替介入により元高進行のペースは過去6年間に10%とゆっくりです(図表)。

緩やかとはいえ一本調子での元高基調により、人民元建ての金融商品への貯蓄・投資では、上記理論価格が実現するまで長期にわたって確度の高いリターンが期待できます。

以上、通貨価値の安定性と上昇余地の大きなメリットがユーザーの支持を集め、貿易金融での人民元の世界シェアはすでにユーロを抜き第2位。足元は、BRICS内だけでなく欧州・米国・中東・アフリカの対中貿易でも、人民元での資金決済が急速に広まっています。

ヘッジファンドなどによる大規模な国際証券投資ではなかなか利用できないデメリットはありますが、貿易とそのための為替ヘッジ目的での人民元はすでにおおむね自由に活用できる市場が整備されているのです。

企業や金融機関などのユーザーが人民元を積極活用していくことは、決済需要の減少する米ドルが価値を損なうとともに不安定と化す要因となります。

結果、国をまたぐ商取引や貯蓄・投資でのいっそうの"ドル外し"を誘発させ、そのとき円もユーロも価値の安定性を取り戻していない限り、ユーザーは人民元へのシフトを加速させると想定されます。

早ければ2018年までに、人民元は米ドルの世界シェアを抜き、基軸通貨の座を獲得できるでしょう。

株式会社アナリスト工房

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*)購買力平価に基づく1ドル当たり3.52元(=16.9元/4.80ドル)の理論価格は、英エコノミスト誌2014年7月26日号の"ビッグマック指数"に関する記事による。