通貨オブ・ザ・イヤー2012はユーロ
2012年12月12日
アナリスト工房の"通貨オブ・ザ・イヤー"では、その年に最も大きな材料となった通貨を選定しています。それがポジティブな好材料でもネガティブな懸念材料でも、公平に賞の対象です。
昨年の通貨オブ・ザ・イヤーの受賞は、8月のデフォルト騒動のあげく10月に一時75.32円の戦後最安値をつけた米国の通貨ドルでした。
続いて今年は、相次ぐ債務危機の抜本的な解決策が見出せず価値の不安定な欧州の共通通貨ユーロに決定します!ちなみに今年のユーロは、スペインの不良債権問題が懸念され7月は一時94.12円まで急落し、その後も値動きの荒い展開が続いています。
一方、ユーロを共通通貨とするEU(欧州連合)は、10月にノーベル平和賞を受賞しました。古代から第2次世界大戦まで戦争を繰り返していた欧州の国々が1つに結束し、平和が続いている点が評価されたからです。その国際政治的な意義にはもちろん敬意を表します。
しかし、「欧州は1つ」のスローガンの下で、17カ国の通貨を共通化したことは失策と考えます。共通通貨のユーロを導入したことが、2010年以降の”欧州債務危機”でこれまで5カ国(ギリシャ、アイルランド、ポルトガル、スペイン、キプロス)がEUへの金融支援要請に至った原因だからです。
なぜ、いくつかの国々の間で共通の通貨を導入してはいけないのでしょう?
世界にはさまざまな国があり、それぞれの国が金融・通貨に関する政策を行なう必要があって、その効力を発揮するには国ごとに通貨が異なることが条件だからです。
例えば、ある国が国際競争力の低下とともに輸出取引が落ち込み景気が大きく悪化したとしましょう。景気を回復させるための政策としては、中央銀行がその国の政策金利を引き下げるとともに、為替市場に介入しその国の通貨を売って価値を切り下げることがよく行なわれています。やがて、金利の引き下げが企業の設備投資を促し、通貨の切り下げが輸出での国際競争力を取り戻すための原動力となるからです。
ここで、まず金利は通貨が生み出すもの(例えば「ドル金利」はドル通貨の金利)であり、金利は通貨によって決まります。また、通貨を切り下げる必要があるのは、世界のなかで競争力の低下した国だけです。他の国に対する競争力回復が目的なので、その国の通貨だけが切り下げなければ意味がありませんからね。
したがって、国の金融・通貨政策を有効なものにするためにはその国の通貨が独自のものであること、すなわちその国と別の国々との間で通貨が互いに異なることが必要なのです。
一方、債務危機で行き詰まった5カ国は、外国への債務返済の原資を稼ぐために景気を回復させたくても、独自に政策金利を引き下げることができません。EUの政策金利は、欧州中央銀行がユーロ圏17カ国全体の金融・経済情勢を踏まえ、共通通貨ユーロの政策金利を決定するからです。その1つだけの政策金利の水準には、大国のドイツとフランスの情勢が色濃く反映されることはいうまでもありません。
また、上記5カ国は輸出での国際競争力を取り戻したくても、その国だけ通貨を切り下げることはできません。域内の貿易が主体にもかかわらず域内でただ1つの共通通貨に縛られているからです。
よって、国の起死回生に必要な金融政策も財政政策も、その国が独自通貨でない限り不可能なのです。最後の切り札が使えず回復できないこれらの国々は、このままではEUからの金融支援と債務免除をいつまでも要求するでしょう。
経済格差の大きな17カ国へ共通通貨を適用することには無理があります。債務危機で苦しむ国々が健全な経済状態を取り戻すには、共通通貨ユーロを廃止し以前のように各国の独自通貨に復帰することが必要と考えます。将来もし独自通貨への復帰が実現したら、その時はポジティブな好材料としての"通貨オブ・ザ・イヤー"をユーロからの脱退国すべてに付与したいと思います。
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