購買力平価1(ユーロは超割高)
我が国の貿易赤字の拡大と日銀の追加金融緩和を受けて、2012年2月の為替市場では一時81.66円まで円安進行。前年10月の最高値75.32円から8%反落した。
債務危機に陥った欧州の€に続き、日本の通貨もやがて投機筋の餌食になってしまうのだろうか?あるいは、米国の「外国への借金はお金を刷って返せばいいさ」との無責任が続く限り、1$当たりの価値低下は必然で、再び円高基調に戻るのか?
為替相場の長期予測には、「購買力平価(PPP: Purchasing Power Parity)」が様々な分野で活用されている。購買力平価とは、世界に自由経済が浸透している中、モノの価格がどこの国でも同じになるように為替相場が決まるとの考え方である。
もちろん市場の為替相場は、その時々の市場参加者の需給と行動に伴い、円高と円安の波を描きながら変動してゆく。為替相場の波が長期的にはどのレベルを中心に推移してゆくのかを見通す際に、購買力平価に基づく理論価格が重要な手掛かりとなる。
世界中で一物一価と仮定されているモノとしては、英エコノミスト誌の採用しているビッグマックが最もメジャーである。米タイム誌と並ぶ同名門誌は、マクドナルド社の世界共通のバーガー商品の店頭価格に基づき計算した、為替の理論価格「ビッグマック指数」を掲載している。
2012年1月中旬のビッグマックの平均価格は、米国が4.20$、日本(東京)が320円。購買力平価によると、同じ商品は両国間で価格が等しいことから、4.20$=320円。よって円相場の理論価格は「1$=76.2円」(=320÷4.20)となる。
ちなみに当時の実際の市場実勢は、76円後半を中心に推移しており、概ね理論価格の水準である。前年の7月下旬時点での理論価格(78.6円)も、その時の市場実勢(78円台半ば中心)と同レベルであった。円相場の市場参加者はビッグマック指数を強く意識している、と伺い知れる。一時的には円安に振れることがあっても、再び円高トレンドに復帰すると想定する。
一方で欧州の共通通貨€は、市場の為替相場の割高感が強い。2012年1月中旬のビッグマック指数に基づく理論価格が91.7円に対し、市場実勢は当時が97円台後半を中心に推移。翌2月には、ギリシャへの追加支援に楽観的な見通しが広まり、市場実勢は一時109円前半まで(理論価格に対し20%割高の水準まで)€高が進行した。
しかし、ギリシャの2011年10-12月のGDPが前年同期比▲7.5%と大きく落ち込んでいることから、緊縮財政の下での経済回復は期待薄。さらなる追加支援要請が確実視される中、現在の€相場には著しい割高感が見受けられる。債務状況のさらなる悪化のニュースをきっかけに、やがて理論価格(91.7円)に向けて切り下がると予想する。
以上、一時的な材料に飛びつき€に向かっていた投資マネーは、その逃避先としての円と$に再び戻ってくるであろう。中長期のターゲットは、購買力平価の理論価格($は76円台、€は91円台)。筆者の好物のスペイン産ワインの輸入価格は、まだまだ安くなりそうだ。
なお、国の借金がGDPの2倍を超える日本も、ギリシャと同じく大きな債務問題を抱えているが、財政を賄う日本国債は9割超を国内投資家が保有する。海外の投資家に多くの割合を依存する欧米諸国と違って、我が国の債務問題は為替には概ねニュートラルであることを付け加えておく。
次回「購買力平価2(TPPで超円高へ)」へ続く(2012年2月28日)
株式会社アナリスト工房