ドル高が続かない背景に"ドル外し"

2014年10月27日(月)

今月は為替の動きが激しい。市場では、米国経済の力強さ(?)と早期の利上げ観測を理由に、ドル/円(円相場)は急伸。1日に110.09円の高値をつけた。

しかしその後、世界経済の成長鈍化(特にユーロ圏)に伴う米国への悪影響が懸念され、15日には一時105.20円まで大きく反落。リーマン・ショック前の高値水準(2007年6月につけた一時124.14円)は、はるか彼方へ遠ざかってしまった。

いったいなぜドル高は続かないのか?

そもそも、110円台に値するようなドル高の理由は、実は初めから存在しない。

まず、米国経済の力強さを最も印象づけたとされている9月の雇用統計は、失業率が5.9%(その前の月は6.1%)へ大きく低下した。しかし、減った失業者(9月は前月比33万人減)とほぼ同数の非労働力人口が増えている点(同32万人増)にご注意。

すなわち失業率低下は、職探しをあきらめた失業者(実質は長期失業者)が非労働力人口へ振り替わることで統計の対象から外されたためである。実質的には雇用情勢がまったく改善していないため、GDPの7割を占める個人消費が伸びる要因とはならない。

また、米国の政策金利の引き上げ時期は、今年3月にFRB議長がQE3(量的緩和の第3弾:12年9月−14年10月)の終了後6カ月程度と議会証言している。はじめから来年前半の利上げが既定路線だ。

なのに、市場では利上げ時期が「早まる」と「遅れる」との観測を交互に繰り返し、その強弱を巧みにドル高が演出されてきた。よく聞く「米国経済の力強い回復」との白々しい台詞とともに、悪乗りが過ぎる演出といえよう。

結果、今月7日にIMF(国際通貨基金)が世界経済見通しを引き下げたことを受けて、その米国経済への波及が懸念されたのを機に、超割高なドルは失速してしまった次第だ。

さらに、中国の人民元の普及に伴う"ドル外し"の動きも、ドル高が続かない理由である。

先月末、為替市場では人民元とユーロとの間で基軸通貨のドルを介さない直接取引がスタートした。中国の最大の貿易相手はユーロ圏の欧州である。その中欧貿易を題材に、ドル外しとは何かを説明しよう。

以前は、中欧貿易での代金の受け払いとその為替ヘッジでは、人民元とユーロを交換する際に、いったんドルを経由する必要があった。

例えば、欧州の企業が中国からの輸入の代金を人民元で支払うためにユーロを人民元に替えるとき、ユーロをドルに替えたうえでドルを人民元に替えるといった2つの為替取引を要した。なおその企業では、中国への輸出取引も為替ヘッジも行っているため、逆の為替取引(人民元をドルに替えたうえでドルをユーロに替える)も生じるとしよう。

このような典型的なケースでは、貿易と為替ヘッジで受け払いするドルの決済口座が必須であり、決済に十分なドル資金を口座に常備しておかなければならなかった。

しかし、人民元の取引拡大とともに市場が整備され、9月30日からは人民元とユーロとの直接交換の取引が実現している。上記欧州企業の中国ビジネスでは、ドルの決済ならびに資金が不要となった。

外された基軸通貨のドルは、その決済需要の減少に伴い、価値が損なわれるとともに不安定となってゆく。

足元の市場では、ユーロ圏のQE(量的緩和)が「限定的な規模のまま」と「積極拡大する」との観測を交互にかつ巧みに強弱をつけて繰り返すことで、ユーロ安ドル高につられドル/円は107円後半へ反発している。

とはいえ、ドル外しにより真の価値が損なわれる中でのドル高の演出は、大きな無理がある。不安定な相場展開はしばらく続くだろう。高水準の市場価格を支えきれなくなったとたん急落を招く危険には、くれぐれもご注意ください。

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