FRB無制限プリントマネーの狙い

レポオペとQE4により回収されたドル建て債務のリストラがはじまる

2020年4月16日(木)アナリスト工房

日本で新型コロナウィルス感染症が急増し始めたのは、初の死者が生じるとともに乾いた咳を耳にする場面が茶飯事となった2月中旬。一時避難のために来日した大勢の中国人感染者たちとの接触が奏功し、このとき多くの日本人が流行中の疫病に対する免疫力を獲得したと推察される。

新型コロナによるこれまでの死者数が首位のアメリカや2位のイタリアに対しわずか1%未満の日本は、国民の大半に免疫力を付けさせ疫病を乗り越える「集団免疫」が進ちょく順調といえよう。

しかし、東京五輪延期が決まった後の日本政府は、新型コロナの検査数を急拡大したことに伴う感染者急増を口実に、米欧諸国に続いて非常事態を宣言(4月7日発表)。東京をはじめ日本の主要都市では、企業の在宅勤務が急速に広まるとともに人々の外出とお店の営業が自粛を強く促され、経済活動がすっかり停滞してしまった。

また、新型コロナの日本製特効薬「アビガン」は、中国での高い成果により外国からの注文が殺到し、日本政府がすでに50カ国への無償提供を決定済み。なのに日本国内では、未だ治験(観察研究)が不自然に長引いているため、効き目の高い疫病治療薬アビガンの服用は限定的なのが実態だ。

「私は軽度の感染者ですがとにかく苦しいです。(中略)39°Cまでなりました。咳も止まらず痰がひたすら出てきて息が止まって飛び起きます。(中略)いよいよ死ぬかも!?と思いアビガン治療を決意しました」

「私の場合ですが、体調不良の過程をa→b→c→dって悪くなっていったとすると、アビガンを飲んでからd→c→b→aと順を追って通ってきた症状をもう一度体験しながら治って行ってるのを実感します」

「平熱の36.5℃になり、朝昼晩はかりましたが体温変わらずで咳は少し減り、痰の量も減りました。一日中元気です!

タレントのソラ豆琴美さん(Apr 14-15 2020)Twitter

本来なら集団免疫とアビガンでパンデミック(疫病の世界流行)を容易に克服できるはずだった日本は、悪戦苦闘中の米欧などと協調し「パンデミック恐慌」にドップリ浸かる覚悟を決めたようだ。

パンデミック恐慌に挑む西側諸国の政策協調といえば、FRB(米連邦中銀)がQE4(量的緩和第4弾)と並行して実施中のレポオペ(米国債などを担保に中央銀行が金融機関へ貸し付けることによる資金供給策)での海外中銀勢とのコラボレーションが挙げられる。「プリントマネー」の別名をもつQEと同様に、中央銀行が市場へ大量の資金を供給するレポオペもプリントマネーの一種だ。

NY市場の金融機関勢の資金調達難が深刻化した19年9月から、FRB傘下のNY連銀はレポオペでの大量資金供給を毎日続けている。

3月23日、FRBはQE4での債券買取予定額を「必要額」へ改定し事実上の「無制限緩和」に踏み切ったのと同時に、海外でのレポオペを日銀やECB(欧州中銀)など「通貨スワップ協定」を締結済みの5つの中銀経由で開始。31日からは、米国債を保有するすべての海外中銀が現地市場のレポオペでドル資金を供給できるようになった。

結果、レポオペでのドル資金供給は、すでにNY連銀が担う国内市場よりも通貨スワップを活用した海外市場が重点先だ(下記)。

<米レポオペとQE4による資金供給残高(Apr 8th 2020:*)>

・レポオペ(通貨スワップ3581億ドルを含む):5509億ドル

・QE4(ローン1296億ドルを含む):1兆6289億ドル

・合計:2兆1798億ドル

レポオペ(通貨スワップを含む)および19年10月から実施中のQE4による資金供給残高は、早くもリーマンショック時のQE1(08年11月ー10年6月に1兆7250億ドル供給)を超えた。今回のコロナショックは、突入直後からリーマンのときよりもはるかに深刻だ。

QE4では、従来からQEの対象だった米国債とMBS(住宅ローン債券)だけでなく、新たに自動車ローン、学生ローン、クレカのローン債券も対象となった。他にも地方債(州・都市・郡が発行する債券)、社債(低格付債を含む)、企業融資などがQE対象として次々と加わることが決定済み。

このままでは、年内にレポオペとQE4によるプリントマネーでの資金供給残高は6兆ドルを突破し、そのときFRBの総資産は10兆ドル超へ膨らむ(*)。トランプ大統領が指名・任命したパウエル議長のFRBは、あらゆる種類のドル建て債務を買い集め国有化する覚悟を決めた

▼発行激増の米国債は、100年債との強制交換を通して債務清算へ

なかでも米連邦政府債務の米国債は、パンデミック恐慌に挑む経済政策に伴い、その発行額およびFRBの引受額が急膨張していく可能性が高い。

トランプ政権がすでに始めた2兆ドルの大型経済政策(プリントされたマネーを市場でなく国民へ配る「ヘリコプターマネー」など)に続き、さらに2兆ドルの追加策(道路・橋・鉄道などインフラ建設の公共事業)が米議会で検討中。コロナショック以降の新たな全米失業者が22百万人を超えたなか、国民の大半に行き渡るヘリコプターマネーでの現金給付と公共事業での雇用創出が欠かせない。

これらの政府支出をまかなう米国債の発行急増に向けて、もしもその利回りが跳ね上がった場合には、連邦政府の資金繰りが行き詰まる危険あり。産業競争力をつけて深刻な貿易赤字を減らすためにも米政権は、FRBに利下げなど緩和推進を強く迫りながら、米国債のリファイナンス(借り換え)を計画してきた(下記)。

「FRBよ、賢くなれ!低金利諸国に挑む競争力をつけるために、はるかに高水準の米ドル金利を利下げすべきだ。そうしてくれたら、アメリカは債務のペイオフ(清算)とリファイナンス(借り換え)に注力できる

トランプ米大統領(Jan 28th 2020)Twitter

米財務省は20年債の発行を6月までに34年ぶりに再開する予定(2月公表)だったが、いまでは25年債および50年債の発行がホワイトハウスで検討中。国債の平均償還年限をいっそう長期化させることにより、連邦政府の資金繰り悪化を和らげる狙い。なお、ムニューシン財務長官は「50年債が上手くいけば、100年債を発行する可能性がある」と超長期債発行への意欲を表明済み(昨年9月)。

最大の債権国(米国債保有額No.1)ニッポンは、米国債発行の激増と年限長期化を支えることにより、アメリカ救済への覚悟を決めたようだ。

今年4月からGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)は、米国債など外国債券での運用比率の目安を25%へ引き上げた(従来の目安は15%)。公的年金の受給開始時期の選択肢を75歳まで拡大する法案(国会で審議中)は、20代での年金加入から75歳以降の受給までの期間に合わせ、米50年債を運用に組み入れる口実づくりと推察される。

なお、市場のニーズがほとんどない100年物米国債が発行されるときは、大統領の国家デフォルト宣言とともに、投資家が保有する米国債と新たな超長期債との交換を強制される「リファイナンス(借り換え)」での実質的な借金踏み倒し(清算)が実施される可能性が高い。

にもかかわらず、日本が米国債をいっそう積極的に買い向かう姿勢は、対米黒字国からの投資マネーで潤い続けたい一部の金融筋など「反トランプ抵抗勢力」のためのドル防衛目的とみてとれる。新型コロナの特効薬アビガンをなかなか普及させない実態と同様に、そんな自虐的な国際協調に走る日本の将来がいちばん心配だ。

アナリスト工房 2020年4月16日(木)記事

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*)米レポオペとQE4による資金供給残高は、FRBが週次公表する連結B/S(傘下のNY連銀を含む)の推移に基づく集計値。

なお、20年4月8日時点のFRBの総資産6兆0831億ドルは、NY市場での「レポオペ(1928億ドル)」、海外レポオペのための「通貨スワップ(3581億ドル)」、従来からのQE対象の「米国債(3兆6344億ドル)」と「MBS(住宅ローン債券)1兆4597億ドル」、新たなQE対象の「ローン(1296億ドル)」の5つの勘定が95%を占める。