出番ですよ!超長期50年物の米国債
イエレン財務長官は、前政権から引き継いだ50年債構想に意欲的
市場ニーズの薄い超長期国債の発行目的は、国家破たん処理か?
2021年2月12日(金)アナリスト工房
バイデン米政権の放漫財政への懸念が一段と強まったのに続き、過去最高規模の米国債入札が始まった今月の市場では、米国債の需給悪化がますます深刻となりそうだ。
2月10日の10年債入札はまずまず順調だったが、翌11日の30年債入札は一転して需要低調により苦戦し債券価格が押し戻された。17日には20年債入札が控えている。来月以降も最高額に近い入札が予定されており、予断を許さない状況は続く。
【米国債入札スケジュール(21年2月)】注目は10ー30年物
・10日の10年債:410億ドル(過去最高の昨年11月と同額)
・11日の30年債:270億ドル(過去最高の昨年11月と同額)
・17日の20年債:270億ドル(過去最高の昨年11月と同額) など
膨張加速中の米連邦政府の財政をまかなう新たな資金調達手段として、イエレン財務長官は前任のムニューシン氏から引き継いだ超長期の50年債発行案件に前向きな姿勢を示している(後述)。
今回は、アメリカの急速に膨らむ財政と政府債務のとんでもない実態と市場影響をわかりやすく説明しながら、もっととんでもない50年債案件の舞台裏を紹介しよう。
2月5日、米議会は経済対策1.9兆ドル(国民1人あたり1400ドルの現金給付など)の予算決議案を可決。議員の賛否が同数(与党民主党50人が全員賛成、野党共和党50人が全員反対)の上院では、議長を兼ねるハリス副大統領による1票が決め手となった。そのとき民主党は、巨額の予算を要する法案を単独で可決できる体制を世界に見せつけた。
強引に可決された予算決議に基づき、3月半ばまでに経済対策法案がバイデン氏の署名を経て成立予定。アメリカの財政と政府債務はますます膨らむ。
そもそも国民1人あたりの現金給付1400ドルは、昨年12月に600ドル支給した前回の経済対策0.9兆ドルの予算内での組み替えにより、トランプ大統領の指示どおり速やかに上乗せ支給することが可能だった。にもかかわらず当時の上院(とくに国民給付に否定的な財政規律重視派の一部の共和党議員)は、トランプ氏に従わず、コロナ対策とは関係ない海外援助などでのバラマキを優先した。
結果、予算規模が国民への現金給付額ともに膨らむ今回の経済対策1.9兆ドルは、バラマキ援助など利権がらみの案件がいっそう盛り沢山と推察される。
米財務省の公表データによると、アメリカの連邦政府債務残高は過去1年間でなんと19.8%も激増(20年1月末:23.2兆ドル→21年1月末:27.8兆ドル)。政府債務をまかなう米国債の市場では、財政規律のない経済対策に伴うバイデン超放漫財政への懸念が一段と強まった。
2月8日の米国債10年物は、利回りが一時1.200%と20年3月以来の水準まで急上昇(価格が急落)。最長の30年物は一時2.006%と20年2月以来の2%越え。イールドカーブのスティープ化(満期までの期間による利回り差の拡大)が顕著ななか、市場参加者は先行きさらなる利回り上昇(価格下落)を見込んでいる。
にもかかわらずバイデン政権のイエレン米財務長官は、前任のムニューシン氏が検討していた米国債50年物の発行案件に意欲的だ。
1月19日の上院財政委員会の公聴会でイエレン氏は、トランプ政権から引き継いだ50年債発行に関する質疑で「とくに超低金利のときは、超長期債を発行し債務調達するのが有利。本件を検討するのは非常に幸いであり、市場が50年満期の国債をどのように受け止めるのかを精査したい」と回答し、超長期債の発行に想定外の前向き姿勢を示した。
とはいえ、財政規律ゼロのもとで市場ニーズの薄い超長期の米国債が発行された場合には、米国債の価格続落とともにイールドカーブのスティープ化がさらに激しく進行し、たちまち米国債入札が消化できなくなりアメリカの国家破たんを招く危険が極めて高い。
前FRB議長(連銀トップ)のイエレン財務長官が受け継いだ50年債発行案件は、大統領の国家デフォルト宣言とともに、投資家がすでに保有中の米国債と新たな超長期債との交換を強制されるリファイナンス(借り換え)を通して、実質的な借金踏み倒し(清算)に至るシナリオが濃厚だ(下記)。
「FRBよ、賢くなれ!低金利諸国に挑む競争力をつけるために、はるかに高水準の米ドル金利を利下げすべきだ。そうしてくれたら、アメリカは債務のペイオフ(清算)とリファイナンス(借り換え)に注力できる」
トランプ米大統領(Jan 28th 2020)Twitter
ちなみに、20年3月にFRB(米連銀)が米ドル金利をゼロ(0-0.25%)まで利下げして以降、米連邦政府はリファイナンスによる借金踏み倒しの準備を本格化。20年5月、ムニューシンの米財務省が34年ぶりに20年債の発行を再開した。
いよいよ次は、借金踏み倒しの必要が増す超放漫財政のバイデン政権のもと、後任のイエレン財務長官が極めて長い”伝家の宝刀(50年債発行)”をどのタイミングでいつ抜くかが注目される。
最後に、アメリカには大統領官邸ホワイトハウスが2つある。1つは、首都ワシントンDCのホワイトハウスだが、トランプ支持の米軍が軍事封鎖中。2月中旬のいまも現地は、米議会とともに有刺鉄線付きの高いフェンスで完全に囲まれまま(ZeroHedge記事『National Guard And Razor Wire Everywhere: DC Gets Dystopian As Impeachment Trial Kicks Off』Feb 7th 2021)。
”影の軍事政権”のもと、バイデンの政策運営にはもちろん影の意向が反映され、そこには前政権の50年債発行案件が含まれていると見受けられる。
もう1つのホワイトオフィスは、フロリダ州パームビーチにあるトランプ前大統領の別荘”マララゴ”。冬のホワイトハウスとして指定されたマララゴは、VIP待遇の安倍首相や習主席が連日にわたり滞在した記録がある。今冬1月25日、トランプ氏が設立した影の連邦政府”前大統領オフィス”は、ズバリ冬のホワイトハウスたるマララゴだ。
トランプの影の連邦政府は、アメリカ国家破たんの役割と責任をバイデンたちに負わせ、一段落したタイミングで表舞台に返り咲き国家再建に挑む戦略と推察される。借金帳消しのうえ、アメリカが再出発する日は近いかもしれない。
アナリスト工房 2021年2月12日(金)記事