QE4縮小前に資金回収を始めた米連銀

1980年代の悪性インフレ再燃への懸念が、大規模緩和にノー

2021年5月27日(木)アナリスト工房


アメリカの中央銀行FRBは、実施中のQE4(量的緩和の第4弾)で大量の金融商品を買い取り続けたことにより、これまで3兆9191億ドルの莫大な資金を市場へ供給してきた(5月19日時点)。

主な金融商品の買い取りペース(米国債:月800億ドル、住宅ローン債券:月400億ドル)に基づくと、来月半ばまでにQE4の資金供給残高は、過去のQE1〜3の合計3兆9550億ドルを早くも超過してしまう可能性が極めて高い(下記)。

<アメリカの量的緩和(QE)の規模*)>

・QE4(19年10月−):3兆9191億ドル(21年5月19日時点)

  うち米国債が2兆8488億ドル、住宅ローン債券が9058億ドル


・QE3(12年9月−14年10月): 総額1兆6300億ドル

・QE2(10年11月−11年6月): 総額6000億ドル

・QE1(08年11月−10年6月): 総額1兆7250億ドル

過去の量的緩和(QE1、QE2、QE3)が一時停止しながら3回に分けて実施されたのは、中央銀行が大量にお金を刷って国債などを買い取ることに伴う副作用(過度のインフレ、財政規律の喪失)を防ぐためだったはず。リーマンショック直後から数年間のFRBは、途中で2度も緩和をいったん中断し、アメリカの経済・財政状況を点検のうえ緩和を再開させる慎重姿勢だった。


一方、いまの超ハイペースなQE4は、まったく中断されないまま、開始からわずか1年7か月で過去3回分の緩和額合計にほぼ並んでいる。

結果、今年4月の米CPI(消費者物価指数)は、変動の激しいエネルギーと食品を除くコア指数が前月比0.9%上昇(年率換算値は11.4%上昇)と、1982年4月以来の高インフレ状態。4月末の米連邦政府の債務残高は28.1兆ドルと、前年同期に対しなんと12.9%も膨らんでいる。


このままでは、米ドルの通貨価値が悪性インフレにより損なわれるとともに、アメリカの政府債務をまかなう米国債が信用を失う危険が高い。過度のインフレを引き起こしたドルのプリントマネーと財政規律を失わせた米国債の中銀引き受けは、速やかに縮小しなければならない状況に追い込まれている。

にもかかわらず、今月はFOMC(アメリカの金融政策決定会合)の開催予定がないため、FRBのQE4縮小は早くても6月15-16日のFOMC後まで待たなければならないのが実情。

▼NY連銀のリバースレポが、早くもQE4マネーを1割回収済み

そこで早速、FRB傘下のNY連銀は、QE縮小でなく”リバースレポ(米国債などを担保に金融機関から資金借入)”の手法を用いて、市場からドル資金を回収しながら米国債を金融機関勢へ移転し始めた。

【リバースレポはレポオペの逆取引】

・レポオペ: 中銀が米国債などを担保に金融機関へ資金貸付

→米国債などは中銀へ、中銀は市場へ資金供給

・リバースレポ: 中銀が米国債などを担保に金融機関から資金借入

→米国債などは金融機関へ、中銀は市場から資金回収

日々の金融調節を担うNY連銀は、FRBが買い取った米国債を担保に、民間の金融機関から翌日物資金を借り入れるリバースレポを5月中旬から本格化。3月17日には残高ゼロだった翌日物リバースレポ(O/N RRP)は、次の日から連日実施かつ規模急拡大傾向。その残高はたちまち4503億ドルに膨らんでいる(5月26日時点)。


QE4でFRBが引き受けた米国債は、残高急増中のリバースレポを通して、次々と移転していく先の金融機関が新たな引き受け先と化してきている。FRBがQE4でこれまで供給した約4兆ドルの資金は、傘下のNY連銀がリバースレポの手法により、すでに11%を見事回収済み。

なお、QE4の資金供給残高からリバースレポでの資金回収額を控除した正味の資金供給残高でみると、QE4は4月半ばにピーク(3兆7242億ドル)を付けた翌週から縮小傾向がみてとれる(下記)。

<QE4の正味の資金供給額(O/N RRPでの資金回収控除後)>

・5月19日:3兆6251億ドル(=QE39191ーRRP2940)

・5月12日:3兆6033億ドル(=QE38126ーRRP2093)

・5月5日:3兆6324億ドル(=QE37952ーRRP1628)

・4月28日:3兆5996億ドル(=QE37663ーRRP1667)

・4月21日:3兆7227億ドル(=QE38040ーRRP813)

・4月14日:3兆7242億ドル(=QE37751ーRRP509)←ピーク

・4月7日:3兆6589億ドル(=QE36939ーRRP350)

・3月31日:3兆5415億ドル(=QE36758ーRRP1343)

・3月24日:3兆6811億ドル(=QE37030ーRRP219)

・3月17日:3兆6781億ドル(=QE36781ーRRP0)

FRB、NY連銀の公表データに基づく

すでに正味の資金供給残高でみたQE4を縮小に転じさせたリバースレポは、QEとは異なり中央銀行(NY連銀の親FRB)の民間金融機関に対する負債なので、実施額が中央銀行の総資産には反映されない。リバースレポの取組は、準備預金(民間金融機関の中央銀行への預金なので、中央銀行の負債の一部)を取り崩して行われる。このとき中央銀行のB/S(貸借対照表)では、負債のリバースレポが増加し準備預金が減少するが、資産額は変わらない。

リバースレポ実施中のQEの規模は、中銀B/Sの総資産の増減だけを眺めても実質どれだけ拡大あるいは縮小したのか把握できない点にご注意ください。


19年10月にQE4が始まった前後の局面では、1カ月先行してスタートしたNY連銀のレポオペ(米国債などを担保に金融機関へ資金貸付)は、過度の貸し渋りに伴い深刻な資金調達難に陥っていたNY市場の金融機関勢を救うとともに、緩和規模が急拡大した20年3月には資金供給残高を大きく押し上げる役割を担った(図表)。

一方、21年3月から始まったNY連銀のリバースレポ(米国債などを担保に金融機関から資金借入)は、1980年代の悪性インフレ再燃への懸念が強まり大規模緩和が続けられなくなってきた状況のなか、QE4縮小に先行してスタートした。

きっと年内のQE4縮小開始までに、リバースレポはどれだけの資金を市場から回収するのか?やがてQE縮小が加速するとき、リバースレポがいくら膨らむことにより、米連銀の資金回収がいっそう本格化していくのか?アメリカの金融政策の動向には目を離せない状況が、しばらく続きそうだ。やれやれ…

アナリスト工房 2021年5月27日(木)記事

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*)FRB、NY連銀の公表データに基づく