投資マネー回収を急ぐ米連銀の皮算用
奇策「リバースレポ」の限度枠が倍増。すでにQE4マネーは3割回収済み
2021年9月27日(月)アナリスト工房
先週のFOMC(21-22日のアメリカの金融政策決定会合)で決まった最重要事項を発表したのは、直後の記者会見で11月のテーパリング(量的緩和の段階的縮小)開始を示唆したパウエルFRB議長ではない。米連銀勢が今回決断した最も大切なことは、彼らが注力しているドル資金回収策「リバースレポ」の各金融機関に対する限度枠倍増(800億ドル→1600億ドル)。その旨を公表したのはパウエル氏のFRBでなく、その傘下のNY連銀である。
日々の金融調節を担うNY連銀は今年3月半ばから、市場参加者の金融機関から翌日物資金を借り入れるリバースレポ(O/N RRP)を毎日実施中。米連銀勢は、QE4(19年10月からの量的緩和第4弾)で買い取った米国債を担保として市場へ次々と移転しながら、ドル資金を市場から急いで回収している(図表)。
【図表】 正味のQE4(=QE4ーリバースレポ)は減少傾向
各金融機関の限度額が倍増された初日(先週23日)のリバースレポは、なんと1週間連続で過去最高を更新し続けた結果、1兆3525億ドル(従来の過去最高額は8月末の1兆1896億ドルだった)。いまのリバースレポはすべて翌日物(NY連銀が実施当日にドル資金を借り入れ翌日返済する仕組み)。だが、NY連銀はその実施額を次々と増やすことにより、市場からの資金回収を急速に進めている。
バイデン米政権の放漫財政と財政危機に加え中国恒大デフォルトの悪影響を被った市場では、相場不安定と化した債券や株式から逃げる大量のマネーが、担保付きで比較的安全なリバースレポへ次々と押し寄せている。未だQE4が実施中にもかかわらず、NY連銀リバースレポはQE4マネーの約30%(=1兆3525億ドル/4兆4771億ドル:下記)を早くも市場から回収してしまった。
【QE4(19年10月ー)の買い取り資産と内訳】 21年9月22日時点
米国債:3兆1904億ドル
MBS(住宅ローン債券):1兆1648億ドル
+)その他(企業ローン、社債、地方債など):1219億ドル
合計:4兆4771億ドル(=QE4による資金供給残高)
FRB公表データに基づく集計値
▼通貨リセットを経て生まれ変わる米ドルは、来たるデジタル中国元に挑む
本来、中央銀行が量的緩和を終え引き締めに転じるときは、「テーパリング(量的緩和の段階的縮小)→量的緩和終了→資金回収での引き締め」の順序で実施するのが金融政策の基本。なのに、米連銀勢が第1段階のテーパリングに先立ち、リバースレポの手段を用いて大量の資金を回収し、本格的な引き締めを実施中なのはなぜか?
<ヒント> アメリカでは経済を蝕む過度のインフレ状態が続いている(8月の消費者物価指数はなんと前年同月比5.3%上昇)。にもかかわらず、FRBは未だゼロ金利政策(20年3月以降0-0.25%)を継続中で、インフレ退治に挑む姿勢がほとんどみてとれない。彼らがすでに着手した金融政策は、きっと手法も目的も従来とはまったく異なるものだろう。
いまの米連銀勢が実施しているのは、経済への悪影響が懸念される過度のインフレを放置しゼロ金利を継続中であることから、けっして景況やインフレ動向に対処するための通常の金融政策ではない。これまでにない史上初の政策がこれから本格化しようとしているのは明らかだ。
リバースレポ開始からわずか半年でQE4マネーの30%相当の1兆3525億ドルが回収された(9月23日時点)。その額は、過去の量的引き締め(中央銀行が過去の量的緩和で買い取った国債などを市場へ売却することにより資金回収する金融引き締め策)の総額6400億ドルをはるかに上回る(下記)。
<過去の量的引き締め(QT)と量的緩和(QE1〜3)の規模>
・QT(17年10月−19年7月): 総額6400億ドル
・QE1(08年11月−10年6月): 総額1兆7250億ドル
・QE2(10年11月−11年6月): 総額6000億ドル
・QE3(12年9月−14年10月): 総額1兆6300億ドル
FRB公表データに基づく集計値
また、リバースレポの各金融機関の限度枠が倍増された(800億ドル→1600億ドル)ことから、その資金回収額はテーパリング開始後には2兆5000億ドル程度へ膨らむと想定される。
いまのリバースレポは翌日物だけだが、今後もしも19年9月から20年7月のレポオペ(リバースレポとは逆に中銀が国債などを担保に金融機関へ貸し付ける資金供給策)と同様にさまざまな期間物(1週間物、1カ月物、42日物、84日物など)が追加されるとの観測がすでに浮上している。金融機関のさまざまなニーズに対応する期間物がさらなる限度枠Upとともに実現した場合には、リバースレポによる資金回収がさらに進み、QE4マネーの3分の2以上が回収されるだろう。
超大規模な資金回収は、新ドル切り替えのための「通貨リセット」へのプロセスと推察される。市場では、22年2月の北京冬季五輪で中国のCBDC(中銀発行のデジタル通貨)が華やかにデビューし、ドル基軸性を脅かすとの懸念が強い。中国元CBDCへの対抗上、米ドルはとくに通貨価値を安定させる刷新を迫られているのが実情。
テーパリング終了後のリバースレポは、通貨リセットの政策目的のためにあえてデフォルトすることにより、担保の米国債が民間金融機関へしっかり移転するとともに、資金回収済みの状態が保たれ続ける。米連銀の政策目的が広く公になった後は、もちろん回収が飛躍的に進む。QE4マネーの全額(4兆4771億ドル:9月22日時点)だけでなく過去のQE1-3のマネー(QT控除後の純額3兆3150億ドル:上記)の大半が市場から回収されてゆく。
来年は、新しく生まれ変わる米ドルとデジタル中国元の基軸通貨の座を賭けた攻防戦がとても楽しみだ。やれやれ・・・
アナリスト工房 2021年9月27日(月)記事