米・カナダ国境発のインフレ深刻化

1982年以来の過度の物価上昇が、米国債の商品価値を著しく毀損

2022年2月15日(火)アナリスト工房

中央銀行がインフレ懸念を強く表明したとき、市場参加者たちは「金融緩和の縮小・終了あるいは金融引き締めの開始・拡大を急ぐ方針が明確に示唆された」と覚悟しながら残念に受け止めるのが鉄則。中銀メンバーのインフレ懸念発言は、金融政策による市場への逆風が強まる注意報あるいは警報を意味することが多いからだ。

しかし、先走りがちの市場では、中銀発言がときどき拡大解釈され、とんでもない観測が飛び交いながら相場が不安定と化す。


アメリカのCPI(消費者物価指数)は1月、前年同月に対し7.5%上昇と1982年2月以来の高インフレ(2月10日公表)。40年ぶりの過度のインフレ状態を嫌気した米国債市場では今月11日、10年物利回りが一時2.063%と2019年7月以来の高水準まで売り浴びせられた。インフレ控除後の実質利回りがマイナス5.4%。満期までに価値が実質半減しそうな金融商品なんて、こんなの絶対いらない!

米債急落の舞台裏では、米連銀FRBメンバーのセントルイス連銀ブラード総裁が今月10日、「インフレ対応として、7月1日までに計1%の大幅利上げを!」と、利上げ警報たる強いインフレ懸念を表明済みだった。


連銀勢のインフレ発言に敏感な市場では、「先週末に2020年3月以来の臨時FOMC(米金融政策決定会合)が開催され、いまのQE4(量的緩和第4弾)が3月第2週の終了予定よりも1カ月早く突然終わり、緊急利上げが実施される」との悲観的観測が浮上していた。

幸い、先週末は臨時FOMCが開催されないまま、FRB傘下のNY連銀がQE4最後の1カ月間の米国債買い取りスケジュールを公表した。予定どおり3月上旬にQEが終了した後、次回3月15-16日のFOMCで政策金利(いまはゼロ〜0.25%)がひとまず0.5%あるいは0.75%引き上げられる可能性が濃厚。だが、アメリカ社会を荒廃させた1980年代級の深刻なインフレを退治するには、その程度の利上げ幅では「焼け石に水」あるいは全く効かないかもしれない。

▼3回打っても効かないワクチンの義務撤廃が、インフレ退治の特効薬

そもそも、いまのアメリカが過度のインフレに陥った最大の原因は、物流停滞によるモノの供給不足。2021年の米貿易赤字は、輸入急増に伴い史上初の1兆ドル超え。中国貿易統計の対米貿易黒字は3966億ドルと過去最高。海外から豊富に入手できているモノが消費者に行き渡らず、供給不足により物価が高騰した主因は、やはり北米での物流停滞しか見当たらない。


1月29日から米・カナダ間の物流を担う大型トラックの運転手たちが、義務付けられたワクチン・パスポートに反対し、各地で数百〜数千台が集結する大規模デモ「フリーダム・コンボイ」を本格化。コロナワクチン接種を拒み国境を越えられず仕事がままならなくなった彼らは、業務再開のためにワクチン義務を撤廃させなければならないのが実情。

北米のトラック運転手の大多数は、個人でトラックを所有している裕福なオーナー・ドライバー。次々と集まる支援金も豊富な彼らのデモは、週末だけでなく平日も毎日ずっと続く持久力が最大の強み。

「カナダのトラック運転手の皆さん、われわれは道中ずっと一緒です!(直後、賛同した会場の聴衆たちは一斉に大歓声)」

トランプ45代大統領(Jan 30th 2022)テキサス州での集会

トランプ氏とその支持者たちから心強い応援(上記)を得て勢いづいたフリーダム・コンボイのデモ隊がカナダの首都オタワに集結した1月30日、トルドー首相は「コロナ陽性」を口実に家族とともにしばらく雲隠れしてしまった。コロナワクチンを3回打ったトルドー氏自身が陽性では、カナダがワクチン義務を続けてゆくのは難しい。

ワクチンが効かない実態が公になったなか、早くも2つの州(アルバータ、サスカチュワン)が2月8日、ワクチン・パスポートなどコロナ規制撤廃への方針発表を余儀なくされた。人口最大の都市トロントや首都オタワのあるオンタリオ州は、3月1日までにワクチンワクチン・パスポートを廃止する(2月14日同州政府発表)。


並行して、米・カナダ間の国境沿いでは数百台以上のトラックの長い車列が、あちこちで長い壁を形成している(米モンタナ州・加アルバータ州間、米ワシントン州・加ブリティッシュコロンビア州間、米ミシガン州・加オンタリオ州間)。

物流への影響がとくに大きなアンバサダー橋(ミシガン州デトロイト・オンタリオ州ウィンザー間)は2月13日、警官隊がフリーダム・コンボイのデモ隊と車両を排除し6日間の封鎖を解き、交通がひとまず再開した。しかし、米・カナダ間の国境は長さ約6400kmと、地球の半径にほぼ等しい。警察が各地に出没するトラック運転手たちのデモ隊をいつまでも毎日取り締まり続けてゆくのは、不可能に近く非現実的だ。


物流停滞によるモノの供給不足による過度のインフレは、アメリカとカナダを往復するトラック運転手へのワクチン義務が大多数の州で撤廃されるまで続くと想定される。インフレ懸念が後退しない限り、FRBは3月の大幅利上げ以降も厳しい引き締めラッシュが避けられそうにない。

アナリスト工房 2022年2月15日(火)記事