巨額QTの無理強いとルーブルの金連動

米国債とMBSの市況が深刻だが、FRBはハイペースの量的引き締めを急ぐ

2022年4月11日(月)アナリスト工房

先週4日に公表された3月15-16日のFOMC(アメリカの金融政策決定会合)の議事録によると、米連銀FRBは月950億ドルの量的引き締め策QTによるバランスシート縮小(過去の量的緩和策QEで買い取った金融商品の残高削減)を5月の会合後に始めることで、おおむね合意していた。

FRB保有の米国債を月600億ドルおよびMBS(モーゲージ債)を月350億ドルの超ハイペースで減らすQTは、債券の満期継続の一部停止および中途売却により実施され、ドル通貨の番人FRBが市場から大量のドル資金を回収してゆく。とくに中途売却の割合が高いMBSは、すでにマネーに逃げられ需給悪化に伴う価格急落が激しく、金融危機再来への懸念が強い状況を呈している。

【米連銀FRBバランスシートの資産構成】 4月6日時点


QE対象資産:8兆5381億ドル(うちQE4が4兆9433億ドル:*)

(商品別には米国債5兆7611億ドル、MBS2兆7154億ドルなど)

その他の資産:3995億ドル

資産合計:8兆9376億ドル


4月6日時点までのFRB週次公表データに基づく集計2次速報(*)

市場では、米国債の価格下落(利回り上昇)が加速し、先週8日には10年債利回りが一時2.73%と19年3月以来の高水準。米国債利回りとの連動性が非常に高いドル円は、米10年債利回りが2.8%までさらに上昇したときアベノミクスの円最安値(15年6月の一時125.86)が再び試す展開を示唆している(図表:**)。

ただし、いまの円安・ドル高の主な要因は、日本の機関投資家が保有する米国債の価格下落に伴う円売り・ドル買いヘッジにすぎない。米国債の投資環境と発行国アメリカのファンダメンタルは相変わらず低迷中なので、ご注意ください(**)。

NY市場終値に基づき作成

▼金1g=5000ルーブルの目標達成!米国の金本位はQTでのドル回収が必須

米連銀FRBがQE(量的緩和)を終えて間もない時期に慌ててQT(量的引き締め)に踏み切らなければならず、市場が混乱に陥っている舞台裏では、ロシア発の金本位推進が加速中。

エネルギー輸出の稼ぎをゴールドに換金してきたロシアは、すでに中央銀行の金庫に金準備(外貨準備に占める金)をたっぷり貯め込んだ。ロシア中銀は3月28日から6月末まで、国内の金融機関から金1グラムあたり5000ルーブルの固定価格で、金買い取りを実施中(3月25日公表)。ルーブルの番人は、通貨価値を裏付ける金準備をさらに充実させながら、市場のルーブルを固定価格の水準に誘導している(Gold-backed ruble could be a game-changer)。


彼らの取り組みはとても順調だ!ルーブルの対ドル為替レート(USD/RUB)とドル建ての金先物価格から導かれる金1グラムあたりのルーブル価格の市場実勢は、金買い取り実施前の3月24日には6461とずいぶんルーブル安だったが、実施後は固定価格に向けて急伸し見事収束している(下図:4月7日が4967、8日が5029)。

金本位への強い推進力が、ルーブルの通貨価値をわずか2週間で30%反発させた。為替市場のルーブル(USD/RUB)も、ロシアのウクライナ侵攻前の水準をすっかり取り戻した。

モスクワUSD/RUBとNY金先物中心限月の終値に基づき作成

ロシアが金本位制へ正式に移行するときは、貿易の資金決済で米ドル外しに共同で取り組んできた中国、インド、トルコ、イランなどももちろん一緒。その他の主な国々も、通貨価値の暴落を防ぐためには、貴金属で通貨価値を裏付けるしか選択肢がないのが実情。


大量のお金を刷って市中へばらまくQEを長く続けたアメリカが金本位へ移行するためには、金・銀などで価値を裏付けられる資金量にごく限りがあることから、事前に市場から資金回収するQTを実施し市中の資金量を適正化しなければならない。QE終了のわずか2カ月後にQTが月950億ドルの超大規模で開始予定のアメリカは、通貨の番人が大急ぎで資金回収に取り組む姿勢が鮮明なことから、金本位へ移行する日が近いかもしれません。

アナリスト工房 2022年4月11日(月)記事

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*)QE4総額4兆9433億ドルの内訳は、米国債3兆5381億ドル、MBS1兆3436億ドルなど。

なお、3月上旬に終了したQE4でFRBが買い取ったモーゲージ債MBSのなかには、受渡日(買い手の資産と化す日)が翌月のものがある。それらが週次公表のFRBバランスシートに反映されるのは、4月13日が132億ドル、20日が29億ドル、27日が42億ドル。一方、それまでに満期到来などによる減少要因も想定されることから、約4.94兆ドルのQE4総額などは、あくまでも4月6日時点までの集計2次速報値。


**)米10年債利回りとドル円は、R2乗値(相関係数の2乗)が極めて高水準であることから、相場連動性が非常に高い。その理由は、投資対象の米債の利回り変化に基づく価格変化に応じて、日本の投資家が為替ヘッジの金額を次のとおり増減させていくことによる。


・米国債が利回り低下(価格上昇)したときは、ヘッジのドル売りが増え円高へ

・米国債が利回り上昇(価格下落) したときは、ドルが一部買い戻され円安へ

→円高時のドル売りと円安時のドル買いが、為替差損を積み上げる仕組み