米リバースレポに群がる裏QEマネー
2.67倍の利回り大幅アップが奏功。QE4マネーは早くも40.2%回収
2022年5月23日(月)アナリスト工房
情け容赦ないアメリカの金融引き締めが進むなか、市場では資金逃避先の金融商品「リバースレポ(略称:RRP)」が最も人気を集めている。米連銀FRBが米国債を担保にNY市場の金融機関から翌日物資金を借り入れるリバースレポは、資金を貸す金融機関勢にとって短期資金運用の重要手段。株式と債券の価格急落リスクを嫌気した投資マネーは、これらのリスクとは無縁のリバースレポに殺到している。
先週20日までの3連日、過去最高額を次々と更新し続けた米リバースレポは、週末の残高が1兆9880億ドルに膨らんだ(以前の最高額は昨年末の1兆9046億ドルだった)。結果、QE4(19年10月-22年3月の量的緩和第4弾)で放出された4.95兆ドルのマネーは、来月以降のQT(量的引き締め:FRBが過去のQEで買い取った米国債とモーゲージ債MBSの保有高を縮小する引き締め策)開始に先立ち、早くも40.2%回収済み。FRBのプレ引き締めは絶好調だ(図表)!
月末(とくに年末)に残高が跳ね上がりピークを付ける傾向の強かったリバースレポは、5月初旬のFRB0.5%利上げに伴う利回り大幅アップ(0.3%→0.8%)が市場参加者に好感され、株式や低格付け債(モーゲージなど)の市場から逃げたマネーが毎日次々と押し寄せ早くも平残を大きく押し上げている。
アメリカの株式や低格付け債からの逃避マネーが向かっただけでは、余剰資金が多い月末には程遠い時期にリバースレポ残高が過去最高更新ラッシュした理由を説明できない。リバースレポへ押し寄せたマネーのなかには、QE級の巨額マネーの存在が伺い知れる。また米国債10年物は、5月9日には一時3.203%と18年11月以来の高利回り水準まで売られ価格急落した後、プレ引き締めが絶好調にもかかわらず、価格が不自然に大きく反発し先週末には一時2.774%の水準までずいぶん持ち直した。そんな難しい珍事を演じられるのは、政策的な巨額マネーしかない。
確定利回りのリバースレポや米国債で運用されているQE級の巨額マネーの正体は、連邦政府の財政資金を活用した「裏QE」と推察される。アメリカの連邦政府が決済口座TGAの預け先の連銀を通して支払う資金のなかには、支払先の企業や団体での資金運用を通して市場へ向かい投資マネーと化すお金が潤沢なようだ。
米財務省が管理する政府預金TGAの残高は、5月19日までの17日間に1498億ドル減少。その間に連邦政府の債務残高は130億ドル増加しており、合わせて支払額は約1600億ドル。ピーク時のQE4(月1200億ドル)をはるかに上回るペースで、超大量の財政資金が放出された(図表)。その多くが市場へ向かい裏QEマネーと化したからこそ、上記珍事(リバースレポが月末には遠い時期に過去最高額更新ラッシュ、米国債がプレ引き締め絶好調のなか不自然に大きく価格反発)が生じたと推定される。
TGAの預け先FRBの週報(B/Sのページ)に基づく
イエレン財務長官は前のFRB議長。イエレン氏の財務省は、政府の資金繰りを上手に工夫しながら、リバースレポでのプレ引き締め策の推進と並行してQT開始への環境づくり(米国債買い支え)にずいぶん協力的だ。
▼裏QEを演じる米財政資金は、米国債も支えながら市場の音楽を再開
とくに興味深いのは、アメリカの連邦政府預金TGAの5月19日の残高が前日に対し415億ドル減少しており、その額が2日後の21日にバイデン大統領の署名を経て成立したウクライナ軍事支援の追加予算(約400億ドル)にほぼ等しい事実。ロシアがウクライナ全土の制空権を握っているなか、ウクライナ軍への武器供与はほとんどままならないのが現地の真の実態。
なので、このウクライナ支援の追加予算は、財政資金が定められた使途どおり使われず裏QEにマネー化ける典型的な事例である疑いが極めて濃厚だ。
そこで、野党共和党のランド・ポール上院議員は、監察官が資金使途を監視できるようウクライナ追加支援の最終法案を改めることを要求した。
「私からの要求は、(約400億ドルのウクライナ軍事支援の)最終法案を、監察官がその資金使途を監視できるように修正することだけ。この要求に反対する者は皆、無責任だ!」
ランド・ポール米上院議員(May 13rd 2022)Twitter
が、ポール議員の要求は受け入れられず、ウクライナ支援の最終法案は改められないまま急いで可決され(賛成86、反対11)、成立を待たず慌てて財政支出されたようだ。法案採決で反対したのは。ポール氏など11名の共和党議員だけ。賛成した与野党86人の「無責任」な議員たちも、米財務省と同様にリバースレポでのプレ引き締め推進とQT開始への環境づくり(米国債買い支え)に協力しているようだ。
過酷な大規模QT開始予定の6月1日以降も、米国市場に再び音楽が適度なボリュームでしばらく鳴り続けるかもしれない。
アナリスト工房 2022年5月23日(月)記事