米国債を捨てる神と拾う神

中国の米債保有高1兆ドル割れ。捨てさせた悪神には、サウジも冷たい対応

2022年7月19日(火)アナリスト工房

上海ロックダウンの悪影響と余波に負けず、生産活動をしっかり維持し輸出を順調に伸ばした中国は6月、貿易収支の黒字額が979億ドルと過去最高を更新(先週13日公表の中国貿易統計)。黒字額No.1の中国は、貿易黒字の多く(6月は412億ドル)を対米貿易で稼ぎ続ける一方、保有する米国債をせっせと削減中。とくに昨年12月以降の中国は、6カ月連続で米国債保有高を堂々と減らしている。


アメリカの財務省が先週18日公表した最新データによると、今年5月末時点の中国の米国債保有高はわずか9808億ドルと、2010年5月末以来の低水準。13年11月末の過去最高(1兆3167億ドル)に対し25.5%減少。一方、米連邦政府の債務残高はなんと77.3%も膨らんだ(13年11月末:17.2兆ドル→22年5月末:30.5兆ドル)。最大の貿易黒字国の稼ぎが米国債投資を通して巨額の双子の赤字を抱えるアメリカへキャッシュバックされる仕組みは、すっかり崩壊した。


中国の米国債保有高が激減した舞台裏では、13年12月に当時のバイデン副大統領(いまの米大統領)が息子ハンター氏を伴いエアフォース2(副大統領専用機)で中国訪問したとき、中国側はビジネス経験の乏しいハンターのウクライナにあるガス会社を15億ドルで買い付けることにより、バイデン親子を買収。直後、したたかな中国は外貨準備として保有する米国債の大量売却処分に踏み切った。ろくでなし親子の収賄の結果、アメリカの財政をまかなう米国債は、いまも需給が著しく悪化中。

「バイデンの息子へ3百万ドル支払われたときのマネーロンダリングの証拠となる記録は、私がその日付記録とともに入手済みだ。その資金は、ウクライナからラトビアとキプロスを経て彼に渡った。またバイデンの息子は、中国から15億ドルを受け取った。(中略)米副大統領は中国に買収されたのだ!」


ジュリアーニ元NY市長(Sep 25th 2019)FOX Newsインタビュ

中国以外のBRICs勢の主要国は、18年に米国債をほぼすべて処分したロシアが、米財務省の主要保有国リストから見事抹消された。BRICs加盟国の間で結束力が高まるなか、ブラジルとインドの米国債の保有残高削減が着実に進んでいる(下記)。

先週、中東歴訪のバイデン米大統領からの石油増産要請にけっして確約せず素っ気ない対応に終始したサウジは、BRICsへの加盟を計画中。アメリカとの距離が遠ざかるなか、サウジの米国債処分も順調。サウジがBRICs加盟申請に踏み切る日は近いかもしれない。

【BRICs主要国&サウジの米国債保有高】 22年5月末時点


・中国:9808億ドル(←前年同期は1兆0784億ドル)

・ロシア:2018年、米国債をほぼ一掃し、主要保有国を無事卒業

・ブラジル:2327億ドル(←前年同期は2518億ドル)

・インド:2037億ドル(←前年同期は2158億ドル)

・サウジ(BRICs加盟計画中):1147億ドル(←前年同期は1273億ドル)


米財務省公表データ(Jul 18th 2022)に基づく

▼巨額の貿易黒字国でなければ、米国債を拾う神の資格なし。軍配は?

西側では、19年6月から米国債保有高No.1となった日本が、米国債の価格急落と為替ヘッジ損失で苦戦続きのあげく、上記BRICs勢と同様に米国債離れをようやく活発化している(*)。22年5月末時点の日本の米国債保有高は1兆2128億ドルと、20年1月末以来の低水準。21年11月の過去最高(1兆3286億ドル)の翌月からは、保有高の低下基調が鮮明にみてとれる(下記)。

西側主要国の米国債保有高】 22年5月末時点


・日本:1兆2128億ドル(←前年同期は1兆2662億ドル)

・英国:6340億ドル(←前年同期は4676億ドル)

・EU主要国(仏独伊):計3784億ドル(←前年同期は計2241億ドル)

・カナダ:2110億ドル(←前年同期は1211億ドル)


米財務省公表データ(Jul 18th 2022)に基づく

保有高首位の日本に代わって、米国債保有高を伸ばしているのは英国、EU主要国(仏独伊)、カナダ(上記)。日本と同様に貿易黒字が乏しい(あるいは貿易赤字の)国々が米国債を買い支え続けてゆくのは、金銭的にもちろん不可能。中国が拾う神に復帰しないなか、他のBRICs勢も日・英・EUの国々も米国債処分を急ぐ必要に強く迫られている。捨てる神に軍配!

アナリスト工房 2022年7月19日(火)記事

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*)米10年債利回りとドル円は、R2乗値(相関係数の2乗)が極めて高水準であることから、相場連動性がものすごく高い(図表)。

その理由は、投資対象の米債の利回り変化に基づく価格変化に応じて、日本の機関投資家(金融機関、保険会社など)が為替ヘッジの金額を次のとおり忠実に増減させていくことによる。


・米国債が利回り低下(価格上昇)したときは、ヘッジのドル売りが増え円高へ

・米国債が利回り上昇(価格下落) したときは、ドルが一部買い戻され円安へ

→円高時のドル売りと円安時のドル買いが、為替差損を積む自虐的仕組み


日本勢の集団的投資行動が招いた自虐的な仕組み(米国債利回り連動型のドル円相場)による”利回りマイナス”の被害が相変わらず続出中。足元ではヘッジ付きでの米債新規投資を減らす(あるいは控える)動きはあちこちで観察されている。

6月以降は、米連銀FRBのQT(量的引き締め:FRBが過去のQEで買い取った米国債など満期継続停止あるいは売却することにより、市場からQEマネーを回収する引き締め策)が始まったなか、価格急落リスクが跳ね上がったヘッジ無しでの米債投資も減らす必要に強く迫られている。