ゴールド爆買い観測 金本位の前兆か?

通貨価値が貴金属に裏付けられる新制度への備えを急ぐ、世界の中銀勢

2022年11月7日(月)アナリスト工房

米連銀FRBは先週2日、「今回の利上げ幅は0.5%に縮小して欲しい」との市場の願望に応えられず、従来どおり0.75%の大幅利上げに踏み切るしかなかった。アメリカの株式も債券もバブル崩壊・金融危機への瀬戸際にもかかわらず、パウエル議長のFRBが強い金融引き締めを続けてゆくしかない舞台裏では、国際資金決済での米ドル外しに長年取り組んできた中国が金(ゴールド)を爆買いしながら、通貨価値を金で裏付ける金本位の国際通貨制度への切り替えを急いでいるとの観測が強い。


WGC(世界ゴールド評議会)が先週1日公表した調査レポートによると、世界の中央銀行は今年7-9月に金を前年同期の4倍の約400トン購入した。中銀勢の金の購入量は、従来の最高記録のなんと2倍近い。多くの国々が金本位制への準備を急加速したと見受けられる。


通貨価値が金で裏付けられた金本位制のもとでは、ある国の中央銀行が発行した通貨の換金を外国中銀から要求された場合、あらかじめ定められたその通貨と金の交換レートで換金に応じる必要あり。1971年以前の「1ドル=360円」の固定相場だったときの米ドルは、外国中銀が35ドルに付き1オンス(31.1035グラム)の金と交換できる金本位制でした。けっして発行通貨総額分の金が必要となる事態は生じないので、ご安心ください。


今年7-9月の世界の中央銀行の金購入量全体(上記約400トン)に占める、国名を明かさない中銀勢の取引は75%。その匿名取引の大部分は、外貨準備高No.1で資金潤沢な中国の中銀であるとの市場観測が強い(謎の「鯨」に金市場は当惑-調査リポートが中銀の大規模購入を示唆)。


10月以降は、中国通貨当局の大規模なドル売り元買いの為替介入ラッシュ(10/17、21、24、25 など)に伴い、外貨準備に占める米国債など大量のドル建て資産が実物資産の金に次々と置き換わっている状況が伺い知れる。中国が金本位制に必要な金(外国中銀から元の換金を要求された場合への備え)を充分に確保できる日は近い(早ければ数カ月以内)かもしれません。

▼金価格低迷が奏功。金に対する通貨レートを一定に保つトライアルは順調!

中国元(上海市場のCNY)は、金1グラムあたり400元での金連動トライアル(22年3月上旬-6月下旬)が極めて安定的で順調だった(図表)。

上海市場の中国元(CNY)とNY金先物中心限月の終値に基づき作成

2018年に金1オンス(31.1035グラム)あたり8200元での金連動リハーサルを成功させて以降の中国は、金本位のもとで為替水準をコントロールするノウハウをしっかり修得済み。上海ロックダウン(3月上旬-6月初め)の実施と解除も、実は元の金連動を保つ絶妙なタイミングでの見事な演出。だからこそ、6月の中国の貿易黒字額は過去最高を更新した。


日本円は、金1グラムあたり7800円での金連動トライアル(22年4月中旬-現在)が、すでに6カ月半にわたり継続中。その間、対米ドルの円相場が円安に振れ急落するのに合わせ、NY市場のドル建ての金価格も同じ程度落ち込んでいる。結果、金1グラムあたりの円は、7800円を中心に狭いレンジ内で安定推移中(下図)。

NY市場の金先物中心限月とドル円の終値に基づき作成

日本円の金連動トライアルは、通貨当局だけでは資金量と機動力が乏しいことから、金本位制への移行を見据えたビッグプレイヤーの市場参加者も快く協力している可能性が高い。

英ポンドも、日本円と同様の理由により、金1グラムあたり47.5ポンドでの金連動トライアル(22年3月中旬-現在)が7カ月半にわたり継続中。


NY市場のドル建ての金価格低迷は、(金塊の現物でなく)金塊を裏付けに発行されたはずの証書「ペーパーゴールド」を受け渡し決済する市場制度への不安が主な原因。市場参加者の間では、実際にはペーパーゴールドの記載に反し、金塊が金庫に保管されていないかもしれないとの懸念が広まっている。

結果、金価格低迷に導く市場操作を通して、アメリカの同盟国を含む外国勢(日中英など)に対し、金本位制への移行を強く促すのが容易な状況にある。すでにアメリカは、ドル基軸制を維持できなくなり廃止する決心に至った可能性が濃厚。新たな国際通貨制度の幕開けは、やはり近いかもしれませんね。

アナリスト工房 2022年11月7日(月)記事