米債YC、夏まで続く利上げを示唆

指標の10年債が最も低利で価格割高。主要国の中銀勢は米国債外しを加速

2023年2月20日(月)アナリスト工房

アメリカの根強いインフレ状態を示す指標公表が相次いだ先週は、米国債6カ月物の利回りが一時5.05%と2007年7月以来の高水準まで跳ね上がった(価格は急落)。そのとき、NY市場の参加者たちは、米国債の現物だけでなく先物のスプレッド取引(短期債売りと中長期債買い)なども駆使することにより、指標である10年物の利回り上昇を抑え価格を懸命に支え続けた。

結果、米国債のイールドカーブ(満期までの期間別利回り:略称「YC」)は、アメリカ経済の長期低迷を示唆する極端な”逆イールド(中長期物の利回りが短期物の利回りを下回る状態)”が、すっかり鮮明に出来上がってしまった(図表の青線)。

米財務省公表データに基づき作成

今回の米債逆イールドの主な特徴は、さまざまな期間の利回りのなかで6か月物(4.99%)と1年物(5.00%)の水準がとくに高いこと。米連銀FRBの利上げは、連邦政府の債務上限引き上げをめぐる下院での攻防戦の夏(6月半ば、7月下旬)も続くと強く示唆している。

また、指標の10年物の利回り(3.82%)が不自然に最も低い。1月の消費者物価指数(14日公表)によると、インフレ率6.4%のアメリカは過度の物価上昇が相変わらず続いている。10年物など低利回りでの米国債投資は、根強いインフレに伴う実質価値の著しい目減りが致命的なリスクだ。


極端な米債逆イールドをつくった一部の市場参加者たちは、「アメリカの政府債務上限の早期引き上げが期待薄のなか、FRBの利上げがあと半年程度続く」と強く警告しながら、「価格が最も割高な10年物を中心にサッサと売却処分するなどして、米債保有高を大幅に減らそう!」とのメッセージを世界へ発信中と推察される。


米財務省の最新データ(2月15日公表)によると、日本は昨年1年間に米国債を2245億ドル削減し、22年12月末の米債保有高がピーク(21年11月:1兆3286億ドル)に対し早くも19.0%減少した。

昨年1年間に米国債を1732億ドル減らした中国は、22年12月末の保有高がピーク(13年11月:1兆3167億ドル)から34.1%減と、ドル建て資産の”爆売り浴びせ”がいっそう加速している。


量的引き締めQT(中央銀行が過去の量的緩和QEで買い取った米国債などを満期非継続あるいは売却し資金回収する引き締め策)を実施中の米連銀FRBは、米債保有高をピークの水準(22年6月9日:5兆7714億ドル)からすでに3744億ドル削減済み(2月15日時点:毎週水曜時点のB/S計上額の公表値に基づく)。

発行国の中央銀行でさえ売り浴びせている米国債は、外国中銀に大量売却処分を食らって当然。GDP上位3カ国の中銀勢は、目的がさまざま(日本は為替介入、中国は金本位に備え米ドル建て資産外し、FRBはQT)だが、共同で米債保有高の激減に取り組んでいるのが実態。

▼極端な逆YCと米債処分ラッシュの舞台裏は、政府債務上限の引き上げ阻止

主要3カ国の中銀勢による米債処分の舞台裏では、共和党議員が過半を占めるマッカーシー議長の下院が取り組み実現すべきことのなかに、連邦政府の債務上限引き上げ断固阻止が含まれている可能性が濃厚とみてとれる(下記引用)。

「とくにトランプ大統領に感謝したい。彼の影響力を疑う者は、誰もいないと思う。初めから私の味方だった彼と昨夜電話で話し合い、最終的な得票を得るのを助けてくれた。(中略)われわれが取り組むべきことはたくさんあり、彼はそのすべてを実現するために偉大な影響力を発揮してくれた。トランプ大統領、本当にありがとう!」

マッカーシー米下院議長(Jan 7th 2023)

15回めの投票でようやく下院議長に再選した直後の記者会見

「債務上限が近づいてきた。共和党員は、マコネル(上院院内総務)が過激左翼(民主党)へ明け渡してまったものを、もうすぐ取り戻せる。タフになれ、譲歩するな。アメリカ第1だ!」

トランプ45代米大統領(Jan 15th 2023)Truth Social

トランプ氏が抜擢したパウエル議長のFRBは、債務上限を引き上げないマッカーシー氏の下院のドタバタ劇を眺めながら、QTと利上げでの情け容赦ない引き締めを譲歩せずタフに貫いてゆくだろう。「過激左翼」の連邦政府がデフォルトに至るまで。

アナリスト工房 2023年2月20日(月)記事