騒動後の米債務問題はいっそうヤバい
政府債務の膨張が異常なハイペース。米国はすでに実質破綻か
2015年11月10日(火)アナリスト工房
(2016年2月8日(月)脚註追加)
今月2日にオバマ米大統領は、上・下院で可決した政府債務上限の引き上げと予算の大枠に関する法案に署名。債務上限を2017年3月まで必要な額だけ増やし続けてゆくことができるようになったため、基軸通貨国のデフォルトはひとまず回避されました。
後は、いまの暫定予算が切れる来月11日までに、今般成立した大盤振る舞いの政府予算の大枠に沿って歳出法案がパスできれば、懸念されてきたシャットダウン(米政府機関の閉鎖)も避けられるでしょう。
とはいえ、今回の騒動終結もその場しのぎの先送りにすぎず、根底にある米国の債務問題はむしろ深刻化しています。
新たな政府予算の大枠によると、歳出額は今後2年間に800億ドル増える予定。
その増枠額の半分は野党共和党の重視する国防費に充てられることから、緊縮財政を主張する共和党議員の多くは一連の法案(上記)に賛成票を投じてしまったため、財政規律のチェック機能が働かなかった次第です。
将来の政府の歳出の増加枠が800億ドルに対し、債務残高は先日の債務上限引き上げから1週間足らずで5,000億ドルも急増しています(引き上げ直前の今月1日が18.1兆ドルに対し、5日は18.6兆ドル:*)。
今年3月に引き上げ前の上限に達してから今月初めまで横ばいであった債務残高は、過去を取り戻すかのごとくいま一気に膨張しているのです(図表)。
まるで、与信枠を与えたとたんに後先を考えずサッサと借りまくる、だらしない多重債務者の典型的な行動ですね。
オバマ政権での最初のデフォルト騒動時(11年8月の政府債務上限は14.3兆ドル)からみると、いまの米国政府の債務残高はなんと30%も膨らんでいます。
世界一の借金大国といわれている日本(おおむね同時期のわが国の政府債務残高は12%増:**)の2.5倍の超ハイペースです。
米軍のイラク撤退完了(11年12月)の後は政府支出のかさむ戦時下でもないのに、米国の債務膨張のペースは不自然極まりない。
仮に、今月の足元までの4年3カ月で債務額が4.3兆ドル(=18.6-14.3)増えたのは事実だとしても、そのスタート時点における本当の債務残高は公表値(14.3兆ドル)をはるかに上回っていた可能性も考えられます(***)。
米国の政府債務として計上されていない未積立の年金債務(Unfunded Pension Liabilities)などを合わせると、重要なカントリーリスク指標「GDPに対する政府債務残高の比率」(2014年の公表値はワースト首位ニッポンが246%に対し米国が105%)の順位は日米逆転するかもしれませんね。
以上により米国は、財政規律を完全に失っており、すでに実質破綻の状態にあると見受けられます。その政府債務をまかなう米国債の10年物利回り(足元は2.33%)は、デフォルトリスクに見合わない水準です。
債務膨張のペースがGDP成長率(2014年は前年比2.4%増)をはるかに上回る状態が解消のうえ財政規律回復の兆しが観察されるまでは、デフォルトに至る危険の大きな米国債への投資は見合わせましょう!
株式会社アナリスト工房
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*)米国政府の債務残高は、米財務省の日報(Daily Treasury Statement)に基づく。
**)日本政府の債務残高は、わが国の財務省が四半期ごとに公表している。2011年6月が944兆円に対し、2015年9月が1,054兆円。4年3カ月間で12%増。
***)「市民と軍人への年金や退職者向け健康保険などさまざまな社会保障と医療制度に伴い連邦政府の負っている未積立債務を加えると、政府債務残高の真の数字は約18兆ドルでなく65兆ドルだ」-ウォーカー元米会計検査院長(2015年11月8日のラジオ番組での発言)。その数字に基づき、米国の政府債務残高が公表値の3.6倍(=65/18)と仮定すると、2014年の「GDPに対する政府債務残高の比率」は378%(=105%×3.6)。米国は日本(246%)を抜きワースト首位に浮上する。