いい加減やめたい日本の量的緩和

「正しき意見は抹殺され、へつらう者のみが重用されて、政府ぐるみで祖国を破滅に導くことは目に見えている」

安部龍太郎 著『開陽丸、北へ 徳川海軍の興亡』朝日新聞社(1999)

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2015年4月27日(月)アナリスト工房

世界でいちばん深刻なわが国のカントリーリスクが、いっそう悪化している。

今月15日に更新されたIMFのデータベースによると、2014年の日本の「政府債務残高のGDPに対する比率」は246%(前の年は243%)。

国家破たん懸念の高まるワースト2位ギリシャ(14年は177%、前の年は175%)との差をやや広げてしまった。

わが国と同じ成熟型.・低成長の工業立国ドイツは、歳出を切りつめ財政均衡を見事達成したため、この重要なカントリーリスク指標が大きく改善している(14年は73%、前の年は77%)。

一方で日本は、消費増税を当てにして歳出が膨らんだ。また、量的緩和(国債などの買い取りによる市中への資金供給)で推進中の円安と増税に伴う物価高を受けて、需要ならびに景気が伸び悩んでいる(14年のGDPはゼロ成長)。

歳出をまかなう日本国債などの政府債務は、日銀の大規模な緩和策を当てにしているため、膨張がいっこうに止まらない。

すなわち日本国のリスク悪化の元凶は、GDPの足を引っ張るとともに政府債務の増加を助長する、わが国の量的緩和にあるといえよう。

世の中が量的緩和にもっとも期待する効果は、中央銀行の供給するお金が天下を回ることで実体経済が活力を取り戻すとともに、景気が回復することである。

しかし実際には、緩和が続くにつれてお金が回らなくなるため、経済活力の低下とともに景気回復への効果が薄れているのが現状だ。

ここで実体経済の活力は、マネタリーベース(中央銀行が供給したお金の総額)に対するマネーストック(世の中を回っているお金の総額)の倍率でもって定義される”信用乗数"でみることができる(*)。

中央銀行の供給する資金が巡り巡って世の中に何倍のお金を生んでいるかを表すこの乗数は、設備投資や個人消費の資金需要でみた経済活力の尺度といえよう。

2013年4月に日銀が量的緩和を本格化してからこれまでの2年間に、日本経済の信用乗数は.著しく低下してしまった(13年3月:6.2→15年3月:3.2)。

わが国の資金需要が伸び悩むなか、国債などの買い取りに伴い次々と供給されてゆく資金の大半が中央銀行預け金(民間銀行の中央銀行への預金)に滞留してしまい、お金が天下を回らなくなってきているからだ。

量的緩和に伴う実体経済の活力低下は、リーマンショック直後から総額3.9兆ドルの緩和策を実施してきた米国でも観察されている。

3回にわたる緩和の実施期間は、いずれも米国経済の信用乗数が激減してしまった(08年11月-10年6月:7.0→4.2、10年11月-11年6月:4.4→3.4、12年9月-14年10月:3.8→2.9)。

そこでFRB(米国中銀)は、途中2度中断し、副作用のために乗数とともに減退した経済活力がいくらか回復するのを待ちながら、慎重に緩和策を実施したと見受けられる。

一方で日銀の量的緩和は、2008年12月から絶え間なく続いており、慎重さはまったくみられない。

緩和のペースが急増した2013年4月からの2年間の実施総額は推定158兆円(**)。日本のGDPが米国のわずか1/4である点を考慮すると、日銀の緩和の規模は上記FRBをはるかに上回るといえよう。

しかも、2014年10月に米国の緩和終了と同時に、わが国はなんと追加緩和(国債の買い取り額を年30兆円増額)に踏み切ってしまった。

結果、今年2月には日本勢の米国債保有高は、中国勢を抜き首位へ浮上。

日本国債の発行残高増加の2倍を著しく超えるペースで緩和が実施されているため、大量に放出されたジャパンマネーの一部が米国債を買い支える構造を生んでしまった(米国を買い支える日本と売り崩す中国)。

日本の量的緩和の真の目的は、けっしてわが国のためでなく、米国への経済援助にあることは明らかだ!

昨年10月の日銀の金融政策決定会合は、審議委員9人のうち4人も反対する異例の事態だったが、追加緩和が採決されてしまった。

今年3月の日本の信用乗数(3.2)は、FRBが量的緩和終了を決めたときの米国(13年6月の乗数は3.3)をすでに下回っている。超大規模緩和の副作用のため、乗数低下とともにわが国の実体経済はすっかり疲弊してしまった。

なのに足元も、量的緩和の出口を探る動きどころか、さらなる追加緩和に歯止めをかけようとする姿勢すらみられない。

今春からは、さきの追加緩和に反対した審議委員のうち2名が任期を終え去って行く。「代わってへつらう者が重用され、粛々とわが国を破滅に導く」なんてシナリオは考えたくもない!

株式会社アナリスト工房

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*)ここでは、マネタリーベース(現金と中央銀行預け金:M0)に対するマネーストック(中央銀行預け金を除く現預金:M2)の倍率でもって、信用乗数を求めた。

**)日銀の量的緩和の実施総額は、そのB/Sの総資産の伸長額をもって推定した。