ロシア疑惑が晴れたトランプの逆襲

"ウォーターゲート事件2.0"は疑惑解消。天敵追討の切り札は確保済み

2019年4月26日(金)アナリスト工房

アメリカのニクソン大統領(1969−74)が引責辞任を強いられた悲劇の歴史は、ドタバタ劇の主役のトランプ大統領に対し繰り返そうとしても、そうはいきません。いまの米大統領弾劾の企みは失敗に終わり、進行中の歴史は弾劾を謀った天敵が追討される場面へ移ろうとしています。

ニクソン氏は、1971年の"ニクソンショック(ドルと金との兌換停止)"でドルを切り下げ(1ドルあたり360円から308円へ)、73年にベトナム戦争の休戦協定を結び現地の米軍撤退を加速させました。深刻な双子の赤字(貿易赤字と財政赤字)を減らしたかった彼のあからさまなドル安志向と米軍海外撤退の推進は、21世紀のトランプ氏とズバリ共通ですね。

米大統領の天敵たる抵抗勢力(黒字国からの投資マネーで潤い続けたい金融筋、海外駐留先の軍事利権を手放したくない軍産複合体、金融筋や軍産複合体の息のかかった政治家など)の存在も、両氏共通です。

抵抗勢力が仕掛けた大統領への嫌がらせは、トランプ氏には2016年の米大統領選がトランプ有利となるようロシアを介入させた疑い『ロシア疑惑』に対し、ニクソン氏には1972年のDNC(民主党全国委員会)への盗聴未遂『ウォーターゲート事件』でした(下記)。

「72年6月17日、ワシントンのウォーターゲート・ビルディングにある民主党全国委員会事務所に盗聴装置をしかけようとした5人の侵入者が逮捕されるという事件がおきた」

「ホワイトハウスのジョン・ディーン法律顧問が大統領の側近による隠蔽工作を告白したため、ニクソンは73年4月にふたりの腹心の補佐官H・R・ハルデマンとJ・D・アーリックマンをふくむ4人の解任にふみきった」

有賀貞・大下尚一・志邨晃祐・平野孝

『世界歴史大系 アメリカ史2』山川出版社(1999)

大統領補佐官や司法長官が次々と解任された点で、ウォーターゲート事件はロシア疑惑との共通点が多いですね。

しかし事件あるいは疑惑を調査する特別検察官は、理不尽な調査手法(大統領執務室の会話録音)に堪忍袋の緒が切れたニクソン氏が解任したのに対し、トランプ氏が忍耐強く最後まで調査を許しました。特別検察官を解任したために疑惑を強め引責辞任に至ったニクソンの"失敗の歴史”を、トランプ政権はしっかり学んだとみてとれます(下記)。

「ニクソンは司法長官にエリオット・リチャードソン、事件の特別検察官にアーチボールド・コックス教授を任命」

「事件の調査の過程で大統領の執務室に会話の記録装置がそなえられていたことが明らかとなったが、ニクソンは上院特別調査委員会のテープ提出要求にたいし行政特権を理由に拒否したうえ、73年10月にコックス検察官から同様の要求がでるや解任を決意し、それに反対する司法長官および司法次官をも罷免する行動にでて、世論の批判や疑惑を強める結果をまねいた」

「74年7月下旬に下院司法委員会で大統領弾劾訴追審議が始まり、司法妨害、権力乱用、議会侮辱の3罪状で訴追勧告が決定をみ、下院による弾劾がまちがいない事態となった。(中略)彼の辞任は大きな衝撃を与えた」

有賀貞・大下尚一・志邨晃祐・平野孝

『世界歴史大系 アメリカ史2』山川出版社(1999)

結果、モラー特別検察官の調査報告書(19年4月18日公表)には「調査の結果、トランプ選挙陣営が陰謀を企てたりロシア政府の選挙干渉と共謀したとは、立証できなかった」と記されています。

調査結果に関するバー司法長官の記者会見(同日)では、トランプ陣営のロシア疑惑とその調査妨害疑惑を立証できないことが改めて強調されました。証拠不十分なロシア疑惑は訴追できません。トランプ大統領への疑惑は実質的に晴れたのです。

なおバー氏の記者会見では、モラー元FBI長官を特別検察官に任命したローゼンスタイン司法副長官が同席しました。17年に大統領の会話を盗聴することや憲法修正第25条に基づく大統領解任を複数の閣僚へ提案した彼は、典型的な反トランプ抵抗勢力。そんなローゼンスタイン氏を解任せず司法判断に参加させたトランプ政権は、天敵の有効活用がとても上手ですね。

▼疑惑の正体は、民主党の大統領予備選での不正に関する内部告発

そもそもロシア疑惑が晴れた最大の理由は、その疑惑に相当するDNC(民主党全国委員会)のメール流出事件に、実はロシアが見当たらないことにあります。

ロシア疑惑のはじまりは、DNCのIT担当セス・リッチ氏が、DNC幹部の間で交わされた電子メールを機密文書公開サイトの”ウィキリークス"を通じて世間へ公表したこと。それらのメールは、民主党内の大統領予備選で人気No.1のサンダース上院議員でなく、2番手以下にすぎないヒラリー・クリントン元国務長官を勝たせるよう働きかける内容です。

16年7月、正義感の強いリッチ氏はワシントンの路上で強盗に射殺されたはずが、不思議なことに彼の財布もクレジットカードも手付かず無事でした。

直後、ワッセルマンシュルツDNC委員長は、民主党員の大勢を占めるサンダース支持者たちから強い非難を浴び辞任。ワッセルマンシュルツ氏の後任ドナ・ブラジルDNC暫定委員長は、民主党内の予備選がクリントン有利に働くよう仕組まれたことを、17年に暴露本の出版とその記者会見で公にしました。

すなわちロシア疑惑の真相は、民主党内予備選の不正に関する内部告発であり、ロシアのハッキングによる情報流出ではない。大統領選でトランプ氏を有利に導いたのは、不適任な者を勝手に大統領候補と決めた党選管組織。アメリカ人による正義の内部告発はロシアによる選挙介入にすり替えられ、大統領を攻撃するための疑惑が強引にでっち上げられたのです。

なお、民主党がロシア疑惑を言い張り続け、トランプ大統領を弾劾できる可能性はゼロに近い。

なぜなら、18年の中間選挙で勢力を大きく伸ばした民主党議員は、16年の大統領党内予備選でサンダース候補の選挙運動に励んだオカシオコルテス氏など、草の根社会主義の左派が中心。なので民主党がロシア疑惑にいつまでも固執し続けた場合には、草の根左派のサンダースを引きずり下ろした予備選のとんでもない不正が再び公になり、党内分裂を招く危険がありますからね。

▼鍵を握るアサンジ氏を確保した米政権は、真犯人のしっぽをつかんだ!

でっち上げられたロシア疑惑を晴らしたトランプ政権は、大統領に濡れ衣を着せ弾劾を企んだ抵抗勢力へ逆襲しはじめました。さっそくトランプ氏は、犯罪をしでかした連中をズバリ名指しで非難しましたね(下記)。

「怒りんぼ民主党と反トランプ勢力が無制限のお金(35百万ドル)をつかって書いたモラー報告書は、私(トランプ大統領)に手出しできなかった。私は間違ったことは何もしていない。(中略)犯罪はすべて不正なヒラリー、民主党、DNC(民主党全国委員会)および悪徳警官たちがしでかした。われわれは連中のしっぽをつかんだぞ!」

トランプ米大統領(Apr 24th 2019)Twitter

とくに注目されるのは、DNC(民主党全国委員会)幹部の間で交わされたヒラリー有利に働きかけるとの電子メールが持ち込まれた先の機密文書公開サイト”ウィキリークス”の創設者、ジュリアン・アサンジ氏の身柄が確保されたことです。

米当局の要請を受けた英警察は、19年4月11日、在英エクアドル大使館に亡命中のアサンジ氏を逮捕しました。逮捕容疑は別件(米陸軍情報分析官だったマニング氏に機密文書を提出するよう促したとの疑い)ですが、イギリスがアサンジ氏をアメリカへ引き渡す前後の過程で、誰がDNC幹部の電子メールをウィキリークスに持ち込んだのかを、彼は証言する可能性が高い

アサンジ氏の証言により疑惑の真相が立証できたとき、反トランプ抵抗勢力追討が本格化し、ウィキリークス経由で内部告発し若い命を奪われたDNCのIT担当者セス・リッチ氏(享年27歳)の正義はきっと報われるでしょう。

アナリスト工房 2019年4月26日(金)記事