香港デモの逆風に挑む米中貿易交渉
トランプがデモ隊抹殺を制止。キッシンジャー外交が中国を交渉の場へ
2019年11月28日(木)アナリスト工房
トランプ貿易戦争に伴う世界的な荷動きの悪化を受けて、市場を取り巻くさまざまな国々の実体経済縮小が顕著となってきた。世界不況の深刻化を招かずに2020年を無事迎えるためには、12月の米中貿易交渉で最悪な決裂を防ぎ経済縮小ペースを和らげることが、年内の最重要課題だ。
にもかかわらず、トランプ政権の経済政策の妨げとなる出来事はいつもどおり続いている。
先週、アメリカの上院に続き下院は、香港区民の人権と民主主義が米国法のもとで尊重されるよう支援する「香港人権・民主主義法案」を、なんと圧倒的多数(反対者は上院ゼロ、下院1名)で可決。もしも大統領が拒否権を行使した場合には両院それぞれ3分の2以上の賛成をもって再可決・成立する可能性が濃厚なため、27日にトランプ氏が署名のうえ同法案は成立してしまった。
貿易黒字での稼ぎを対米投資で還流してきた中国のマネーで潤い続けたい反トランプ抵抗勢力は、香港デモ騒動に積極関与し、中国の対米黒字を減らす米中貿易交渉の妨害を図ったと見受けられる。
「現実を歪め白と黒を逆にした二重基準を盲従するアメリカの政治家たち(ペロシ下院議長やルビオ上院議員)は、すでにヒステリーの寸前だ。彼らは、過激な犯罪分子と共謀し、香港で反中国の犯罪事件に狂ったように関与している」
中国外務省の声明(Aug 15th 2019)
ちなみに、香港デモのリーダー黄氏は8月、他のリーダーたちと一緒にアメリカの在香港イーディー領事と面会中の鮮明な写真がツイッターで公になった。
14年の大規模デモ「雨傘運動」の学生リーダーだった黄氏は、その実績を絶賛した米民主党のペロシ下院議員(いまの下院議長)との翌15年の会談の様子が、ペロシ氏自身のツィッターで写真とともに取り上げられている。そんな彼が指揮する香港デモ隊は、反トランプ抵抗勢力の傀儡とみなされても仕方がない。
<反トランプ抵抗勢力とその抵抗理由>
・対米貿易黒字国からの投資マネーで潤い続けたい金融筋
(∵対米黒字国の黒字額を減らすトランプ貿易戦争に抵抗)
・海外の軍事利権を手放したくない軍産複合体
(∵米軍の海外撤退推進中のトランプ政権に抵抗)
・金融筋や軍産複合体の息のかかった政治家/政府機関
(抵抗勢力は民主党だけでなく共和党にも/とくに国務省)
民主主義を説き若年層をそそのかし反政府デモと破壊活動に走らせ、その国・地域の政情不安を引き起こし政権を転覆させ疲弊させようとするスパイ工作は、シリアなど「アラブの春(2010−2012)」のときと同じ手口だ。そんな二番煎じの工作活動は、監視システムが張りめぐらされた中国の自治区香港では通用しない。
中国への内政干渉と主権侵害を伴う香港人権・民主主義法案が可決した直後、中国政府は極めて強い調子でアメリカに非難を浴びせ、「主権・安保・国益を守るために強力な報復措置をとる」と猛反発。
「香港人権・民主主義法案は、事実を無視し正誤逆の二重基準を用いて厚かましく香港問題と中国内政に干渉することから、国際法と国際関係の規範に違反だ。(中略)アメリカが間違った決定を言い張る場合には、中国は主権・安保・国益を守るために強力な報復措置をとる」
中国外務省の声明(Nov 20th 2019)
中国共産党の意向を色濃く反映した国営メディアのなかには、米中報復合戦に伴う「貿易戦争の長期化」に備え、アメリカの農家へ設備投資を最低でも6カ月以上待つよう呼びかけ不安をあおる論調も。一時、12月の米中対面での貿易交渉が見送られる危険さえ浮上した。
「中国は(対米貿易交渉で)合意を望む一方、最悪のシナリオ『貿易戦争の長期化』への覚悟ができている。
<親愛なるアメリカの農家の方々へのご注意>
あわてて農地を買い広げたり、より大型のトラクターに乗り換えるのは止めましょう。米中貿易合意が正式に署名され有効となってから、なお6カ月待った方が安全ですよ」
中国国営Global Times胡編集長(Nov 20th 2019)Twitter
一方、これまで粘り強く電話協議を続けている米中の政府はともに、市場と経済への計りしれない悪影響を防ぐために、対面での貿易交渉を早期に再開したい。香港人権・民主法案に賛成票を投じたアメリカ上下院の議員たちも、米国経済を著しく損なう交渉決裂を心配する支持層(米国の企業、農家など)に配慮したいのが実情だ。
そこで、絶妙な仰天話を披露しながら、交渉再開への突破口を切り拓いたのは、アメリカのトランプ大統領だった。22日のFOXニュースの電話インタビューによると、貿易合意への悪影響を防ぐためにトランプ氏は、中国軍の香港突撃を止めるよう友人の習主席に頼み、香港抹殺を阻止したとのこと。
香港のデモ隊に助力する法案に賛成した米議員の大半は、香港の民主主義と同様に対中貿易での赤字削減が大切なトランプ政権が中国との貿易交渉を本格化させる方針に大きな異論はないだろう。
「アメリカは香港を支持しなければならないが、私は習主席も支持する。彼は私の友人だからね。(中略)もしも私がいなかったら、香港は14分で抹殺されただろう。習主席は香港の外側に百万人の兵士を集結させている。兵士たちが突撃しないのは、貿易合意にものすごい悪影響を及ぼすから止めてくれと、私が彼に頼んだからだ」
トランプ大統領(Nov 22th 2019)FOXニュースの電話インタビュー
並行して22日の北京では、トランプ外交の指南役を務めるキッシンジャー元米国務長官(96)が中国の習主席と会談。1960年代後半から東西の枠を超えて外交手腕を発揮してきたキッシンジャー氏は、いまの中国外務省でも尊敬されている。老骨にムチ打って敵地を訪れた彼を、中国は手ぶらで帰国させるわけにはいかない。
そこでを習氏は、アメリカとの間での誤解と判断ミスを避けるために「コミュニケーションを高める」ことの大切さをキッシンジャー氏に伝え、トランプ政権との交渉本格化に応じる前向き姿勢を示唆。まもなく、米中貿易交渉が本格化するだろう。
「(中国とアメリカの)2カ国は、戦略課題に関するコミュニケーションを高め、誤解と判断ミスを回避し、相互の理解を改善すべきだ」
習国家主席(Nov 22th 2019)中国外務省公表
12月の米中貿易交渉では、アメリカの対中関税制裁の第4弾(2700億ドルの中国品に対し追加関税15%)の見送り・撤廃と、中国の米農産物の購入量が最大の重要ポイント。アメリカが第4弾のうち12月15日発動予定の1600億ドル分を見送るとともに、中国が米国産農産物を年300〜400億ドル購入し始め、世界不況を早期深刻化させないために必要最小限の部分合意に至る可能性が高い。
なお、9月に発動済みの1100億ドル分は、1600億ドル分の発動見送りと同時に撤廃されるでしょう。市場を取り巻く世界経済の年末しのぎは一件落着へ。
アナリスト工房 2019年11月28日(木)記事