音楽消した米連銀は市場の踊りを中断
情け容赦ない引き締めラッシュへの懸念が、市場参加者たちを萎縮
2022年1月11日(火)アナリスト工房
「音楽が鳴っている間は、起き上がって踊り続けなければならない」。バブル延命目的の無責任な投資格言どおり、アメリカの市場参加者たちは、QE(量的緩和)が次第に先細るのにも負けず、奇策に踊りながら高値圏の強気相場をしばらく演出してきた。
テーパリング(QEの段階的縮小)が始まった昨年11月以降も、彼らは株式市場と債券市場の間で投資マネーを巧みにキャッチボールし新規投資マネーを上手く呼び込みながら、主要株価指数S&P500の最高値更新を強引に何度も続けてきた。
米国債市場の参加者たちは、満期までの期間が比較的長い債券の買いと短い債券の売りを組み合わせることにより、アメリカ経済の先行き長期低迷を示唆する「イールドカーブのフラット化(期間別利回りの平坦化)」を演じるのがとても得意。経済低迷を口実に緩和状態を長引かせようと彼らは、細るQEマネーと米放漫財政の悪影響にも負けず、肝心な10年債と30年債は低利回り(価格高)を強引に維持してきた。
しかし、株式・債券間の投資マネーのキャッチボールと米国債イールドカーブ操作により、アメリカの市場参加者たちがS&P500と長期国債の高値圏を無理に維持できたのは、今年の年明けまでが限界だったようだ。
1月5日に公表された昨年12月のFOMC(米金融政策決定会合)の議事録は、テーパリング終了予定の3月の早期利上げ開始だけでなく、利上げ開始後から程なく「バランスシート縮小(米連銀が過去の量的緩和で買い取った金融商品の保有を減少させることにより、市場から資金回収する引き締め策)」に踏み切ることも示唆する手厳しい内容。米連銀は音楽を消し、市場は素直に踊りを中断した。
以後、市場参加者の間で最も有力なシナリオは、今年3、6、9、12月に0.25%ずつの利上げが実施され、その間7月までにバランスシート縮小が始まる(ゴールドマン、今年4回の米利上げ予測-7月にはランオフ開始の公算)。
情け容赦ない米連銀の引き締めラッシュへの懸念のなか、萎縮した市場の踊りがすっかり停止してしまった。
1月7日に公表された12月の米雇用統計は、非農業部門雇用者数が前月比わずか19.9万人増と大方の市場予想(42.5万人増)を著しく下回った一方、失業率が3.9%(市場予想4.1%、前の月4.2%)と20年2月以来の水準まで大幅改善。互いに矛盾する統計結果のうち大多数の市場参加者が受け入れたのは、緩和継続の必要を表す雇用者数伸び悩みでなく、引き締めへの環境が整ったことを示す想定外の低失業率だった。
翌10日もS&P500はさらに続落。米国債は幅広い年限にわたり売られ、10年債は一時1.808%と20年1月以来の高利回り水準。超ハイペースの引き締め懸念が強まるなか、株式市場から逃げた投資マネーは債券市場へ向かわなくなってしまった。株式・債券ともに軟調な引き締め相場が始まっている。
▼バランスシート縮小策の主砲は、たっぷり膨らませたリバースレポか?
米連銀の引き締め策のなかでいちばん気掛かりなのは、21年3月から毎日実施中のリバースレポ(民間金融機関からの担保付き翌日物借入:21年12月末残高がなんと1兆9046億ドル)。なぜなら奇策の得意なパウエル議長の連銀は、超特大規模に膨らませたリバースレポを政策的にあえてデフォルトさせることが想定されるからだ。
21年6月からの有利子化(ゼロ金利→0.05%)に続き、9月からの各金融機関の限度枠倍増が金融機関勢に好感されたリバースレポは、いまのQE4(量的緩和第4弾:昨年12月29日時点の残高が4兆7559億ドル)マネーの約4割を早くも回収してしまった。資金回収に応じる金融機関勢へのメリットをたっぷり充実させた取引促進策から、リバースレポの狙いはズバリQEマネー回収にありと見受けられる。
逆に、もしも市中の1ドルあたりの通貨価値を高める資金回収策が実施されなかった場合には、米放漫財政の悪影響を被ったドルの価値は著しく下落していた可能性が高い。基軸通貨の番人たる米連銀のドル防衛はひとまず成功したようだ。
連銀の翌日物借入リバースレポがデフォルトした場合には、担保の米国債(連銀資産)が金融機関勢へ正式に移転し、連銀のバランスシートは一夜で劇的に縮小する。そのショックをきっかけに以後、米ドル資金回収が飛躍的に進みながら、連銀が通貨リセット(新ドル切り替え)に踏み切るだろう。
そもそも、QE実施中の早期段階で超特大規模の資金が回収された事実から、米連銀の最終目的はドル全回収を要する通貨リセットしかない。来月の北京五輪の会場周辺で中国元CBDCが華やかにデビュー予定。米ドルが基軸通貨であり続けるためには、課題の通貨価値を金・銀など実物資産で裏付け刷新する必要に迫られているのが実情。
新たな通貨制度に向けて、アメリカの金融政策が目まぐるしく変わってゆく2022年となりそうだ。
アナリスト工房 2022年1月11日(火)記事