偽メディアのトランプ攻撃の舞台裏

悪しき国際秩序を退治のうえ、ロシアとの協調を築く米政権

2017年6月12日(月)アナリスト工房

旧ソ連(1922-1991)の代表的な新聞は、共産党機関紙プラウダ(真実)と政府機関紙イズベスチヤ(ニュース)。共産党独裁政権による厳しい言論統制の当時は、うそ偽りのない正直な記者の視点でみた真実も、実際に生じた新たな出来事としてのニュースも、十分に報道されていません。

そこで、世の中で起こっていることをほとんど知ることができない(しかも言いたいことがハッキリ言えない)国民の不満のはけ口として、ソ連では次のようなアネクドート(政治小話)が流行していました。

「プラウダ新聞には真実がなく、イズベスチヤ新聞にはニュースがない(笑)」

東側の中核国ソ連の崩壊から久しい21世紀のいま、真実とニュースに乏しい主要メディア報道の問題は、なんと西側に舞台を移して展開中。わたくしどもアナリストが携わる市場・経済に影響する分野は、とくにトランプ米大統領に関する記者の不正直な視点での偽り報道と見受けられるものが多い。しかも、抵抗勢力にとって不都合なニュースを省く不適切な報道姿勢は、最近では鼻につく場面がますます増えています。

なかから今回は、トランプ相場の主人公の地位を揺さぶる「ロシア疑惑(1節)」と資源市況へ響く「米パリ協定離脱(2節)」を題材に、主要メディアの偽ニュースに隠れている実態を読み解いてみましょう!

1.ロシア疑惑:はじめから立証の余地がなかった"大統領の司法妨害"

まずロシア疑惑とは、アメリカのフリン前大統領補佐官が就任前に(許可を受けない民間人には法律で禁じられている)ロシアとの外交交渉を行った疑い。その最大の焦点は、トランプ氏がFBIによるフリン氏への司法捜査を職務権限の行使でもって妨害しようとしたかどうかです。

今月8日、コミー前FBI長官の上院情報特別委員会での議会証言は、彼が在職時の2月にトランプ大統領から受けた言葉「君が本件をやり過ごしフリンを許す良い方法を見出せることを、私は望む」に関するリスチ上院議員との質疑がハイライトシーンです。

トランプ氏の言葉には指示も命令もなかったと回答したコミー氏に対し、望むだけで司法妨害などの犯罪に該当した事例があるのかとリスチ氏は後押しの詰問。それに対するコミー氏の回答は、事例を知らないので証言席に座っている次第。このように、大統領の「望む」との言葉をコミー長官が指示と受け止めたことの根拠が乏しいため、大統領権限での司法妨害を立証することは困難です。

そもそも在職時のコミー長官は、先月3日上院司法委員会では、宣誓のうえ大統領による司法妨害がなかった旨を次のように議会証言しています。

「もしも、われわれFBIが政治的理由により仕事を中断することがあった場合には、それは非常に重大な問題だ。そのようなことは、私の経験では起こっていない」

コミーFBI長官の『上院司法委員会での議会証言』 May 3rd 2017

先月の議会証言が偽証罪に問われないためには、以後のコミー氏が司法妨害を立証できる新たな証言を行うことはありえないのです。ロシア疑惑の真相に迫る重要な手掛かりにもかかわらず、大半の主要メディアは先月のこの証言を掲載していません。トランプ政権に反対する抵抗勢力にとって不都合なニュースを省く、とんでもない偏向報道が公然と行われているのです。その場しのぎの悪あがきは見苦しい。

2.米パリ協定離脱:負の費用対効果に激怒し"ハード離脱"。再びロシアへ

続いて、今月1日にアメリカが離脱に踏み切った”パリ協定”とは、地球温暖化を防ぐための国際協調の枠組み。この協定からの離脱を発表するトランプ大統領の声明の全文が、いくつもの主要メディアの紙面を探しても見つかりません。

紙面に載っている声明の要約は、重要なポイントが不自然にカットされているため、アメリカが協定内容のどこに不満をもち離脱を決めたのかがわかりづらい。国内外の協定推進派にとって不都合な真実が隠されていそうですね。

そこで、大統領声明の中継を実際に聞いたうえでカットされた重要ポイントを復元したら、アメリカが他の参加国の了解を得ずに協定を打ち切った理由と背景が鮮明に浮かび上がってきました新興国の工業推進に甘いパリ協定の具体的内容は、温暖化防止の効果が期待できないうえ、雇用がアメリカから新興国へ流出する要因です(下記)。

「本日をもってアメリカは、拘束力のない"パリ協定”の履行をやめるとともに、その苛酷な負担金の支払いを停止する。巨額の負担となっている”緑の気候基金”への拠出も止める」

「パリ協定は、アメリカに厳しい経済的制約を課すだけでなく、われわれの理想的環境への期待に応えられない。中国には今後も何百もの石炭火力発電所の建設を容認するのに対し、わが国にはそれを認めない。インドの石炭生産は2020年までに倍増することが許される一方、アメリカの炭鉱は閉山が義務づけられている。欧州でさえ、石炭火力発電所を建設し続けることが許される。これら一連の雇用が、アメリカから海外の国々へ流出してしまう」

トランプ米大統領の『パリ協定離脱の声明(前半の抜粋)』Jun 1st 2017

新興国には甘い環境規制の一方でアメリカなどの先進国には厳しい規制を課すパリ協定とは、いったい何なのでしょうか?

パリ協定の本質は、温暖化防止の規制を敷くことよりもむしろ”緑の気候基金”を通じた先進国からの新興国へのバラマキ援助と見受けられます(下記)。同基金への拠出表明額は、アメリカ30億ドル、日本15億ドル、イギリス12億ドル、フランス10億ドル、ドイツ10億ドルなど計103億ドル(2016年12月時点)。これら西側中心の援助資金の流れが極めて不透明なことからも、従来の国際援助と同様に巨額の利権がみえみえですね。

「パリ協定は、アメリカの犠牲のもとで長期にわたり富を貪ってきた外国資本とグローバル活動家の賞賛をえるために、わが国へ経済ハンデを負わせている。(中略)苛酷なエネルギー規制を負わせるパリ協定は、名前だけが立派な”緑の気候基金”を通じて、アメリカの富を新興国へ配る仕組みだ。(中略)そのお金がどこへ行くのかは、誰も知らないし、誰も語ることができない

「われわれがパリ協定から離脱することは、アメリカの国家主権を回復させる意義がある。(中略)また、われわれはアメリカの豊富な資源・エネルギーの積極利用にすでに着手しているため、その障害となる協定にとどまることはできない。

(中略)パリ協定は、アメリカの経済を損ない、労働者を挫折させ、国家主権を弱体化させる。このままではわれわれは、容認できないコンプライアンス・リスクと世界のなかでの永久的な不利益を負わされてしまう。その前に、いまパリ協定を離脱する」

トランプ米大統領の『パリ協定離脱の声明(後半の抜粋)』Jun 1st 2017

なお、米パリ協定離脱の狙いのなかで注目されるのは、アメリカが国内外にもつ資源・エネルギーを積極利用する方針へ転じたこと(上記)。本来ならば自給できるほど豊富な原油・天然ガスがあるにもかかわらず、これまで環境などに配慮し油・ガス田の開発を抑えてきました。その封印を解きはじめたのです。

なかでも注目度No.1は、北極海でのロシアとの合弁事業。2014年、米エクソンモービル社の合弁相手のロシア国営ロスネフチ社は、北極圏のカラ海地域で大規模な油・ガス田を発見しました。直後、アメリカ政府が対ロシア制裁を発動したため、その合弁事業はいま停止中。

とはいえ、かつてロシアとの合弁を取り決めたエクソンモービルCEO(最高経営責任者)は、いまのティラーソン米国務長官です。対ロ制裁の口実となったウクライナでの軍事的緊張がすでに後退していることからも、親ロのトランプ政権は制裁解除のうえロシアとの合弁事業の再開に踏み切る可能性が高い

以上、前世紀には東側の珍事だった「不都合な真実の頭かくして尻かくさず」のメディア報道は、いまでは西側の茶飯事。かくしたはずの頭も、丸出しのお尻を手がかりにたちまち見つかってしまう。その場しのぎの悪あがきも、限界が近づいています。

なお、20世紀の東側はポーランドが去った2年後の1991年に中核国ソ連が解体したのに対し、21世紀のいまは去ってゆく超大国アメリカに取り残される他の西側諸国が危うい。

アナリスト工房 2017年6月12日(月)記事