GDPお化粧バトルに日本も参戦
2016年5月25日(水)アナリスト工房
国の経済情勢をみる指標のなかでいちばん大切なのは、国内で産み出されたモノとサービスの付加価値を集計したGDP(国内総生産)です。GDPの水準は国の経済規模を示し、その伸びから物価上昇率(GDPデフレータ)を控除した実質GDP成長率は国の経済成長を表します。
いま経済規模ベスト3の国々のGDPは、予想を上回る成長を示す吉報が公表されても、市場の反応が従来よりも鈍い。なぜなら、日米中そろってGDP統計の信頼性が疑問視されているからです。
1.過去の成長を足元へ振替える米国、成長目標に結果を合わせる中国
2015年7月に米国は、季節要因による変動の調整手法を改善するためと称し、2012年以降のGDPを過去にさかのぼり大幅に修正しました。
そのときの米商務省の公表資料によると、2014年までの3年間の成長率が大きく引き下げられ、2014年のGDP水準は修正前に対し0.8%も低い規模へ下方修正。一方、2015年1−3月の実質GDP成長率はマイナスからプラスへと大きく上方修正のうえで、同年4−6月分がいっそう高い成長率でもって発表されています(米中GDPお化粧バトル)。
いったい何のために何が行われていたのでしょうか?
米商務省は、季節調整の手法改善と称しながら、 過去の成長率を大幅に削って足元へ振替えたのです。ニュース報道などで繰り返された「米国経済の力強さ」とは、実は統計での厚化粧の力だったようですね。
結果、2015年12月にFRB(米国中銀)は予定どおり政策金利の利上げに踏み切ることができました。しかし、そのために必要な経済成長率の上向き環境は、商務省経済分析局の机上で強引につくられたと見受けられます。
GDP統計の厚化粧は、実質GDP成長率が全人代(国会)の目標どおりに決まる中国も同様です。
全人代が課す高い成長目標に中国国家統計局が悪戦苦闘する様子が明白になったのは、2015年1−3月分。その実質GDP成長率の公表値は、目標とズバリ同じ前年同期比7.0%増。
ところが、控除された物価上昇率(GDPデフレータ)が1.1%のデフレに対し、CPI(消費者物価指数の前年同月比)が1.2%のなんとインフレ。GDPデフレータとCPIは調査対象の品目が互いに異なるとはいえ、プラスとマイナスのかい離があまりにも大きくて不自然ですね。
景気が伸び悩むなかで何とか目標がクリアできるよう、デフレータの符号が実態とは逆に加工されたと推察されます(米中GDPお化粧バトル)。
2.米中の手口を学んだ日本は、その場しのぎの景気後退隠しに苦戦
無理な成長目標にこだわる中国、過去の成長実績を足元へ振替える米国の悪い面を兼ね備えているのは、日本のGDPの厚化粧です。
まず2015年12月にわが国は、民間の設備投資と在庫の集計方法を改善するためと称し、1994年以降のGDPを過去にさかのぼり修正しはじめました。
内閣府の当時の公表資料によると、実質GDP成長率は2014年7−9月がマイナス幅拡大の下方修正(年率換算で前期比▲1.1%→▲2.8%)の一方、2015年7−9月がマイナスからプラスへ大きく上方修正(年率換算で前期比▲0.8%→1.0%)。
米商務省に続き内閣府も、統計手法の改善と称しながら、過去の成長率に削って直近へ振替えたと見受けられます。結果、アベノミクスのもとでの2度めの景気後退(2四半期連続のマイナス成長)は回避も、GDP統計の信頼性に疑問が浮上してしまいました。
続いて2016年5月(今月18日)は、2015年10−12月の実質GDP成長率がマイナス幅拡大の下方修正(年率換算で前期比▲1.1%→▲1.7%)のうえ、2016年1−3月の速報値がプラス成長(年率換算で前期比1.7%成長)でもって公表されました。このとき、再び景気後退が強引に回避されたと推察されます。
なぜなら、今年1−3月の速報値は、成長要因の大部分がうるう年効果なので、もしもその前の期の下方修正が施されなかった場合にはマイナス成長であった可能性が高いのです。
このように日本のGDP統計は、過去の落ち込みの穴を深く掘って取り出した土砂で直近を底上げすることにより、景気後退を隠す「その場しのぎ」が繰り返されていると見受けられます。
2015年4−6月からマイナス成長とプラス成長を交互に繰り返す不自然な統計結果は、そのユーザーが半信半疑に受け止めているため、たとえ予想を上回る好成績を示しても市場の反応が鈍いのです。
わが国のGDP統計の厚化粧の背景には、中国と同様に無理な成長目標(アベノミクスの成長戦略)へのこだわりがみてとれます。
しかし、潜在成長率(長期にわたり平均どの程度のペースで経済成長できそうかの推定値)が0%台前半のもと、高い成長目標は現実的ではありません。成長を前提に財政の無駄使いを拡大させるよりも、成長を前提としない経済政策(例:財政に大ナタを振るい小さな政府へ)へ切り替えることが大切と考えられます。
統計の厚化粧で塗り固められただけのバーチャルな経済成長なんていらない!
アナリスト工房 2016年5月25日(水)記事