2013年9月10日(火)
「未認識債務の即時認識」を骨子とする、わが国の新たな退職給付会計(2012年5月改正の「退職給付に関する会計基準」)が、今期(2014/3期、2013年度)から適用される。
上場企業が新会計基準を義務づけられるのは期末の本決算からだが、すでに31社が第1四半期(2013年4-6月期)の段階でその早期適用に踏み切った。その中から典型的なケースを紹介しながら、新しい会計基準の導入に伴う日本企業の財政状態への影響を取り上げたい。
新退職給付会計の適用開始に伴い、それまでオフバランスであった未認識債務は、B/S(貸借対照表)上でしっかり認識される。はじめに、その会計処理を簡単に説明しよう。
まず、退職金・年金制度で会社の抱える「退職給付債務」からそのために運用する「年金資産」を控除した純債務のうち、これまで負債の部にあったのはその一部(退職給付引当金)に過ぎない。
それに対し新会計基準では、残る未認識債務も合わせた純債務全体が、新たな勘定「退職給付に係る負債」でもって負債計上される。すなわち、従来よりも会社の負債は増加する。
また未認識債務は、会社の負債であるのと同時に、その大半が年金資産の運用で抱える含み損(数理計算上の差異)で構成される。
そこで未認識債務の額は、持合株の株価下落での含み損や在外子会社の純資産に係る円高での含み損と同様に、自己資本の中の含み損益を表すOCI累計額(その他の包括利益累計額)に反映される。
税効果を加味のうえ、OCI累計額の中の新勘定「退職給付に係る調整累計額」にマイナス計上されるため(*)、会社の自己資本は従来よりも減少する。
未認識債務の負債・資本への反映に加え、新たな退職給付会計基準を早期適用し始めた企業の大半は、同時に退職給付債務の算定方法も見直している。
まず将来の給付見込額は、全期間均等と単純化した「期間定額基準」から、年功序列制などを考慮し期間ごとの金額をきちんと見積もる「給付算定式基準」へ。
また給付見込額を現在価値に換算するための割引率は、平均期間までの金利から、給付見込み期間ごとの金利を反映したものへ、それぞれ変更されている。
これらの算定方法の見直しに伴う退職給付債務の額の変化も、会社の自己資本に反映される。
退職給付債務が増えた場合は、税効果を加味のうえ、自己資本の中の利益剰余金が減る要因となる(**:逆に退職給付債務の額の減少は、利益剰余金が増える要因である)。
以上により、まず未認識債務のオンバランス化による負債の増加と資本の減少は、会社の財政状態の健全性を表す自己資本比率の低下へ作用する。
また、退職給付債務の算定方法の見直しに伴い、その増額による負債増・資本減はさらなる自己資本比率の低下要因となる(逆に退職給付債務の減額による負債減・資本増は、自己資本比率低下に歯止めを掛ける)。
結果、新会計基準の適用開始時の一連の会計処理により、日本企業の自己資本比率は具体的にいくら変化しているのでしょう?
「新.退職給付会計の適用事例2(影響)」へ続く
株式会社アナリスト工房
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*)例えば従来の退職給付引当金5、未認識債務10、税率40%の場合、新たな退職給付に係る負債のオンバランス化の会計処理(修正仕訳)は次のとおり。
繰延税金資産4(=10×0.4)/ 退職給付引当金▲5
退職給付に係る負債15(=5+10)
退職給付に係る累計調整額▲6
(=▲10×(1-0.4))
**)例えば退職給付債務が算定方法の見直しに伴い5増えた場合の会計処理は、税率40%のもとでは次のとおり。
繰延税金資産2(=5×0.4)/ 退職給付に係る負債5
利益剰余金▲3(=▲5×(1-0.4))