バーゼル3の自己資本比率とは?

2014年9月25日(木)

会社の財務健全性をみる指標のなかで最もメジャーなのは、自己資本比率です。銀行業界の自己資本比率は、財務諸表上の資産に対する自己資本の割合よりも、"バーゼル3"の基準で計算された値が広く活用されています。それは、いったいどのような指標なのでしょうか?

スイスにある"バーゼル銀行監督委員会"が打ち出した第3弾の自己資本規制に基づき、新たに定義された自己資本比率です。2013年から主要国の銀行は、このバーゼル3基準での指標の値を一定以上の水準に保つ必要があります。

今回は、バーゼル銀行監督委員会とそこが定める自己資本規制を説明のうえ、規制に基づく自己資本比率の算定方法と企業分析でのその見方を具体例とともに取り上げましょう。

まず、スイス北部の主要都市バーゼルには、主要60カ国の金融当局が国際協調のために会合する場として、"国際決済銀行(BIS)"があります。その国際機関の中に、わが国の日銀と金融庁をはじめ各国当局のメンバーで構成される、銀行監督委員会が設置されています。

このバーゼル銀行監督委員会は、資産拡大でもって収益一辺倒に陥りがちな銀行経営に歯止めをかけるために、1992年末から銀行の資産に対し一定以上の資本を保つよう規制し始めたのです(第1弾の自己資本規制"バーゼル1")。

その後、銀行のリスク計測手法が発達したことを背景に、2006年末からは分母の資産のリスクが自己資本比率へ精緻に反映させるよう、規制が改訂されました(第2弾の自己資本規制"バーゼル2")。

さらに2013年からは、分子の資本を普通株での調達と内部留保を中心とする質の高いものに絞り込むことで、銀行の自己資本比率が厳しめに算定されています(バーゼル3)。

このようにいくつかの段階を経て、いまのバーゼル3自己資本規制に至ったのです。その現行規制のもと、自己資本比率はどのように算定されているのでしょうか?

前回「銀行の決算書2(P/Lと業務純益の見方)」に続き、2014/3期(2013年度)の鹿児島銀行を題材に、自己資本比率の算定方法と見方を取り上げます。

銀行には、国際的に業務展開している"国際基準行"と国内に特化した"国内基準行"の2種類があって、適用される自己資本規制も互いに異なります。ご登場いただく鹿児島銀行に合わせ、ここではうち国内基準行の自己資本比率の求め方を説明しましょう。

まずその分子の資本は、自己資本でなく"コア資本"です。コア資本とは、普通株(および普通株へ強制的に転換される条項の付いた優先株)での調達と内部留保とする、中核的な資本を意味します。その大部分は財務諸表上の株主資本(=資本金+剰余金−自己株)です。

貸出金などのデフォルト率に基づき引当てた"一般貸倒引当金"も、このコア資本に算入されます。一方、その他有価証券の評価差額(長期保有前提の株式などの含み益)は、国際基準行がコア資本に算入できるのに対し、国内基準行は算入できません。

ここで、見込まれる損失(一般貸倒引当金)にもかかわらずそれを足し戻すととともに、市況次第で吹っ飛ぶ含み益の算入を国際基準行に認めた点は、コア資本の主旨(中核的な資本)に反していると見受けられます。とはいえ、現状はそのようなルールです。

鹿児島銀行の2014/3期のコア資本は2,552億円。その主な内訳は、株主資本2,286億円、一般貸倒引当金174億円です(*:詳細)。

また、自己資本比率の分母の資産は、銀行のB/S(貸借対照表)の総資産でなく"リスク・アセット"を使用します。このリスク・アセットを一言でいえば、保有する資産のリスクを織り込んで計算した資産額です。

リスク・アセットの大半を占めるのが、貸出金や有価証券のデフォルトの危険を反映させた"信用リスク・アセット"です。これらの資産の額を信用リスク・アセットに換算する際の"標準的手法"は、次のような掛け目(リスク・ウェイト)を用います。

【信用リスク・アセットへの掛け目(リスク・ウェイト)の例】

・事業法人への貸出金:貸出先の格付に応じて20−100%

・日本国債:0%

→リスク・ウエイト100%相当のリスクを有する事業法人への貸出金200億円のリスク・アセットは200億円(=200億円×100%)、安全資産と称する日本国債100億円のリスク・アセットは0(=100億円×0%)。

鹿児島銀行の2014/3期のリスク・アセットは19,799億円。その内訳は、信用リスク・アセット18,720億円(事業法人などへの貸出金によるものが大部分)、事務ミスやシステム障害など業務執行に伴う危険を反映させた"オペレーショナル・リスク"の分が1,079億円です。

結果、同行のバーゼル3基準での自己資本比率は12.9%(=コア資本2,552億円/リスク・アセットは19,799億円)。財務諸表に基づく値7.1%(=自己資本2,745億円/総資産38,697億円)とは、その分子・分母ともに定義が異なることにより、水準がかい離しています。

銀行業界の企業分析では、金融行政のもとでの規制に基づくこの指標はどのように眺めたらよいのでしょうか?

バーゼル3の国内基準行の自己資本比率は、規制では4%以上の水準確保が求められるのに対し、アナリストの企業分析ではもちろんそれだけでは不十分です。

その分子(コア資本)に貸倒引当金が加算されていることと、分母(リスク・アセット)の計算に用いる掛け目の大半が100%以下でしかも国債のリスクが反映されていない点を考慮すると、財務健全の目安は最低でも8%、望ましい水準は10%以上です。

また、一般企業の企業分析と同様、業界の中での比較も大切です。国内基準行55社の2014/3期のバーゼル3自己資本比率の平均値11.3%に基づくと、鹿児島銀行(12.9%)は業界の中で財務健全性が比較的高いといえましょう。

金融危機はいつも忘れた頃に訪れるのが経験則です。低ROEが特徴の銀行業界は、株主の視点でみた収益性の向上が大きな課題となっています。とはいえ、預金を受け入れる銀行は、けっして株主だけのものではありません。

大勢の預金者のためにも、次の危機時の苦難を乗り切るのに必要な財務健全性はいつまでも守り続けていただきたい。

株式会社アナリスト工房

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*)2014/3期のコア資本2,552億円の内訳詳細は、財務諸表上の株主資本2,286億円から支払配当の予定額9億円を控除のうえ、一般貸倒引当金174億円と土地の含み益(土地再評価差額金)の一部101億円を加算。うち土地の含み益は、算入できる額(2014/3期は"土地再評価差額金"の45%相当)が段階的に縮小されてゆき、2024/3期以降まったく算入できない。