銀行の決算書2(P/Lと業務純益の見方)
2014年8月11日(月)
銀行業界のP/L(損益計算書)の特徴は、"経常収益"から"経常費用"を控除して、経常利益(会社の常に安定的に稼ぐ実力をみるための利益指標)を導く点にあります。
まずは、業界特有の経常収益と経常費用について、一般企業のP/Lのつくりと比較しながら説明しましょう。
製造業など一般企業のP/Lは、売上高にいくつかの収益・費用項目を加減し、段階的に経常利益を計算します。粗利としての売上総利益(=売上高−売上原価)、本業たる事業活動での営業利益(=売上総利益−販管費)を経て、事業および金融収支など財務活動による経常利益(=営業利益+営業外収益−営業外費用)を導きます。
一方、銀行のP/Lには売上総利益も営業利益もありません。最初に現れる利益指標は、経常利益(=経常収益−経常費用)です。すなわち、その構成要素の経常収益は一般企業の売上高と営業外収益、経常費用は同じく営業費用(=売上原価+販管費)と営業外費用に相当します。
アナリストが一般企業のP/Lを眺めるときは、売上総利益で粗利ベースの採算、営業利益で事業の稼ぎを把握のうえ経常利益をみるため、会社の利益の源泉が何であるかを容易につかむことができます。
一方、いきなり経常利益に対面する銀行業界の異質なP/Lは、どのように眺めたらよいのでしょうか?
銀行の粗利としての"業務粗利益"、本業たる事業活動での"業務純益"が経常利益とともに記載されているIR(投資家への情報開示)の説明資料を活用します。そこにある業務粗利益と業務純益を足掛かりに、経常利益をみるのです。
以下、前回に続き2014/3期(2013年度)の鹿児島銀行を題材に、これらの利益指標とともにP/Lの見方を紹介しましょう。
一般企業の売上総利益に相当する銀行の業務粗利益は、"資金利益"、"役務取引等利益"、"国債等関連損益"の主に3項目です。それぞれどのような粗利でしょうか?
銀行ビジネスの基本は、預金で調達した資金を貸出金と有価証券(債券、株式など)で運用して稼ぐことにあります。資金利益は、運用のインカムゲイン(受取利息・配当金など)から調達の支払利息を控除した粗利です。
この資金利益は、一般企業では財務活動に伴う金融収支として営業外損益に計上するのに対し、財務活動が本業の銀行では事業活動の粗利に含まれます。
また、資金の振込や保険・投信の販売に伴う受取手数料は、銀行業界では「貴重な収益源」といわれています。そこから支払手数料などかかった直接費用を控除した粗利が役務取引等利益です。
なお、銀行の有価証券での運用は、国債など債券が中心です。債券のキャピタルゲイン(償還・売却に伴う差損益など)は、上記資金利益に含まれず、国債等関連損益として計上します。
これらの項目で構成される業務粗利益から、人件費・物件費(店舗やシステム)などの"経費"と貸出金のデフォルト率に基づき引当てた"一般貸倒引当金繰入"を差し引くと、本業たる事業活動の業務純益が得られます。
その際の控除項目(経費と一般貸倒引当金繰入)が一般企業では販管費に含まれることからも、銀行の業務純益は一般的な営業利益の定義におおむね等しいといえましょう。
鹿児島銀行の2014/3期は、貸出金の残高が前の期に対し5%も伸ばすも、金融緩和の影響を受けてその金利水準が低下したため運用と調達の利回り差が1.33%へ縮小(前の期は1.39%)。結果、資金利益の減少に伴い業務粗利益が前の期に対し微減しています。
また、一部の貸出先の格付低下などにより一般貸倒引当金繰入が増加したため、業務純益は2ケタ減益です。
とはいえ、太陽光発電・医療介護・住宅ローンの分野での貸出金額を伸ばした同行は、資金利益ならびに業務粗利益の減少を軽微にとどめました。そのことが、続く経常利益の段階での増益へと結びついていくのです。
業務純益から"臨時損益"を控除すると、いよいよ経常利益です。臨時的な損益といえば、一般企業では特別損益ですが、銀行業界では経常利益に反映される損益のなかで臨時性の比較的高いものを意味します。
臨時損益の主な項目は、貸出金の"不良債権処理費用"、運用する株式のキャピタルゲイン(売却・償却に伴う差損益)を表す"株式等関連損益"の2つです。
まず不良債権処理費用は、信用リスクの大きな貸出先ごとの状況を踏まえ引当てた"個別貸倒引当金繰入"と、さらにリスク悪化し償却に至った先の損失としての"貸出金償却"の主に2項目から成ります。
また、銀行の運用する有価証券のキャピタルゲインは、債券が上記のように国債等関連損益として業務粗利益に含まれるのに対し、株式が経常利益の段階から反映されるのです。
鹿児島銀行の2014/3期の経常利益は前期比5%増。アベノミクスの追い風を受けて、企業の信用悪化にひとまず歯止めがかかり不良債権処理費用が急減するとともに、株価の高騰に伴い株式等関連損益が大きく向上しました。
これらの臨時損益の伸長に加え、同行は貸出金残高を伸ばすことで業務粗利益を微減に抑えた結果、まずまずの経常増益を確保していますね。
以上、銀行業界のP/Lを眺める際は、IR資料にある業務粗利益、業務純益でそれぞれ一般企業の売上総利益、営業利益に相当する利益水準と主な内訳を把握のうえ、それらの利益指標を足掛かりに経常利益をみるのが基本です。
なお、IR資料の"コア業務粗利益"あるいは"コア業務純益"を活用する場合は、脚注に記したこれらの類似指標の定義をご参照ください(*)。
一方、B/S(貸借対照表)については、これまで資産運用と負債調達の構造を、資金利益の源泉としての利回り差とともに取り上げました(「銀行の決算書1(運用・調達をみる)」)。残るは、自己資本比率での財務健全性の見方です。
銀行業界特有の"バーゼル3の自己資本比率"とは、いったいどのような指標なのでしょうか?
「バーゼル3の自己資本比率とは?」へ続く
株式会社アナリスト工房
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*)コア業務粗利益=業務粗利益−国債等関連損益.
コア業務純益=業務純益−国債等関連損益+一般貸倒引当金繰入.