株価指数の指標で測る日本企業の実力
TOPIXの株式指標を用いて、約1,900社のROEや成長性を簡単に求めてみよう!
2016年2月25日(木)アナリスト工房
いまの四半期決算の制度のもと、わが国の上場企業は年1回の本決算だけでなく年3回の四半期決算を公表します(*)。
前期の本決算公表とともに今期の業績・配当予想が打ち出され、今期の四半期決算の公表時にはこれらの予想が修正されることがしばしばです。
日本企業の大半が決算発表を終える頃には、市場の関心は新たなあるいは修正後の企業全体の今期予想に集まります。
とはいえ、代表的な株価指数「TOPIX(東証株価指数)」を構成する東証1部上場の約1,900銘柄全体の今期予想を集計するのは、並大抵ではありません。
そこで今回は、TOPIXの株価指標を活用することで、その構成企業の今期予想の動向を簡単に集計する方法を紹介します。あわせて日本企業の収益力、株主還元の姿勢、さらには成長性を測ってみましょう!
用いる株式指標は、いまの株価の割高度について、今期の予想純利益に対する倍率でみる予想PER(=株価/予想純利益:株価収益率)、前期末の自己資本に対する倍率でみたPBR(=株価/自己資本:株価純資産倍率)。
また株主還元について、今期の予想配当の充実度を株価に対する割合でみる予想配当利回り(=予想配当/株価)。以上の3つの株式指標です。
これらを組み合わせると、以下のように企業の収益力と還元姿勢をみる指標とともに、それらに基づく成長性指標が容易に算定できます。
1.企業収益力をみる予想ROE(=PBR/予想PER)
まず、収益性指標のなかで最も大切なのは、ROE(=純利益/自己資本:自己資本純利益率)。会社の株主の持分「自己資本」に対し、同じく株主に帰属する税引後の最終利益「純利益」の比率でもって定義される指標です。
このROEは、PBRをPERで割ることにより簡単に求められます(上式)。
<例1> TOPIX対象企業の今期予想のROE(2016年2月19日時点)
日本経済新聞の公表値によると(以下の例も同様)と、PBRは1.09倍、今期の予想PERは14.68倍。これらに基づき、予想ROEは7.4%(=1.09/14.68)。
その分子の純利益が前期比わずか1.9%増(=実績PER14.96/14.68-1)と伸び悩む見込みのため、前期のROE水準にとどまる公算。
日本企業に持続的成長と企業価値向上を要求する"2つのコード"を推進した「伊藤レポート(2014年8月経産省公表)」が主張するROE8%超の目標達成は、難しい状況です。
2.株主還元の姿勢をみる予想配当性向(=予想PER×予想配当利回り)
次に、株式指標のなかで会社の稼ぐ純利益のうち株主へ配当される割合を表すのが、「配当性向(=配当/純利益)」。そのように定義される配当性向は、PERと配当利回りを掛け合わせることにより算定できます(上式)。
<例2> TOPIX対象企業の今期予想の配当性向(2016年2月19日時点)
今期の予想PER14.68倍、予想配当利回り(加重平均)2.19%に基づき、予想配当性向は32.1%(=14.68×2.19%)。
2つのコードをきっかけに日本企業への株主還元の圧力が強まっていることを背景(2つのコードは誰のため? Activist)に、前期実績の配当性向30.4%(=実績PER14.96×実績配当利回り2.03%)よりもいくらか増える計画です。
3.成長性をみるサステイナブル成長率(=予想ROE×(1-予想配当性向))
さらに、これまで求めた2つの指標を用いて、成長性指標の「サステイナブル成長率」を求めることができます。このサステイナブル成長率は、自己資本・純利益・配当の3つ共通の成長率です。
ROEと配当性向が将来にわたり一定でかつ"クリーンサープラス(会社の純利益から株主還元を控除した額が自己資本に積み上がる)”が成り立つと仮定した場合には、サステイナブル成長率はROEから株主還元の割合を控除した水準でもって計算できます(成長性指標で考える株主還元の留意点)。
<例3> TOPIX対象企業のサステイナブル成長率(2016年2月19日時点)
今期予想のROE7.4%と配当性向32.1%(ともに上記)に基づき、サステイナブル成長率は5.0%(=7.4%×(1-0.321)。
前期に対しROEが伸び悩むとともに配当性向が増加する見込み(上記)のため、成長率は低下基調にあります。成長率が下がることは、株式の理論価格低下への要因です。
以上、株価指数の株式指標には対象企業の自己資本、純利益、その株主への配当が含まれています。これらを掛け合わせたり割ることにより、企業全体の資本の収益性、株主還元、成長性の指標を簡単に求めることができるのです。
なお、今期の本決算が発表されるまでは業績・配当予想の修正が続くため、上記3つの例の計算結果は上方修正あるいは下方修正とともに次々と変わってゆくことを、最後につけ加えておきます。
アナリスト工房 2016年2月25日(木)記事
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*)例えば3月を期末とする日本企業は、4月から翌年3月までの1年間の本決算だけでなく、4-6月の3カ月間、4−9月の6カ月間、4−12月の9カ月間の四半期決算を公表します。