FRBの社債売却はQE4縮小の幕開け

史上最高のリバースレポによる資金回収だけでは不十分

2021年6月7日(月)アナリスト工房

いまのアメリカの金融政策は、中央銀行FRBがQE4(量的緩和第4弾)で大量の金融商品(米国債、住宅ローン債券など)を買い取ることにより市場へ月1200億ドルの資金供給を続ける一方、FRB傘下のNY連銀が毎日実施中のリバースレポ(米国債などを担保に民間金融機関からの資金借入)で市場からのQE4マネー回収を勢いよく本格化させている(QE4縮小前に資金回収を始めた米連銀)。


日々の金融調節を担うNY連銀は、金融機関から翌日物資金を借り入れるリバースレポ(O/N RRP)を5月中旬から激増。その額は、5月27日には4853億ドルと史上最高を更新した(それまでの最高額は15年末の4746億ドル)。

一般にリバースレポの金額は、金融機関の資金繰りの関係で、月末ごろに金額が一時的に跳ね上がる傾向が強い。しかし今回は、月末・月初を過ぎてもNY市場のリバースレポ取引が非常に活発だ(6月4日は4833億ドル)。


結果、QE4の資金供給残高からリバースレポでの資金回収額を控除した正味の資金供給残高でみると、QE4は4月半ばにピーク(3兆7242億ドル)を付けた翌週から縮小傾向が鮮明にみてとれる(下記)。

<正味のQE4資金供給残高(O/N RRPによる資金回収控除後)>

・6月2日:3兆4956億ドル(=QE39344ーRRP4388)

・5月26日:3兆4523億ドル(=QE39026ーRRP4503)

・5月19日:3兆6251億ドル(=QE39191ーRRP2940)

・5月12日:3兆6033億ドル(=QE38126ーRRP2093)

・5月5日:3兆6324億ドル(=QE37952ーRRP1628)

・4月28日:3兆5996億ドル(=QE37663ーRRP1667)

・4月21日:3兆7227億ドル(=QE38040ーRRP813)

・4月14日:3兆7242億ドル(=QE37751ーRRP509)←ピーク

・4月7日:3兆6589億ドル(=QE36939ーRRP350)

・3月31日:3兆5415億ドル(=QE36758ーRRP1343)

・3月24日:3兆6811億ドル(=QE37030ーRRP219)

・3月17日:3兆6781億ドル(=QE36781ーRRPゼロ)

QEはFRB、RRPはNY連銀の公表データに基づく

正味のQE4資金供給残高でみた緩和がピークを付けた直後、その状態がまったく保たれないまま急速に緩和縮小に転じたのは、過去3回の量的緩和の合計(3兆9550億ドル)にほぼ等しい趙大規模緩和QE4の重大な副作用(悪性インフレと放漫財政への懸念深刻化)への対処を急ぐ必要が生じたためと推察される。

アメリカのカントリーリスクを抑えるためには、NY連銀のRRPによる市場からの資金回収だけでは不十分。NY連銀の親玉FRB(連邦準備理事会)は、QE4を速やかに縮小し市場への資金供給を減らしていく必要に強く迫られている。

▼ロシアのドル外しが米国のドル防衛(QE縮小)を後押し

ようやく重い腰を上げたFRBは、まずQE4で買い取った資産のうち社債260億ドルの過半を6月第2週から市場で売却し始め、資金回収に踏み切る(6月2日発表)。売却対象の資産は138億ドル(=社債52+社債ETF86)にすぎないが、FRBが資産売却を通してQE自体を一部巻き戻し始める意義はある。

【QE4(量的緩和第4弾)の買い取り資産】6月2日時点

・米国債:2兆8960億ドル

・MBS(住宅ローン債券):8724億ドル

・その他(ローン、社債、地方債など):1659億ドル

・計:3兆9344億ドル(=QE4資金供給残高)

FRB公表データに基づく

通貨の番人FRBがQEを巻き戻しドル資金を回収することは、市中の資金供給量を減少させるため、1ドルあたりの通貨価値毀損を抑える要因。さまざまな通貨に対する米ドルの通貨指数”BBDXY(Bloombergドル・スポット指数)”は、本件発表の直後には一時、年初来騰落率がプラスの水準まで大きく反発した。


しかし6月3日、ロシアの政府系ファンド「NWF(国民福祉基金)」は、流動性資産の35%を占める米ドル建て資産415億ドルを1カ月以内にすべて排除し、ユーロ、中国元、金塊に置き換える方針が明らかになった(シリアノフ露財務相が同日発表)。

資産運用でのドル外しは、市場のドル資金需要を減少させるため、典型的なドル安要因。あからさまなドル外しの動きが他の国々(とくに外貨準備高No.1の中国)に広まる懸念も浮上しており、米ドル通貨指数BBDXYは再び過去5年の最安値圏に逆戻りし低迷状態(6月7日時点)。


ドルの通貨価値を番人FRBが守るためには、資産売却によりQE4を巻き戻すだけでなく、資産買い取りペースを減速しQE4を縮小してゆくことも必要な状況とみてとれる。

きっと年内に(たぶん10月までに)、QE4縮小が正式に始まると想定される。そのとき、リバースレポが1兆ドルを突破する勢いで膨らむ展開がくり広げられれば、米連銀勢のドル防衛はひとまず成功するかもしれない。やはりしばらくは(きっと来年以降も)、アメリカの金融政策の動向に目を離せない状況が続くだろう。

アナリスト工房 2021年6月7日(月)記事