米連銀の利払いがQE巻き戻しを加速

リバースレポが付利され、QE4マネーはすでに18%回収!

2021年6月21日(月)アナリスト工房

アメリカの中央銀行FRBのQE4(量的緩和第4弾)は先週16日、金融商品の買い取りによる市場への資金供給残高が4兆ドルを勢いよく突破し(4兆0547億ドル)、過去3回の量的緩和(QE1、QE2、QE3)の合計3兆9550億ドルを超えた。

その前の週からFRBはQE4で買い取った社債の一部を売却処分することにより緩和にブレーキを踏み始めたが、主力の米国債とMBS(住宅ローン債券)を合わせて月1200億ドルの超ハイペースでの買い取りが是正されない限り、すっかり膨らんだQE4自体の規模はなかなか縮小できない。

【QE4(19年10月ー)の買い取り資産内訳】 21年6月16日時点

・米国債:2兆9308億ドル

・MBS(住宅ローン債券):9563億ドル

・その他(企業ローン、社債、地方債など):1676億ドル

・合計:4兆0547億ドル(=QE4資金供給残高)

FRB公表データに基づく

そこでFRB傘下のNY連銀は、民間金融機関に対するリバースレポ(米国債などを担保に金融機関からの資金借入)を3月半ばから毎日実施することにより、市場からQE4マネーを懸命に回収中。日々の金融調節を担うNY連銀は、金融機関から翌日物資金を借り入れるリバースレポ(O/N RRP)をいつも欠かさず続けており、その額は6月7-14日まで史上最高記録をなんと連日更新した。


6月15-16日のFOMC(アメリカの金融政策決定会合)では、パウエルFRB議長がQE4縮小の議論を始めただけでなく、NY連銀のリバースレポ金利の利上げ(ゼロ→0.05%)が決まった。

民間金融機関が連銀への米国債担保付き貸付(O/N RRP)により利息がもらえるようになった初日(6月17日)、その額は7558億ドル(前日比45.1%増)に激増。FRBがこれまで供給した4兆ドルを超えるQE4マネーは、17日までに18%程度が回収されたとみてとれる。翌18日のO/N RRPも依然高水準(7471億ドル)。


QE4の資金供給残高からリバースレポでの資金回収額を控除した「正味の資金供給残高」でみると、QE4は4月半ばにピーク(3兆7242億ドル)を付けた翌週から縮小傾向が鮮明(下記)。そして6月17日からは、リバースレポ金利の利上げにより、正味ベースでのテーパリング(QE縮小)が一段と本格化してきた(上記)。

<正味のQE4資金供給残高(O/N RRPによる資金回収控除後)>

・6月16日:3兆5338億ドル(=QE40547ーRRP5209)

・6月9日:3兆4447億ドル(=QE39476ーRRP5029)

・6月2日:3兆4956億ドル(=QE39344ーRRP4388)

・5月26日:3兆4523億ドル(=QE39026ーRRP4503)

・5月19日:3兆6251億ドル(=QE39191ーRRP2940)

・5月12日:3兆6033億ドル(=QE38126ーRRP2093)

・5月5日:3兆6324億ドル(=QE37952ーRRP1628)

・4月28日:3兆5996億ドル(=QE37663ーRRP1667)

・4月21日:3兆7227億ドル(=QE38040ーRRP813)

・4月14日:3兆7242億ドル(=QE37751ーRRP509)←ピーク

・4月7日:3兆6589億ドル(=QE36939ーRRP350)

・3月31日:3兆5415億ドル(=QE36758ーRRP1343)

・3月24日:3兆6811億ドル(=QE37030ーRRP219)

・3月17日:3兆6781億ドル(=QE36781ーRRPゼロ)

QEはFRB、RRPはNY連銀の公表データに基づく

▼非米国債を中心に、QE自体の資金供給ペースは縮小へ

読者の皆さんのなかには、次のような疑問をお持ちの方々が何名かいらっしゃると思います。

・いったいなぜパウエル議長のFRBは、QE4で市場への資金供給を従来どおりのペース(月1200億ドル)で続けながら、それをはるかに上回るハイペースで資金回収に励むNY連銀のリバースレポを積極支援しているのか?

・ただ単に、FRBがQE4での資金供給を縮小・終了すれば良いのでは?

・NY連銀のリバースレポ(O/N RRP)での資金回収の奇策は不要では?

米連銀勢(FRB、NY連銀など)がリバースレポで資金回収を本格化しながらQE4で資金供給を相変わらず続けているのは、ドルの価値を保つのに大切な海外(とくに貿易黒字額No.1の中国)からの米国債投資マネーが著しく不足しているため。なのでFRBは、ドルを刷って金融商品を買い取るQEで米国債を引き受け、刷ったドルを市場に支払い供給し続けなければならないのが実情。


本来、深刻な双子の赤字(貿易赤字と財政赤字)を抱えるアメリカがドルの価値を保ち続けるためには、貿易黒字国の稼ぎが米国債投資を通じてアメリカへキャッシュバックされる「債券金融システム」を維持しなければならない。

しかし、貿易黒字額No.1中国の米国債保有高は、13年11月末の1兆3167億ドルがピーク(*)。翌12月、当時のバイデン副大統領(いまの米大統領)が息子ハンター氏を伴いエアフォース2(副大統領専用機)で中国訪問したとき、中国側はハンターの会社を15億ドルで買い付けることにより、バイデン親子を買収。直後、したたかな中国は外貨準備として保有する米国債をせっせと売却処分に転じた。


結果、21年4月末の中国の米国債保有高は1兆0961億ドルと、ピークに対し17%減少(*)。一方、同期間の米連邦政府の債務残高はなんと64%も膨らんだ(13年11月末:17.2兆ドル→21年4月末:28.2兆ドル)。中国に代わって米国債保有高首位に浮上したのは、貿易黒字ランキング31位(2020年)にすぎない日本。アメリカの債券金融システムがほとんど機能しなくなったなか、FRBはQE4で主に米国債を引き受けるために資金供給を続けているのが実情。


しかし、超大規模緩和に伴う副作用「悪性インフレ」への懸念が強まっている。今年5月の米CPI(消費者物価指数)は前年同月比5.0%上昇と、前の月(同4.2%上昇)から一段と悪化。5月のPPI(卸売物価指数)は食料とエネルギーの価格上昇が響き前年同期比6.6%と、統計を担う米労働省が遡れる2010年以降最悪の高インフレ水準。


過度のインフレは典型的な通貨安要因。さまざまな通貨に対する米ドルの通貨指数”BBDXY(Bloombergドル・スポット指数)”は、6月のFOMC直前には過去5年の最安値圏で低迷していた。が、FOMCの結果発表後の為替市場は、リバースレポ利上げによる資金回収加速でのドル防衛強化を好感。足元の米ドル指数BBDXYは、年初来上昇率2.2%の水準まで大きく反発している(6月21日時点)。


反発後のドル水準を保ち続けるためには、NY連銀のリバースレポによる資金回収だけでなく、FRBのQE4の規模縮小も本格化させることが必要だ。QE4自体の縮小のキックオフは6月7日、FRBが買い取り済みの社債の一部138億ドルを市場で売り始めたとき(FRBの社債売却はQE4縮小の幕開け)。すでにQE対象資産の売却まで踏み切ったFRBは、月1200億ドルの資産買い取りペース(米国債800億ドル+MBS400億ドル)を維持することへの執着を捨てたはずだ。


遅くても10月までに基軸通貨ドルの番人たちは、QE4での資産買い取りペースを重要性の低いMBS(住宅ローン債券)中心に縮小し始めると想定される。そのとき、リバースレポが1兆数千億ドルに達する勢いで吹き上がれば、彼らはドル防衛戦でひとまず勝利できるかもしれない。アメリカの金融政策の手に汗を握る展開は、まだまだ長く続きそうだ。

アナリスト工房 2021年6月21日(月)記事

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*)中国の米国債保有高は、米財務省の月次公表値。